二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

Remember!モーツァルト

2013年02月10日 | 音楽(クラシック関連)

モーツァルトが聴きたくて、今日もBGMには、モーツァルトが流れている。
「名曲名盤300」というクラシックの本には、モーツァルトの“名曲”が40曲ノミネートされて、2位のベートーヴェン、3位のバッハを引き離し、最高の圧倒的人気を誇っている。

だけど、モーツァルトとつあっていると、ここにノミネートされた曲ばかりでなく、ほかにもすぐれた曲が続々と出てくる。
ポリーニでモーツァルトのピアノ・コンチェルト第17番や19番を聴いたとき、そのことを痛感した。モーツァルトは一般的に35年の生涯の中で600曲と少しの音楽を作曲しているとされる。ディヴァルティメントやセレナードを聴いていると「若書き」といわれるころのものにも、すぐれた作品がかなりある。聴きなじんでくると、そういうものに、少しずつ理解がおよぶようになって「おやおや。これもいいじゃないか、うん、こっちも」などと、つい眼移りしてしまうほど(笑)。

ノミネートされた40曲のうち、わたしがまともに聴いたことがないのは、オペラくらいなものかな? いや、宗教曲もたいして聴いてないぞ。まだまだ聴きたい曲はたくさんある。

まだろくすっぽ聴いてないモーツァルトがたくさん待っている。
それを想像すると、心の中にぽっとオレンジ色の電灯が点ったような気分になる。
純粋なモーツァルトのファンなら、わたしがなにをいいたいか、おわかりだろう。ベートーヴェンはこっちが多少身構えないと聴けない部分があるが(だからといって、ベートーヴェンがモーツァルトより劣るとか、そういう意味ではない)、モーツァルトには、そういったベートーヴェン的押しつけがましさは少しもない。

《バッハ、ヘンデルからハイドン、ベートーヴェンを通って、シューベルト、ブラームスらに至るドイツ・オーストリアの音楽の流れの中で、モーツァルトは、いわば扇の要のような位置を占めている。モーツァルトにおいて、ドイツ音楽は、ある特定の民族のものでありながら、しかも世界のすべての民族に向かって開かれた、一つの光明のメッセージとしての芸術になった》(吉田秀和「モーツァルト」講談社学術文庫)

「世界のすべての民族に向かって開かれた、一つの光明のメッセージとしての芸術」

うーん、うまいことをいうなあ。吉田さんはこんな表現をさぐりあてているのだ。

上の写真は、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタのCD2枚と、ボードレール詩集(佐藤朔訳)。モーツァルトのヴァイオリン・ソナタはどなたも推薦してくれる人が見つからないので、聴くのがすっかり遅くなってしまった。
ところが、はじめて聴いたはずの「ヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調 K.304」。
「あれれ、おれはこの曲を知っている!?」
そういう摩訶不思議な経験をしたので、ここに書いておこう。
いったいどこで、どんなふうに聴いたのだろう?
わたしはこの音楽を聴いて、ぽろりと、一粒、二粒の涙を流したことが、たしかにある!
思い出そうとしてみたが、あきらめた。CDはもっていないのに、買ったり借りたりした記憶がないのに、わたしはこのホ短調のヴァイオリン・ソナタを、たしかにどこかで、数回は聴いているのである。
これはいったいどうしたことだろう(^^;)

海外へいく飛行機の機内で、あるいはラジオかテレビで、はたまたホテルのロビーや大型書店のBGMで、耳に入ってきたのを、うろ覚えに覚えている。
そう考えるより仕方ないが、軽い目眩のような不思議な体験となった。
こんな悲嘆の音楽は、一度心に沁みこんだら、もう決して忘れはしない。忘れることができない。
写真のディスクはウェストミンスター復刻盤で、ヴァイオリンはワルター・バリリ、ピアノはパウル・バドゥーラ=スコダ。
音色に少し艶けしをほどこしたような曇りがかかっている。
やさしくて、うっすらしたすみれの香りのようなものが感じられる。現代の名演のようにクリアで、うますぎる演奏からは味わえない、ウェストミンスターならではの(といっても12、3枚しか聴いていないが)優雅さと落着きがある。

結局のところ、わたしはこういう時代の音楽と演奏が好きなのだなとナットクする。
それにしても・・・。この耳はヴァイオリン・ソナタ第28番ホ短調をどこで覚えたのか?
ずっと昔、図書館かどこかで借りてきて聴いたのだろうか?

Remember! Remember! Remember!
ボードレールもそういっている。それに小林秀雄さんも。
「上手に思い出すこと」と。それが肝要なのだね。

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