オビディエンスの選考会に行こうと決めたのは、2月の始めだった。
12月には、もうやめてしまおうかと思うほど何もかもが上手くいかなかった。
11月にちょうど欧介が亡くなって半年が経った。
蒼太との競技生活も終わりに近づいてきてることを感じていた。
ここ数年、失ったものが多かった。
私の周りから大切なものが少しづつ消えて離れていく恐怖感。
否応無く、自信が揺らいだ。
心のどこかが潔く「諦めろ」という。
「諦めたくない」そう思うことさえ、なんとみっともないことなんだと思うのだ。
気持ちを立て直せない自分が情けなかった。
いつからか、蒼太の足りないところばかりを見ていた。
ある日、いつか終わりが来るなら、彼のいいところを大切にしたいと思った。
脚側行進でお尻の落ちが悪いことばかりにとらわれて、
楽しそうにピョンと飛んでから歩き出すことも「だからダメなんだ」って思ってた。
蒼太が走ると興奮して、指示が聞けなくなってしまうことも、
興奮を抑えることばかりを考えていた。
私が変わらなければ何も変わらないと気づいた。
お尻が落ちなくて減点されても、蒼太が楽しそうに歩いてくれるならそれでいい。
興奮するくらい楽しんでやってくれるなんて「素晴らしい」と思うことにした。
選考会に行くなら、蒼太が楽しんでできるようにサポートしよう。
彼がジャッジを怖がらないように、失敗を感じなくて済むように。
当日私は何をしてどういう精神状態でいればいいのかを考え続けた。
今までの経験を一つ一つ思い出し、その時の気持ちをもう一度感じてみた。
4度続けて決定戦を戦った時のこと。
OPDESのアジリティーの選考会に行った時のこと。
私と蒼太は、数々のギリギリの状態を経験してきたことを思い出した。
どんなときも、諦めなかった。
何度負けても、持てる力を出せたとき、力及ばずとも悔いはなし。
私たちの経験はきっと力になる。
自分を整えることができたとき、選考会に申し込みをした。
当日の朝は綺麗な朝焼けだった。