記憶の底にわだかまるおもちゃ箱をひっくり返す。
クラッシュするスコアボード。
フラスコの中のたてがみのない透明な馬。
垂直にのびるヒコーキ雲。
マスタードの味がするトラックのヘッドライト。
捨てられない奇妙ながらくたが飛び出してくる。
あれはなに?
なんだろう。
真っ白いまな板のうえで影絵のモーツァルトがお辞儀している。
まぶたの裏でコオロギが鳴き
鮎が数匹跳ねる 跳ねる。
見えるのにそこにないもの。
見えないのにそこにあるもの。
手さぐりで歩く。
歩いてはきみは立ち止まる 胸騒ぎの
まっただ中で。
ああ
こ
れ
は
「あれだ!」なーんて叫んでは立ち止まる。
闇夜の奥でカラスが鳴き騒ぐ。
きみ自身がそのおもちゃ箱の住人なんだね。
それなら筋が通っている。
つじつまのあわないものばかりでできた過去と
このさきどうつきあったらいいのか
寄せ返すエロチックな波がきみの脇腹をくすぐる。
見えるのにそこにないもの。
見えないのにそこにあるもの。
名づけられない存在が空の高みでマストのようにはためき
ものはものと闇夜の底で密会する。
さあ
おとといの塀ぎわまでもどって「あの日」のきみを探すんだ。
コオロギのように動きまわる夢のかけらを追いかけて。
※写真と詩のあいだには直接的な関連はありません。