前回記事まで3回連続でブルサ近郊の温泉街チェキルゲの温泉浴場を取り上げてまいりましたが、実際に3軒立て続けでハシゴをしたわけではなく、湯疲れ防止の休憩を兼ねて、お風呂とお風呂の間に、観光を挟んだり食事を摂ったりと、入浴以外でもブルサの街を楽しんでおります。前々回記事で紹介した「イェニ・カプルジャ」で入浴した後、食事をするついでにブルサの街中へ出て、ブラブラ散策してみることにしました。
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「イェニ・カプルジャ」の1ブロック北側には幹線道路のムダンヤ通り(Mudanya Cad.)が東西に伸びており、ブルサライという電車の線路が道路と一体になって敷設されています。中央の線路を複数車線の幹線道路が挟むこむというスタイルは、大阪の新御堂筋のようですね。ブルサライとは、都心部では地下鉄として地面の下へ潜り、それ以外の区間では地上を走行する、地下鉄と近郊電車を兼ねたような交通機関です。ネット上で調べてみますと、イスタンブールからフェリーでブルサへアクセスする場合は、ブルサ側の港からこの電車のお世話になることが多いようです。このブルサライに乗って都心部へ向かいます。
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「イェニ・カプルジャ」の最寄り駅は、徒歩約5分のキュルテュルパルク(Kültürpark)駅です。幹線道路のアンダーパスを兼ねた地下の駅構内に入って券売機を探しますが、窓口しか無いので、職員から直接チケットを購入しました。運賃は乗車区間を問わず1回につき3.00リラで、このチケットはブルサライのみならず、トラムなどでも有効なんだそうです。チケットを券面の矢印方向へ改札機に挿入し、磁気データを読み取った機械が吐き出したチケットを再び手にとって、回転バーを前へ押せば入場することができますが、日本の自動改札機に比べると改札機の反応が鈍く「あれ、チケット呑み込まれちゃったかな」と不安になってしまうほどです。
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ホームに上って4~5分で電車がやってきました。2両編成を3本連結させて6両編成にしており、車両自体もコンパクトで、江ノ電や広島電鉄のような、ライトレールに近いタイプです。なお私が乗車した車両はドイツ・シーメンス製でしたが、一部はボンバルディア製もあるんだとか。
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都市部に入ると地下へ潜ります。キュルテュルパルクから2駅目のオスマンガーズィー駅で降りてみました。駅前にはトラムが走っているのですが、反時計回りのみの環状運転で、本数も大して多くなく、それでいて妙に混んでいたので、今回は利用していません。
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オスマンガーズィー駅前広場で行列を発見。何を目的に並んでいるのかと興味津々で列の先を覗いてみたら、そこでは白衣のお兄さんが大きな鍋から豆のスープを掬って、みなさんに配っていました。これってどんな意味合いがあるのかな。炊き出し的なものではないんでしょうけど。
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スープの配布を見ていたら私もお腹が空いてきたので、駅前にあるカフェテリア式のロカンタ(食堂)でランチ。ほうれん草の煮込みとジャガイモ・チキンの煮込みを半人分ずつ。
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食後はオスマンガーズィーからドルムシュに乗って、街の中心部であるヘイケル方面へ向かいます。ドルムシュとは、行き先が決まっている乗り合いタクシーみたいなもので、ごく普通の乗用車の上に、行き先や経由地が記された行灯が載っかっており、一定人数の客が乗り込んだら出発してくれる乗り物です。街中には行き先とともに「D」と記された標識が立っているドルムシュ乗り場があるほか、希望する方向の車が来たら、手を上げて乗せてもらうこともでき、運転手に言えば途中で降りたり寄り道をお願いすることも可能で、かなり融通がききます。料金は一律で、私がブルサで乗ったドルムシュは、いずれも2リラでした。台数が多く、料金も安いので、ブルサの移動にドルムシュはとっても便利。
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ドルムシュがアタチュルク通りに入って中心部に近づくにつれ、渋滞がひどくなってちっとも動かなくなったので、他の客が降りた場所で私も一緒に降りてみたら、そこはブルサのランドマークとでも言うべき「ウル・ジャーミー(Ulu Camii)」(大モスク)のちょうど正面でした。せっかくですから、この大きなモスクを見学することに。
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ひっきりなしに出入りする人々の後について、何の予備知識も持たずにモスクへ入館したのですが、一歩踏み込んだ途端、荘厳かつ華美な雰囲気に圧倒されました。15世紀に完成した歴史ある建物なんだそうでして、白亜の柱や壁にはアラビア文字のカリグラフィが施されており、天井には20個ものドームを戴いているんだとか。ところどころに嵌められたステンドグラスも実に繊細で美麗です。
中央にはお祈りに際して体を清めるための大理石の大きな泉が設けられており、訪問時にも世代を問わずに次々に男たちがやってきて、水で自らを清めていました。手ぶらでやってきてもお祈りできるよう、泉の傍に大量のタオルが用意されているところは素晴らしい。
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敬虔な信者たちが床に跪いて熱心に祈祷中。
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ちなみに夜の「ウル・ジャーミー」はこんな感じにライトアップされるのですが、このライトはグラデーションを為しつつ次々に変色するため、パープルになったり、赤くなったり、真っ白くなったりと、ジャーミーの外壁は落ち着きなく色を変えてゆきます。この手の変色するライトはトルコのあちこちで見られたので、おそらくトルコでは変色するライトアップが好まれるのでしょう。
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「ウル・ジャーミー」の裏手一帯はバザールが広がっており、ブルサ中の人が集結しているんじゃないか思うというほど大変な人混みです。衣料品店が多く、特に刺繍や絹織物を扱う店が多いようでした。このバザールから東に向かって伸びるアーケードを進んでみることに。アーケード内には装飾品関係のお店が並んでいましたが、私には縁遠い世界ですので、ちらっと一瞥するだけで先へ急ぎます。
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途中再び人混みの凄い箇所があったので、人の流れに身を任せてゆくと、「コザ・ハン(Koza Han)」と称する一角に行き当たりました。どうやらここにはかつてキャラバン(隊商)宿があったそうですが、その事実を知ったのは帰国後のこと。2階建ての店舗街が中庭を囲んでおり、その中庭のチャイハネ(カフェ)では多くの人びとがお茶を飲んで一息入れていました。ブルサでも常に賑わっているスポットのひとつであり、衣料品店や雑貨屋さんが多いので、お土産入手にはもってこい。
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「コザ・ハン」やその前の噴水広場を抜けて、再びアタチュルク通りに戻って東へ進むと、広場にアタチュルクの銅像が立つ中心部「ヘイケル(Heykel)」に至りました。広場の周りには行政庁舎や銀行などが建ち並び、いかにも都市の中心部らしい景観なのですが、街歩きとしては面白みに欠けるので、この大通りから適当に路地に入り、敢えて迷子になってみることにします。
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中心部から離れるに従い、人数が少なくなって商店もおとなしくなり、生活感溢れる庶民的な街並みへと徐々に変貌してゆきます。商店街が尽きたところの角では、店頭に大きな鋸盤をのぞかせている職人さんのお店を発見。表の壁には細長い材木が何本も立てかけてあったのですが、何のお店かな。
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お天道さまが上がっている方角を確認しながら路地を東へ東へと歩き、川を越えて大きな通りを横切り、坂道を上へ上へと登っていたら、いつの間にやら、ブルサの観光名所である「イェシル・ジャーミー(Yeşil Camii)」へと辿り着いていました。行き違う団体客はドイツ語や英語を話していたので、海外からの訪問客も多いのでしょう。
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ブルサの街の高台に位置しているため、ここからの見晴らしが素晴らしく、白い壁の上に赤い屋根を戴く民家が視界いっぱいに広がり、彼方の小高い丘の上には別のモスクのドームとミナレットが目立っていました。また境内には人懐っこいニャンコが数匹ウロウロしており、こいつらがとってもかわいくて、撫でてやると喉をゴロゴロ鳴らして恍惚の表情を浮かべていました。
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「イェシル・ジャーミー」は15世紀に建てられたブルサを代表するモスクのひとつ。さすが観光名所になるだけあって、内部に貼られた青みの強いコバルトグリーンのタイルは息を呑む美しさ。また壁に施されたカリグラフィや繊細な装飾にも感心。
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ジャーミーその向かいには、寺院の付帯する霊廟「イェシル・テュルベ(Yeşil Türbe)」も隣接しています。名前を英語に訳すると"Green Tomb"つまり翠のお墓となりますが、その名の通り、外観や内部が鮮やかなターコイズブルーで占められており、館内に安置されたメフメト1世やその一族の棺までも、綺羅びやかなターコイズブルーのタイルで装飾されています。これだけ棺がいくつも安置されていれば、お化けの一つや二つも出ておかしくありませんが、これほどまで絢爛豪華で色鮮やかだと、おどろおどろしい雰囲気が微塵も感じられず、幽霊の現れる隙が無さそうですね。
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ブルサ発祥のグルメといえば、いまやトルコ全土で当たり前のように食べることのできるイスケンダル・ケバブですが、このイスケンダル・ケバブを生み出した元祖の店がヘイケル付近にありますので、日が暮れて観光や温泉のハシゴでエネルギーが欠乏しかけた時間帯に、そのお店へ赴いてみました。その名もズバリ「イスケンダル」。通りからは厨房の様子も窺えます。
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イスケンダルとは創業者の名前なんだそうで、テーブルのガラス天板の下に敷かれた紙には、創業者から現在に至る家系図が肖像とともに印刷されていました。このお店のメニューは単純で、イスケンダル・ケバブの1人前・1.5人前・2人前と、数種類のソフトドリンクがあるだけ。イスケンダル・ケバブ一本で勝負しているということは、それだけ元祖としての誇りと自信があるのでしょうか。
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私が注文したのは1.5人前。目の前に提供されると、ジュワジュワと音を立てながらアツアツに溶けた液状バターを上から掛けてくれます。そもそもイスケンダル・ケバブとは、お皿に敷き詰めたピタ(薄いパン)の上にラム肉のドネルケバブを載せ、ヨーグルト・生トマト・焼いたシシトウを添えたもの。羊肉はその独特の臭みによって好き嫌いがわかれますが、このラム肉ドネルケバブはとっても柔らかく、ジューシーで臭みがありませんし、またこのお肉が添え物であるピタ、そしてヨーグルトの酸味やトマトの味に見事なほどマッチして実に美味なのです。決して派手でも手の込んだ料理でもないのに、調理法や取り合わせによってこれほど美味しい料理にまで昇華するのですから、このイスケンダル・ケバブがご当地を飛び出して全国区になったのは十分頷けます。
なおケバプと一緒に、このお店の名物とされる「シュラ」と呼ばれるブドウジュースの一種も注文しました。表現が難しいのですが、基本的にブドウジュースであるものの、甘みが強く、それでいて何かしらが混じることにより風味や口当たりが微変しているようでした。まずまずの美味しさです。
想像以上にこのイスケンダルケバブが美味かったので、はじめのうちは軽くペロッと平らげられるだろうと舐めていたのですが、さすがに肉料理ですから時間が経つと急激に胃袋が重くなり、途中から食べるスピードが衰えて、全てを食べ終わる頃には目が回りそうなほどお腹がパンパン。苦しいったらありゃしない。男でも1人前で十分だと思います。ついでに言えば、食後のチャイ(紅茶)を含めてお会計が41リラもしたのは驚きました。老舗を名乗るお店って、どこもお高いのね…。
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ヘイケルのアタチュルク通り沿いには、イスケンダルケバブの創業者一家から暖簾分けしたお店があり、お昼すぎにこの前を通り過ぎた時には、店の外にまで列ができていたほどの大盛況で、実は元祖よりこちらの方がブルサっ子には人気があるみたいなのですが、私が訪問した夜には既に閉まっており、その味を体験することはできず・・・。
食後しばらく散歩して腹ごなしを経た後、ヘイケルの前にあるバクラバジ(※)のカフェスペース、で私の大好物であるストラッチを口にしながらチャイを飲んでお口直し。ストラッチとはトルコ風のライスプリンです。焦げて硬くなった表面をスプーンの先でパリパリっと割って、その下にあるクリーミーな層の感触を感じる瞬間が、なんとも言えない至福のひととき。日本のプリンよりはるかに甘い味付けなので、濃く淹れられているトルコの紅茶によく合います。
(※)バクラバジとは主にバクラバを扱うスイーツ専門店のこと。バクラバとはトルコなど中東や北アフリカでよく食べられる、甘ったるいペイストリーの一種。
食後改めてブルサの街中を散歩しましたが、日中は年末のアメ横みたいに大混雑していたウルジャーミー裏のバザール内は、あの喧騒が幻だったかのように人っ子一人いなくなり、他のエリアでも夜8時を過ぎるとどんどん人通りが減ってゆきます。この街は夜の更け方が早いのかしら。急激に寂しくなってゆく街にいても仕方がないので、ホテルへ戻ることに。
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ヘイケルから北へ伸びる下り坂の路地沿いにチェキルゲ方面行きドルムシュ乗り場がありますので、そこからチェキルゲのホテルへと戻りました。
上画像は日中に撮ったものです。この日、私はチェキルゲとブルサの街中を2往復したので、チェキルゲ行きドルムシュには何度かお世話になりました。日中は片道2リラだったのに、夜9時過ぎに乗ると2.5リラ請求されたのですが、時間帯によって異なるのか、はたまた運転手によって料金設定が違うのか…。
この翌日からはレンタカーでトルコの大地に湧く温泉を巡ったのですが、それについては次回以降の記事にて。
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「イェニ・カプルジャ」の1ブロック北側には幹線道路のムダンヤ通り(Mudanya Cad.)が東西に伸びており、ブルサライという電車の線路が道路と一体になって敷設されています。中央の線路を複数車線の幹線道路が挟むこむというスタイルは、大阪の新御堂筋のようですね。ブルサライとは、都心部では地下鉄として地面の下へ潜り、それ以外の区間では地上を走行する、地下鉄と近郊電車を兼ねたような交通機関です。ネット上で調べてみますと、イスタンブールからフェリーでブルサへアクセスする場合は、ブルサ側の港からこの電車のお世話になることが多いようです。このブルサライに乗って都心部へ向かいます。
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「イェニ・カプルジャ」の最寄り駅は、徒歩約5分のキュルテュルパルク(Kültürpark)駅です。幹線道路のアンダーパスを兼ねた地下の駅構内に入って券売機を探しますが、窓口しか無いので、職員から直接チケットを購入しました。運賃は乗車区間を問わず1回につき3.00リラで、このチケットはブルサライのみならず、トラムなどでも有効なんだそうです。チケットを券面の矢印方向へ改札機に挿入し、磁気データを読み取った機械が吐き出したチケットを再び手にとって、回転バーを前へ押せば入場することができますが、日本の自動改札機に比べると改札機の反応が鈍く「あれ、チケット呑み込まれちゃったかな」と不安になってしまうほどです。
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ホームに上って4~5分で電車がやってきました。2両編成を3本連結させて6両編成にしており、車両自体もコンパクトで、江ノ電や広島電鉄のような、ライトレールに近いタイプです。なお私が乗車した車両はドイツ・シーメンス製でしたが、一部はボンバルディア製もあるんだとか。
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食後はオスマンガーズィーからドルムシュに乗って、街の中心部であるヘイケル方面へ向かいます。ドルムシュとは、行き先が決まっている乗り合いタクシーみたいなもので、ごく普通の乗用車の上に、行き先や経由地が記された行灯が載っかっており、一定人数の客が乗り込んだら出発してくれる乗り物です。街中には行き先とともに「D」と記された標識が立っているドルムシュ乗り場があるほか、希望する方向の車が来たら、手を上げて乗せてもらうこともでき、運転手に言えば途中で降りたり寄り道をお願いすることも可能で、かなり融通がききます。料金は一律で、私がブルサで乗ったドルムシュは、いずれも2リラでした。台数が多く、料金も安いので、ブルサの移動にドルムシュはとっても便利。
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ドルムシュがアタチュルク通りに入って中心部に近づくにつれ、渋滞がひどくなってちっとも動かなくなったので、他の客が降りた場所で私も一緒に降りてみたら、そこはブルサのランドマークとでも言うべき「ウル・ジャーミー(Ulu Camii)」(大モスク)のちょうど正面でした。せっかくですから、この大きなモスクを見学することに。
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中央にはお祈りに際して体を清めるための大理石の大きな泉が設けられており、訪問時にも世代を問わずに次々に男たちがやってきて、水で自らを清めていました。手ぶらでやってきてもお祈りできるよう、泉の傍に大量のタオルが用意されているところは素晴らしい。
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敬虔な信者たちが床に跪いて熱心に祈祷中。
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ちなみに夜の「ウル・ジャーミー」はこんな感じにライトアップされるのですが、このライトはグラデーションを為しつつ次々に変色するため、パープルになったり、赤くなったり、真っ白くなったりと、ジャーミーの外壁は落ち着きなく色を変えてゆきます。この手の変色するライトはトルコのあちこちで見られたので、おそらくトルコでは変色するライトアップが好まれるのでしょう。
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「ウル・ジャーミー」の裏手一帯はバザールが広がっており、ブルサ中の人が集結しているんじゃないか思うというほど大変な人混みです。衣料品店が多く、特に刺繍や絹織物を扱う店が多いようでした。このバザールから東に向かって伸びるアーケードを進んでみることに。アーケード内には装飾品関係のお店が並んでいましたが、私には縁遠い世界ですので、ちらっと一瞥するだけで先へ急ぎます。
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途中再び人混みの凄い箇所があったので、人の流れに身を任せてゆくと、「コザ・ハン(Koza Han)」と称する一角に行き当たりました。どうやらここにはかつてキャラバン(隊商)宿があったそうですが、その事実を知ったのは帰国後のこと。2階建ての店舗街が中庭を囲んでおり、その中庭のチャイハネ(カフェ)では多くの人びとがお茶を飲んで一息入れていました。ブルサでも常に賑わっているスポットのひとつであり、衣料品店や雑貨屋さんが多いので、お土産入手にはもってこい。
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「コザ・ハン」やその前の噴水広場を抜けて、再びアタチュルク通りに戻って東へ進むと、広場にアタチュルクの銅像が立つ中心部「ヘイケル(Heykel)」に至りました。広場の周りには行政庁舎や銀行などが建ち並び、いかにも都市の中心部らしい景観なのですが、街歩きとしては面白みに欠けるので、この大通りから適当に路地に入り、敢えて迷子になってみることにします。
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中心部から離れるに従い、人数が少なくなって商店もおとなしくなり、生活感溢れる庶民的な街並みへと徐々に変貌してゆきます。商店街が尽きたところの角では、店頭に大きな鋸盤をのぞかせている職人さんのお店を発見。表の壁には細長い材木が何本も立てかけてあったのですが、何のお店かな。
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お天道さまが上がっている方角を確認しながら路地を東へ東へと歩き、川を越えて大きな通りを横切り、坂道を上へ上へと登っていたら、いつの間にやら、ブルサの観光名所である「イェシル・ジャーミー(Yeşil Camii)」へと辿り着いていました。行き違う団体客はドイツ語や英語を話していたので、海外からの訪問客も多いのでしょう。
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ブルサの街の高台に位置しているため、ここからの見晴らしが素晴らしく、白い壁の上に赤い屋根を戴く民家が視界いっぱいに広がり、彼方の小高い丘の上には別のモスクのドームとミナレットが目立っていました。また境内には人懐っこいニャンコが数匹ウロウロしており、こいつらがとってもかわいくて、撫でてやると喉をゴロゴロ鳴らして恍惚の表情を浮かべていました。
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「イェシル・ジャーミー」は15世紀に建てられたブルサを代表するモスクのひとつ。さすが観光名所になるだけあって、内部に貼られた青みの強いコバルトグリーンのタイルは息を呑む美しさ。また壁に施されたカリグラフィや繊細な装飾にも感心。
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ジャーミーその向かいには、寺院の付帯する霊廟「イェシル・テュルベ(Yeşil Türbe)」も隣接しています。名前を英語に訳すると"Green Tomb"つまり翠のお墓となりますが、その名の通り、外観や内部が鮮やかなターコイズブルーで占められており、館内に安置されたメフメト1世やその一族の棺までも、綺羅びやかなターコイズブルーのタイルで装飾されています。これだけ棺がいくつも安置されていれば、お化けの一つや二つも出ておかしくありませんが、これほどまで絢爛豪華で色鮮やかだと、おどろおどろしい雰囲気が微塵も感じられず、幽霊の現れる隙が無さそうですね。
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ブルサ発祥のグルメといえば、いまやトルコ全土で当たり前のように食べることのできるイスケンダル・ケバブですが、このイスケンダル・ケバブを生み出した元祖の店がヘイケル付近にありますので、日が暮れて観光や温泉のハシゴでエネルギーが欠乏しかけた時間帯に、そのお店へ赴いてみました。その名もズバリ「イスケンダル」。通りからは厨房の様子も窺えます。
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イスケンダルとは創業者の名前なんだそうで、テーブルのガラス天板の下に敷かれた紙には、創業者から現在に至る家系図が肖像とともに印刷されていました。このお店のメニューは単純で、イスケンダル・ケバブの1人前・1.5人前・2人前と、数種類のソフトドリンクがあるだけ。イスケンダル・ケバブ一本で勝負しているということは、それだけ元祖としての誇りと自信があるのでしょうか。
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私が注文したのは1.5人前。目の前に提供されると、ジュワジュワと音を立てながらアツアツに溶けた液状バターを上から掛けてくれます。そもそもイスケンダル・ケバブとは、お皿に敷き詰めたピタ(薄いパン)の上にラム肉のドネルケバブを載せ、ヨーグルト・生トマト・焼いたシシトウを添えたもの。羊肉はその独特の臭みによって好き嫌いがわかれますが、このラム肉ドネルケバブはとっても柔らかく、ジューシーで臭みがありませんし、またこのお肉が添え物であるピタ、そしてヨーグルトの酸味やトマトの味に見事なほどマッチして実に美味なのです。決して派手でも手の込んだ料理でもないのに、調理法や取り合わせによってこれほど美味しい料理にまで昇華するのですから、このイスケンダル・ケバブがご当地を飛び出して全国区になったのは十分頷けます。
なおケバプと一緒に、このお店の名物とされる「シュラ」と呼ばれるブドウジュースの一種も注文しました。表現が難しいのですが、基本的にブドウジュースであるものの、甘みが強く、それでいて何かしらが混じることにより風味や口当たりが微変しているようでした。まずまずの美味しさです。
想像以上にこのイスケンダルケバブが美味かったので、はじめのうちは軽くペロッと平らげられるだろうと舐めていたのですが、さすがに肉料理ですから時間が経つと急激に胃袋が重くなり、途中から食べるスピードが衰えて、全てを食べ終わる頃には目が回りそうなほどお腹がパンパン。苦しいったらありゃしない。男でも1人前で十分だと思います。ついでに言えば、食後のチャイ(紅茶)を含めてお会計が41リラもしたのは驚きました。老舗を名乗るお店って、どこもお高いのね…。
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ヘイケルのアタチュルク通り沿いには、イスケンダルケバブの創業者一家から暖簾分けしたお店があり、お昼すぎにこの前を通り過ぎた時には、店の外にまで列ができていたほどの大盛況で、実は元祖よりこちらの方がブルサっ子には人気があるみたいなのですが、私が訪問した夜には既に閉まっており、その味を体験することはできず・・・。
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食後しばらく散歩して腹ごなしを経た後、ヘイケルの前にあるバクラバジ(※)のカフェスペース、で私の大好物であるストラッチを口にしながらチャイを飲んでお口直し。ストラッチとはトルコ風のライスプリンです。焦げて硬くなった表面をスプーンの先でパリパリっと割って、その下にあるクリーミーな層の感触を感じる瞬間が、なんとも言えない至福のひととき。日本のプリンよりはるかに甘い味付けなので、濃く淹れられているトルコの紅茶によく合います。
(※)バクラバジとは主にバクラバを扱うスイーツ専門店のこと。バクラバとはトルコなど中東や北アフリカでよく食べられる、甘ったるいペイストリーの一種。
食後改めてブルサの街中を散歩しましたが、日中は年末のアメ横みたいに大混雑していたウルジャーミー裏のバザール内は、あの喧騒が幻だったかのように人っ子一人いなくなり、他のエリアでも夜8時を過ぎるとどんどん人通りが減ってゆきます。この街は夜の更け方が早いのかしら。急激に寂しくなってゆく街にいても仕方がないので、ホテルへ戻ることに。
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ヘイケルから北へ伸びる下り坂の路地沿いにチェキルゲ方面行きドルムシュ乗り場がありますので、そこからチェキルゲのホテルへと戻りました。
上画像は日中に撮ったものです。この日、私はチェキルゲとブルサの街中を2往復したので、チェキルゲ行きドルムシュには何度かお世話になりました。日中は片道2リラだったのに、夜9時過ぎに乗ると2.5リラ請求されたのですが、時間帯によって異なるのか、はたまた運転手によって料金設定が違うのか…。
この翌日からはレンタカーでトルコの大地に湧く温泉を巡ったのですが、それについては次回以降の記事にて。
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