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今日は老いた父にかわって、菩提寺の眼聖寺へ「迎え盆」に出かけた。
上の写真が、この日の本堂。高野山真言宗の末寺で、檀家300家あまりを抱えているが、住職はおらず、近隣の寺の住職がこれを兼務している。
迎え盆にいくとは、年間供養料をたずさえ、檀家の役員たちに挨拶にいくということなのである。
村の神社はさびれて見る影もないありさまだから、この眼聖寺こそ、地縁・血縁の象徴たる建築物となる。
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これが本尊(大日如来)。
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こちらは同じ寺域の毘沙門堂に祀られた毘沙門天。インド起源の神様で、中国唐の時代に日本に伝えられ、わが国の「八百万の神々」に迎えられたのである。
わたしは小さいながらも農家の長男として、この家系を、つぎの世代へと引き継ぎ、伝承していかなければならない責務を、生まれながらに負っている。父親は10年以上、この寺の総元締めめいた役をひきうけて、ちかごろ引退したばかり。
ふだんめったに顔を合わせない遠縁のご夫婦や、従弟親子と遭遇し、木陰で数分立ち話。
それから、つれ帰った祖父母を仏壇に導き、線香をたて、「盆花」を活けて供養する。
そこまで小一時間あまりだが、かかしてはならない大事な儀礼なのであ~る(^^;)
8月は多くの日本人にとっては、アイデンティティーを確認するための月であろうか。数百万という犠牲者を出した巨大な戦争の「敗戦記念の日」もあるし。
大都市から、故郷へ、故郷へと帰っていくクルマや新幹線の混雑を考えると、いろいろな思いが胸をよぎる。
仕事をもとめて大都市へと流入してはいるけれど、大部分の日本人にとって、そこは魂のとどまる場所ではないのだろう。
詩人谷川俊太郎さんに「朝」というすばらしい詩編があるので、その全編を引用させていただこう。
「朝 」
また朝が来てぼくは生きていた
夜の間の夢をすっかり忘れてぼくは見た
柿の木の裸の枝が風にゆれ
首輪のない犬が日だまりに寝そべっているのを
百年前ぼくはここにいなかった
百年後ぼくはここにいないだろう
あたり前なところのようでいて
地上はきっと思いがけない場所なんだ
いつだったか子宮の中で
ぼくは小さな小さな卵だった
それから小さな小さな魚になって
それから小さな小さな鳥になって
それからやっとぼくは人間になった
十ヶ月を何千億年もかかって生きて
そんなこともぼくら復習しなきゃ
今まで予習ばっかりしすぎたから
今朝一滴の水のすきとおった冷たさが
ぼくに人間とは何かを教える
魚たちと鳥たちとそして
ぼくを殺すかもしれぬけものとすら
その水をわかちあいたい
(詩集「空に小鳥がいなくなった日」より)
《百年前ぼくはここにいなかった
百年後ぼくはここにいないだろう
あたり前なところのようでいて
地上はきっと思いがけない場所なんだ》
ややオーバーにいえば、このさりげない4行は、十数年前に、わたしの生きる方向を変えるだけの威力があった。自分はどこに帰属しているのか、帰属すべきなのか、帰属しなければいけないのか?
・・・それからしばらくたって、わたしは高野山へ登った。
若いころは、無神論者のつもりでいた。高野山での宿泊体験をその後、何年かかかって反芻し、、空海の著作や、中国経由でもたらされた何冊かの仏典、各種入門書、仏教思想に関するあたまの本を読んだりしているうち、遅まきながら「おれはやっぱり仏教徒なのだ」ということに、いわば目覚めていったのであ~る(=_=)
お盆とお彼岸。
このとき、現世に生きる人と、来生のあいだに、眼に見えない橋がかかる。
心から、心へとかかる橋が・・・。
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裏のカリンの木ではセミが鳴きしきっている。
昭和20年の、あるいは数百年前のあの夏と同じように・・・。
五大にみな響き有り
十界に言語(ごんご)を具す
六塵(ろくじん)ことごとく文字なり
(弘法大師空海のことば)