温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

新登別温泉荘 2014年8月

2015年06月03日 | 北海道
 
昨年(2014年)8月の末のこと。毎年7月と8月のみオープンすることで温泉ファンの間では夙に有名な「新登別温泉荘」へ立ち寄り、日帰り入浴してまいりました。私が駐車場に車を止めますと、オーナーであるご夫婦が出迎えてくださいました。ご存知の方も多いかと思いますが、普段は大阪にお住まいのご夫婦が、毎年夏の2ヶ月間だけフェリーで北海道へやってきて民宿を営業しており、私が訪れた時には、ちょうど宿を仕舞う準備に取り掛かるところでした。夏の2ヶ月だけしか開かないだなんて、カブトムシみたいですね。


 
奥さんの案内を受けながら館内を進みます。手作り感溢れる館内は、あたかも山小屋のようです。廊下には4つの浴室出入口が面していました。うち1つは露天風呂、残る3つは内湯のドアです。


●内湯(大)
 
内湯には大小が1つずつ。
2つ並んだドアの鴨居に、それぞれ「登別温泉」そして「南紀白浜温泉」と書かれた札が貼り付けられているのが、大きな方の内湯です。どちらの脱衣室を使っても同じとのことなのですが、どういう意味なのかな…


 
なるほど、両脱衣室とも同じ浴室へとつながっており、混浴で利用するのですね。室内は木造の渋い雰囲気。湯船にはアヒルのオモチャが浮いており、お風呂道具も賑やかに置かれていて、とってもアットホームな佇まいです。洗い場にはシャワー付きカランが2基並んでいました。


 
この内湯に据えられているのは、2~3人サイズのポリバス。パイプからお湯が注がれており、登別の湯らしい酸っぱい匂いが香ってきます。バルブでお湯の流量調整が可能であり、私の訪問時はちょっと熱めの湯加減でした。また湯船の底には灰色の沈殿が溜まっていました。


●内湯(小)

鴨居の札に「別府温泉」と書かれ、小豆色の暖簾がかかったいる方は、小さな方の浴室。
今回はこちらへ入っておりませんが、ちょっとだけ覗かせていただくことに。


 
大きな浴室は木の質感とぬくもりが伝わってくる造りでしたが、こちらの壁には防滴の化成壁材が張られており、コンパクトな空間も相俟って、民家のお風呂のような雰囲気です。洗い場のシャワーはひとつだけ。公団住宅に設けられているような一人サイズのポリバスが据えられています。大きな内湯と同じお湯が張られているはずなのですが、こちらの湯船は濃いねずみ色に濁っていました。沈殿が舞っていたのでしょうか。



●露天風呂
 
お宿ご自慢の露天風呂も混浴利用。木々の緑が美しく、爽快で静かな環境です。私が訪れた日は天候にも恵まれ、本当に清々しい空気でしたよ。露天風呂には3つの浴槽があるので、手前側から順に見てまいりましょう。


 
大きな主浴槽は全てコンクリ造で、そら豆を半分に割ったような形状。10~12人は余裕で入れそうな容量があり、ねずみ色に濁った温泉をたっぷりと湛えています。41℃前後の実に入りやすい湯加減に調整されており、私は大半をこの主浴槽で過ごしました。なおお湯はこの主浴槽用のホースから投入されており、床へと溢れ出ていました。
私が入る前の湯船は、槽内のステップが目視できる程度の濁りにとどまっていましたが、入った後には沈殿が撹拌されて濁りが強まり、ねずみ色も濃くなって、ステップすらも見えなくなってしまいました。上画像の左右(あるいは上下)の2つは、濁りが強まる前と後を比較したものです。と言っても、この小さな画像だけではほとんど判別できませんが、よく見て両者を比較しますと、入る前の状況を写した左(上)画像では木々の緑を映せるほどの上澄みがあるのに対し、入った後の右(下)画像では、濁りが強まって上澄みが一切なくなり、グレー一色になっています。


 
奥にある四角形の小さな槽はおおよそ2~3人サイズで、こちらもコンクリ製。浅い造りなので、寝湯のような体制で湯浴みするとちょうど良い感じでした。一角に立てられているパラソルと、その下でくるくる回る風車が、そこはかとないB級感を醸し出していました。このあたりのセンスや色彩感覚に、オーナーご夫婦の関西的な感覚が現れているようでもあります。
お湯は専用の蛇口よりチョロチョロと注がれているのですが、槽の容量が小さいためか、投入量が絞り気味にもかかわらず、湯船は43~44℃とやや熱めでした。お湯の蛇口は客が開閉して良いらしく、好みの熱さにすることもできるようです。


 
一番奥に据えられてるのは、一人用ホーローバスの「太閤の湯」。あたかも玉座のように、他の浴槽より高い位置にある一人用の浴槽ですから、そんなネーミングになったのかな。新登別温泉の高台寺的存在なのかも。そう考えると、バスの上の青いパラソルも、歴史的な皇帝の頭上を守っていた重厚感のある傘に見えてくるから不思議なものです(なんてね)。普段はペーペーな身分の私も、誰もいないのを良いことにこの「太閤の湯」に浸かってみたところ、ザバーっと音を立てながらお湯が溢れ出し、太閤様には及ばないものの、それなりに豪快な気分が味わえました。専用の蛇口でお湯の投入量を自在に調整できるのも嬉しいところです。

お湯は登別の大湯沼源泉と奥の湯源泉をブレンドしたものが引かれており、静かな状態ではグレーの沈殿と青白い上澄みが分かれてそこそこの透明度があるものの、ちょっとでもお湯を動かすと、湯泥のような沈殿が撹拌されて、強い灰色を呈します。マイルドな酸味と共に、ゆでたまごの卵黄のような味と匂い、そしていかにも酸っぱそうな匂いが感じられ、ほろ苦味も含まれていました。登別温泉から引湯されているうちに、こなれて角が取れてくるのか、酸性に傾いているお湯でありながら、決して刺激的ではなく、むしろどちらかといえば優しいフィーリングで、サラサラとしたパウダリーな浴感が印象的でした。青空と爽やかな緑に抱かれた清々しい環境の中で、ちょっとぬるめの露天風呂に浸かっていると、時間の経過を忘れそうになります。実に素敵な湯浴みが楽しめました。全国の温泉ファンの心を惹き続けているのも納得です。

さて湯上がりにご夫婦とおしゃべりさせていただいたのですが、奥さん曰く、ここは湿気が多いので建物が傷みやすくて修理が大変だと、頻りに咳き込みながらおっしゃっていました。ご主人もかなりのご高齢であり、高齢者にとってはここのような田舎よりも医療の充実した都市部の方が良い、としみじみ語っていらっしゃいました。そしてお二人揃って、営業のための作業がしんどいと、何度も何度も繰り返して口にしていました。いままでは避暑を兼ねて大阪からやってきて、夏季だけの営業をご夫婦で頑張ってこられたわけですが、いよいよそんな生活パターンが身体的に難しくなっているのかもしれませんね。昨年は無事8月末までの営業を完了させたようですが、果たして今年も営業してくれるかどうか。個人的には是非頑張っていただきたいと願う気持ちが半分、無理しないでゆっくり過ごして欲しいという心情も半分です。


大湯沼・奥の湯混合泉
含硫黄-アルミニウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉(硫化水素型) 52.5℃ pH2.66 溶存物質890.4mg/kg 成分総計894.2mg/kg
H+:2.190mg(16.97mval%), Na+:65.38mg(22.20mval%), Ca++:37.14mg(14.46mval%), Al+++:44.52mg(38.63mval%), Fe++:6.850mg,
Cl-:142.0mg(31.25mval%), SO4--:421.7mg(68.49mval%),
H2SiO3:73.97mg, HBO2:78.84mg, H2S:3.825mg,
(昭和47年6月17日)

北海道登別市上登別町42  地図
0143-84-3124

日帰り入浴400円

私の好み:★★★

コメント (4)
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