二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「動的平衡」福岡伸一著(木楽舎)

2010年10月30日 | エッセイ(国内)
読みおえたのは4、5日前だが、レビューを書く時間がとれなかった。時間がたつにつれ、どんどん印象がうすれていく。
わたしとしては、久しぶりに、新刊で買った本となる。

2008年の4月に、福岡先生のベストセラー「生物と無生物のあいだ」を読んで、レビューをアップしている。評価は4.5だったけれど、とにかく、無条件におもしろかった。
http://blog.goo.ne.jp/nikonhp/e/c7faf7482ea98709336374ab7e244f20
遺伝子の組み換えや、ES細胞の研究など、分子生物学の最先端技術については、新聞やTVで、ときおり華々しく報道され、まったく文化系人間のわたしすら、
今後どういった画期的な技術がこの21世紀を切り拓いてくれるのか、かたずをのんで見守っているくらいなのである。

ところが、続報はあまり見受けられない。
あの画期的な生物学的発見は、その後、どうなったのだろう?
福岡先生は、なにかおもしろい本を出してくれないものだろうか。
そんなことを考えていたら、2冊の本が、大型書店の棚に置いてあった。
「動的平衡」
「ルリボシカミキリの青」

どっちも欲しくなったけれど、とりあえずこちらを買ってきて、2日間で読みおえた。動的平衡とは、生命現象の定義のこと。
福岡先生は「生命とはなにか」に一貫してこだわっていて、そこで研究されているきわめて専門的な最先端の諸問題を、わかりやすく翻訳してみせる表現力をもっている。いくつかあるキーワードのうち、「ダイナミック・イクイリブリアム(動的平衡)」は、その中心的なものであって、生命とは、ダイナミック・イクイリブリアム(動的平衡)にあるシステムのことなのである。

「読んだら世界がちがってみえる」と、本にそえられた帯に書いてある。ひとくちでいえば「生物と無生物のあいだ」の続編。
人間を細胞レベルで考えると、時間の経過によって、たえまなくこわれ、また生成されていく。1年前のあなたとは、ちがった細胞がそこにある。分子まで降りていって考えると、1年前のあなたと、いまのあなたは別人・・・ということになる。
だから、こういう表現が真実味をもってくるのだ。

汝とは「汝の食べた物」である

なるほど、いわれてみれば、その通りとうなずかざるを得ないだろう。
「第5章 生命は時計仕掛けか?」
「第6章 ヒトと病原体の戦い」
「第7章 ミトコンドリア・ミステリー」
「第8章 生命は分子の『淀み』」

どの章も見事な切り口で、読者を振り返らせ、深い思索へと導かないではおかない。
われわれ生命にとって、時間とはなにか?
物理学者アインシュタインとは別角度から、現代の生物学者は、この難問と格闘しているようだ。
本書は意図せずして(いや、意図して)、現代の社会に、深刻な警告を発している。読みおえて、そのことがずしりと胸に応えた。宇宙船地球号に乗り合わせた多くの生命たちにとって、危機的な状況はますます深刻化している。福岡先生には、それがもっと具体的に、ありありと見えているのがわかる。けっして声高にではなく、静かに、謙虚に、ことばをかえては、生物学者が鳴らす警鐘が語られている。

傲り高ぶるな。
人々よ、耳をすませ。
なにが聞こえてくるのか・・・。


評価:★★★★★

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