二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

ものの名を唱える(ポエムNO.83)

2012年08月26日 | 俳句・短歌・詩集

利根の河川敷を歩きながら
萩のくれないの 花笑みと出会う。
ヤマトやツバメなど地味なシジミチョウが吸蜜に訪れている。
人間に生まれるのはなく
そこいらの小さなシジミチョウに生まれていたらどうなんだろう?

「中下利根川において、秋彼岸のころ、鮭ののぼらんとするに先だちて、
白蛾おびただしく群し、上流に向かひて飛ぶ。日出でてのち死し水面布の如し。
此(かく)の如き時は当年の漁(すなどり)多きを卜(ぼく)して盛んに漁具を備ふ」
・・・という本の数行に迷いこみ 白蛾というものの名
固有名詞に釘付けになっている。

“はくが”って どんな蛾だろう?
数ページすすんでは またもとにもどる。
版画があり 地図があり 署名がある。
「利根川流域」に生まれ 利根川流域で死ぬ。
この川は関東でいちばんの動脈だったし
いまも変わらず流れつづけている。

きみもぼくも おそらくは“はくが”の一匹で
あっちへ走り こっちへ走り
毎日意味ありげに右往左往している。
利根川が数万年かかってつくり出した平野の一隅を。
そうなのか? そう・・・だからだから
もっと謙虚になるがいい ものの名や地名を唱えて。

川菜 メグスリッパ おみなえし・・・と。
あるいは鬼の舞い 杵歌 小見川 グミ・・と。
ものの名には おもしろいこころの浄化作用がある
って きみ知ってるかな?
一冊の本を読んでいて
ぼくもさっき 気がついたばかりだけれど。

般若心経を読むように ものの名を唱える。
恋やしあわせやむずかしい観念をすべて追い出して
虚心になってつぶやくように ものの名を唱える。
糸桜 小日向 乳房観音 要石・・・と。
そこに風土がつちかった ふるさとという感覚があぶり出される。
ものの名の一つ ひとつ そのつながりの中に。



※引用は岩波文庫「利根川図志」(赤松宗旦著)に拠っています。
※写真は交尾するヤマトシジミ。

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