二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

時代小説から見えてくる昭和のエートス(2) ~ドル箱的ロングセラー

2024年02月16日 | 小説(国内)
   (「御宿かわせみ読本」に付された関係図からコピー)


御宿かわせみは大川端にある。
永代橋の対岸が深川であり、そこに長寿庵というそば屋がある。この時代設定と背景が、本シリーズの成功の秘訣だろう。
全篇を6回も読みなおしたという豪傑がいるようである。わたしの友人の奥さんも、2回読み返し、お気に入りの作品を、また読むといっていた。
「蓬田やすひろさんの挿絵がいいのよ♪」と。

どちらかといえば、女性ファンが多いかもね。庄司るいの応援団が、作者平岩弓枝さんに、注文をつけることがあったらしい。福島県の飯坂温泉には「御宿かわせみ」という、じっさいの旅館まで存在する。
1.初春の客
2.花冷え
3.卯の花匂う
4.秋の蛍
5.倉の中
6.師走の客
7.江戸は雪
8.玉屋の紅

第1巻はこの8編。最初の一編をのぞき、まずまずの無難な仕上がりであろう(^ε^)
「秋の蛍」と「玉屋の紅」を読んで感心し、旧版しかなかったものも、新装版14冊あまり買いそろえた。
かつて、「御宿かわせみ」は8-9冊読んでいるし、女優高島礼子または真野響子さんのNHKのドラマも、けっこう夢中になって観ていた。
少々長くはなるが、この名シーンを引用しておこう。

《ほろ酔いで、東吾は庭下駄をはいた。
「かわせみ」の庭は、そのまま大川端へ続いている。部屋から大川が見渡せるのが、この宿の御馳走でもあった。
蛍は、よく光っていた。庭の小さな流れのふちにも、堤の草のかげにも。
東吾について、るいも出てきた。
「るい、動くなよ」
るいの髪に光っている蛍をみつけて、東吾が近づいたとき、ふと、頭上で障子のしまる音がした。二階の部屋である。ちらと娘の白い顔をみたような気がして、東吾は訊ねた。
「ちどりの間です。お糸さんですよ」
るいが答えた時、大川を舟が下って来た。酒樽を積んでいるところをみると、どこからの酒問屋の持ち船でもあろう。二艘が前後して、屈強な男が竿をさしている。舟足は早く、みるみる中に、夜に融けて去った。》(「秋の蛍」133ページ)

現代のわれわれには考えられないように、ゆったりと、時がながれてゆく。大川端の舞台は大成功をおさめた。当時の江戸やその周辺に生きた庶民の息吹が、彷彿とするのはわたしばかりではあるまい。
どうでしょう、ステキな幸福論ではありませんか!?
それが現代にそのまま通用するのだから、本編のファンは、男なら神林東吾、女なら庄司るいに感情移入し、喜怒哀楽の波間をただよう。お吉や嘉助など脇役がいいし、定回り同心畝源三郎もたのもしい存在。

この歳で読みなおすのはいささか辛い気がするが、とりあえず人気の「白萩屋敷の月」「岸和田の姫」「祝言」あたりまでは読みたいと思っている。
いずれにせよ、「鬼平犯科帳」と「御宿かわせみ」は文春文庫のドル箱的ロングセラーである。ほかに・・・ええっと、これらに匹敵する作品があったかしら?


   (わたしは女優では高島礼子さんのイメージが強い)




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