二草庵摘録

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シリアスな復讐の物語 ~ドイルの「四人の署名」を読む

2023年11月25日 | ミステリ・冒険小説等(海外)
■コナン・ドイル「四人の署名」深町眞理子訳(創元推理文庫 2011年刊)


おやおや、「緋色の研究」につづきまた復讐譚ですか、ドイルさん・・・といってみたくなった(*^。^*)タハハ
初期のドイルを確認したくて、再読のエンジンがかかった。
「緋色の研究」1887年
「四つの署名」(四人の署名)1890年
「シャーロック・ホームズの冒険」1892年 短編集)

テムズ川を、高速艇(当時の)で追いつ追われつの追跡シーンはうろ覚えながら記憶にあった。それとインド、インド人がからんでいたなあといったことくらいは。
以前読んだのは高校の終わりころだったか、それとも20代になってからだったか?

アグラ周辺が出てくるが、わたしはアグラはいったことがある。というか、インド3都巡りの旅で一泊したのだ。
建築物として最高に美しいイスラム寺院、タージマハルをこの目で見たくて。

イギリスのインド支配は、最初は東インド会社が行っていたが、1877年以降はイギリスの君主がインド皇帝を兼ねる同君連合となった。実質は大英帝国の植民地。インド連邦として独立を果たすのは第2次大戦後の1947年のことである。
ドイルが「四人の署名」を書いた1890年には、インドはイギリスの統治下にある。英国人にとって、巨大なインドは大いなる闇の帝国だったのだ。

本編にも重要な歴史的事件として“セポイの反乱”が登場する。
ドイルのいたころは、いうまでもなく世界帝国として君臨していたのだ。そういった時代背景に基づいて、イギリス人ドイルは、本編をつくり出した。


   (ドイル傑作集 延原謙訳新潮文庫)

延原謙訳の「ドイル傑作集」は、
1.ミステリー編
2.海洋奇譚編
3.恐怖編
・・・の3つに分けて編集してある。

《自らの頭脳に見合う難事件のない日々の退屈を、コカインで紛らわせていたシャーロック・ホームズ。そんな彼のもとに、美貌の家庭教師メアリーが奇妙な依頼を持ちこんできた。父が失踪してしまった彼女へ、毎年真珠を送ってきていた謎の人物から呼び出されたという。不可解な怪死事件、謎の“四の符牒”、息詰まる追跡劇、そしてワトスンの恋…。忘れがたきシリーズ第2長編。》BOOKデータベースより

残念ながら、「四人の署名」は二つに分裂している。
第11章「おおいなるアグラの財宝」までの章と、第12章「ジョナサン・スモールの世にも奇態な物語」が、かなり強引に結びついているのだ。普通なら失敗作である。
処女作の「緋色の研究」では第1部、第2部と分かれていた。
本編では227ページのうち、49ページをこの最終章が占めている。

引用は控えておくが、本編はシャーロック・ホームズがコカインの皮下注射を打っている、少々ショッキングなシーンから幕を開ける。このあたりは、昔から物議をかもしたシーンといっていいのだろう。
ところが一ヵ所だけ、おもしろいことばがあったので、こちらのみ引用しておこう。

《「かのウィンウッド・リードが、その点ではうまいことを言ってる」とホームズ。「“個々の人間が解きがたい謎であるのにひきかえ、集団としての人間は、一個の数学的確率となる”ってね。たとえばの話、あるひとりの人間がどういう行動をとるかはぜったいに予測不可能だが、対象が平均的な多数になれば、それもぴたりといいあてられる。個体は多種多様だが、平均値はつねに一定であるというわけさ」》(158ページ)

シャーロック・ホームズの洞察力は、こういった場面でたびたび披歴される(´Д`)
最終章までは、どちらかといえば合理的に、探偵としての推理力をはたらかせ、外部からの観察だけでは不可解なとしかいえない奇怪な事件を解決にみちびいてゆく。
トービーという犬を犯人追跡のために用いたり、浮浪児の集団ベイカーストリート・イレギラーズが活躍したりと、数か所見せ場はある。
ホームズの合理的な推理に感心するのは、同居人ワトスンばかりではない。
多少飛躍して、理論と事実が相反する場合がときどき起こったりするが、ホームズはそれを、ワトスンのせいにしている(^^;;)

麻薬をうつ、ヴァイオリンを弾く、わけのわからない化学実験をやる等々は、作者ドイルが行った味付けである。それによって、ホームズが“名探偵”として神秘化され、読者を煙に巻く仕掛けとなる。
あとはすっかり忘れていたが、サブテーマとして、ワトスンのラブストーリー(彼は惚れっぽい)が、全編にわたって“華”を添えていますな。これもエンターテインメントとしてのテイストを、ドイルが意識していた証拠。

久々に読み返し、全編通して見た場合、構成上二つに視点が割れてしまったと感じざるを得なかったので、低評価となる。
ロクなお手本がなかった黎明期ミステリ、よく健闘してるよと称えるファンもいるだろう。だけどシャーロック・ホームズものの真価は、やっぱり短篇集にあり・・・ですね♬



評価:☆☆☆

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