二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

蒼穹の秤(ポエムNO.2-55)

2015年05月17日 | 俳句・短歌・詩集
蒼穹の真ん中に途轍もなく大きな秤があってね。
それがなにかをきっかけにバランスを崩す。
東から西へ あるいは西から東へ
いろいろなものがすべり落ちていく。
使いかけの真っ赤な口紅
皺だらけになっただれかの 青いTシャツ
シロスジカミキリの銀色の死骸。
そして要人をのせたアイボリーホワイトの大型帆船などが

ぼくのあたまにごみとなって降りそそいだり
さっき紅茶を飲むのに使ったシュガーポットを砕けたガラス片に変える。
どれもがぼくの過去をにぎわせていた記憶の中のアイテム。
風の向こう側からどよめきが聞こえる。
神々の・・・ではなく
いや そうかもしれないが
競技場でサポーターが騒いでいるだけなのかもしれないな。

そこいらにまき散らされたガラス片で
足裏がときおりチクチクと痛い。
・・・痛い。
カメラをかまえると レンズの外の景色が眼に痛いのだ。
それはまったく まったく不思議な現象。
もう一人のぼくが 自分がフォトグラファーだったことを思い出してなにか叫ぶ。
ピカソの絵のしかめ面をした人物のように。

ああ 秤の皿の上にはたくさんのものが置いてあったさ。
青猫のしっぽだってあった。
少年時代に大切にしていた・・・。
「あんなこと」と「こんなこと」が
このあいだまではうまくバランスをとっていたのに。
あのときのぼくには帰れないだろう
きみに再会することもないだろう。

またお会いしましょう また。
そういって何人かの友人や恋人と別れてきた。
あさっての方角から氷のように冷たい風が吹いて
・・・吹いて
ぼくはあわてて襟元を掻き合わせる。
まだ 真夏だというのに。
まだ アルチュール・ランボーのいう永遠には手がとどかないというのに。

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