(新版・旧版表紙の違い。文字の大きさは同じ)
■「ミッドナイト・ブルー ロス・マクドナルド傑作集 」小鷹信光訳(創元推理文庫2013年復刊フェア。初版は1977年刊)
復刊フェアの一冊、本書「ミッドナイト・ブルー ロス・マクドナルド傑作集 」は、文字がいくらか大きくなったと思って買った。しかし、岩波の復刊フェアといっしょで、変わったのは表紙のみ。
それでもかろうじて老眼にも読めるレベルである。
本書にはつぎの5短編と評論1篇が収録されている。
1.女を探せ
2.追いつめられたブロンド
3.ミッドナイト・ブルー ◎
4.眠る犬
5.運命の裁き 〇
6.主人公(ヒーロー)としての探偵と作家
(※ ◎〇印はわたしがつけたもの)
これらを一口でいうとすれば、銃社会に生きる孤独な人間たちの銅版画ということになる。
銃社会とは、アメリカのこと。
人が殺され、血なまぐさいにおいがたちこめている。
身長 6フィート2インチ(1フィートは約30.48センチ)
体重 190ポンド(1ポンドは約0.453キロ)
独身
私立探偵・リュー・アーチャー
ロサンゼルスに住み、どこへ出かける場合でも拳銃を携えている。
彼がゆくところ、“孤独な宿命のブルース”(権田萬治)が響いてくる。
《ハメット、チャンドラーを継ぐハードボイルド派の巨匠ロス・マクドナルドの中、短編における才華を集めた。収録作品は、「女を探せ」「追いつめられたブロンド」「ミッドナイト・ブルー」「眠る犬」「運命の裁き」の全五編、それに評論「主人公としての探偵と作家」を併載したハードボイルド・ファン必読の全一巻傑作コレクション。》BOOKデータベースより
わたしの独断と偏見によれば、短編5篇の中では、「ミッドナイト・ブルー」と「運命の裁き」(解説の小鷹信光さんによると長篇「運命」はこれが基になっているらしい)がすぐれている。
《探偵小説の近代における発展はボードレールに端を発しているという仮説を、かつてわたしは主張したことがある(アンソニー・バウチャーも不賛同ではなかった)。わたしが問題にしたのは彼の“ダンディズム”と、都市をこの世の地獄とみなす洞察力だった。》(「主人公としての探偵と作家」292ページ)
《義務として負わされた作法上の“タフな”見せかけの下で、興味あることにマーロウはブラック・マスク出身の標準的なハードボイルド・ヒーローと一線を画している。主人公の感受性に焦点をしぼっているチャンドラーの小説は、感受性の小説と評してもよいほどだ。どの作品にも通じる主題は、大都会の孤独であり、腐敗した社会のもっとも粗野な要素と闘う感受性豊かな男の屈折した苦痛である。》(「主人公としての探偵と作家」297ページ)
端的にいわせてもらうと、本書は非常におもしろかった。
ポケミスでかつて「犠牲者は誰だ」を読んだときの感動が蘇ってきた。
《どの作品にも通じる主題は、大都会の孤独であり、腐敗した社会のもっとも粗野な要素と闘う感受性豊かな男の屈折した苦痛である。》
フィリップ・マーロウを評したこのことばは、そのままロス・マクドナルドに適用できる。彼はたいへん自覚的な作家なのだ。
本書に収録された「主人公(ヒーロー)としての探偵と作家」は、彼がなぜハードボイルドを書くのかを鋭く抉っていて見事である。
「ミッドナイト・ブルー」と「運命の裁き」は、短編だが、ずしりとした重みを感じさせる作品に仕上がっている(。-ω-)
どれも、陰惨な犯罪と、肉親間の愛憎劇に染められている。
あれよあれよと読みすすめてしまう。どうしてこんなにロス・マクドナルドに引きずられるのだろう。ハメットやチャンドラーとの比較でいえば、この人の作品はディテールまでしっかりと神経が通っていて、明晰である。
主人公の私立探偵リュー・アーチャーについて歩いてゆくと、複雑な肉親間の愛憎劇に巻き込まれて、最後はどうなるのかと、やきもきしながら見届けたくなる。銃社会(そしてクルマ社会でもある)に生きる孤独な人間たちの銅版画は、もちろんモノクローム。美しいのは南カリフォルニアの風光で、こちらはなかなか色彩豊か。
年がら年中こんな陰惨な物語を読みたくなるわけではないが、ときおり“孤独な宿命のブルース”に耳をすますのもいいだろう。
ロス・マクドナルドは、いわば傑出したギター弾きである(ノω`*) ハメットやチャンドラーとは違った明晰な音楽を聴かせてくれる。
アメリカは人種の坩堝であり、銃社会クルマ社会なのだ。
日本人同士なら“話せばわかる”のかも知れない。しかし、話してもわからないから、銃の出番となる。
上流階級にスキャンダルはつきもの。アーチャーは所詮金で雇われた私立探偵である。
だれもが孤独なのだが、それを知っているのは人間だけ。
・・・悲哀が胸にしみる。
(ハヤカワ・ミステリ文庫の新版は文字が大きくなっている)
(手許にあるポケミスのロス・マクドナルドの3冊)
評価:☆☆☆☆☆
■「ミッドナイト・ブルー ロス・マクドナルド傑作集 」小鷹信光訳(創元推理文庫2013年復刊フェア。初版は1977年刊)
復刊フェアの一冊、本書「ミッドナイト・ブルー ロス・マクドナルド傑作集 」は、文字がいくらか大きくなったと思って買った。しかし、岩波の復刊フェアといっしょで、変わったのは表紙のみ。
それでもかろうじて老眼にも読めるレベルである。
本書にはつぎの5短編と評論1篇が収録されている。
1.女を探せ
2.追いつめられたブロンド
3.ミッドナイト・ブルー ◎
4.眠る犬
5.運命の裁き 〇
6.主人公(ヒーロー)としての探偵と作家
(※ ◎〇印はわたしがつけたもの)
これらを一口でいうとすれば、銃社会に生きる孤独な人間たちの銅版画ということになる。
銃社会とは、アメリカのこと。
人が殺され、血なまぐさいにおいがたちこめている。
身長 6フィート2インチ(1フィートは約30.48センチ)
体重 190ポンド(1ポンドは約0.453キロ)
独身
私立探偵・リュー・アーチャー
ロサンゼルスに住み、どこへ出かける場合でも拳銃を携えている。
彼がゆくところ、“孤独な宿命のブルース”(権田萬治)が響いてくる。
《ハメット、チャンドラーを継ぐハードボイルド派の巨匠ロス・マクドナルドの中、短編における才華を集めた。収録作品は、「女を探せ」「追いつめられたブロンド」「ミッドナイト・ブルー」「眠る犬」「運命の裁き」の全五編、それに評論「主人公としての探偵と作家」を併載したハードボイルド・ファン必読の全一巻傑作コレクション。》BOOKデータベースより
わたしの独断と偏見によれば、短編5篇の中では、「ミッドナイト・ブルー」と「運命の裁き」(解説の小鷹信光さんによると長篇「運命」はこれが基になっているらしい)がすぐれている。
《探偵小説の近代における発展はボードレールに端を発しているという仮説を、かつてわたしは主張したことがある(アンソニー・バウチャーも不賛同ではなかった)。わたしが問題にしたのは彼の“ダンディズム”と、都市をこの世の地獄とみなす洞察力だった。》(「主人公としての探偵と作家」292ページ)
《義務として負わされた作法上の“タフな”見せかけの下で、興味あることにマーロウはブラック・マスク出身の標準的なハードボイルド・ヒーローと一線を画している。主人公の感受性に焦点をしぼっているチャンドラーの小説は、感受性の小説と評してもよいほどだ。どの作品にも通じる主題は、大都会の孤独であり、腐敗した社会のもっとも粗野な要素と闘う感受性豊かな男の屈折した苦痛である。》(「主人公としての探偵と作家」297ページ)
端的にいわせてもらうと、本書は非常におもしろかった。
ポケミスでかつて「犠牲者は誰だ」を読んだときの感動が蘇ってきた。
《どの作品にも通じる主題は、大都会の孤独であり、腐敗した社会のもっとも粗野な要素と闘う感受性豊かな男の屈折した苦痛である。》
フィリップ・マーロウを評したこのことばは、そのままロス・マクドナルドに適用できる。彼はたいへん自覚的な作家なのだ。
本書に収録された「主人公(ヒーロー)としての探偵と作家」は、彼がなぜハードボイルドを書くのかを鋭く抉っていて見事である。
「ミッドナイト・ブルー」と「運命の裁き」は、短編だが、ずしりとした重みを感じさせる作品に仕上がっている(。-ω-)
どれも、陰惨な犯罪と、肉親間の愛憎劇に染められている。
あれよあれよと読みすすめてしまう。どうしてこんなにロス・マクドナルドに引きずられるのだろう。ハメットやチャンドラーとの比較でいえば、この人の作品はディテールまでしっかりと神経が通っていて、明晰である。
主人公の私立探偵リュー・アーチャーについて歩いてゆくと、複雑な肉親間の愛憎劇に巻き込まれて、最後はどうなるのかと、やきもきしながら見届けたくなる。銃社会(そしてクルマ社会でもある)に生きる孤独な人間たちの銅版画は、もちろんモノクローム。美しいのは南カリフォルニアの風光で、こちらはなかなか色彩豊か。
年がら年中こんな陰惨な物語を読みたくなるわけではないが、ときおり“孤独な宿命のブルース”に耳をすますのもいいだろう。
ロス・マクドナルドは、いわば傑出したギター弾きである(ノω`*) ハメットやチャンドラーとは違った明晰な音楽を聴かせてくれる。
アメリカは人種の坩堝であり、銃社会クルマ社会なのだ。
日本人同士なら“話せばわかる”のかも知れない。しかし、話してもわからないから、銃の出番となる。
上流階級にスキャンダルはつきもの。アーチャーは所詮金で雇われた私立探偵である。
だれもが孤独なのだが、それを知っているのは人間だけ。
・・・悲哀が胸にしみる。
(ハヤカワ・ミステリ文庫の新版は文字が大きくなっている)
(手許にあるポケミスのロス・マクドナルドの3冊)
評価:☆☆☆☆☆