温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

帯広市街 ホテルボストン

2015年06月16日 | 北海道
 
お湯の良さに関しては温泉ファンの間でも定評のある帯広市街の「ホテルボストン」で日帰り入浴してまいりました。ホテルですので当然宿泊もできますが、この晩は私が定宿にしている別のホテルでお世話になりたかったので、今回は入浴のみの利用です。駅から北へ1.5kmほど離れていますが、隣には帯広グランドホテルが立地し、南隣のブロックには豚丼の有名店「新橋」もありますので、意外と観光客が訪れやすい場所かもしれませんね。マンションのような9階建の建物は、1階が大浴場、2階が食堂や宴会場、3階が宿泊用客室となっており、4階以上はマンションなんだとか。上層階がマンションの温泉浴場って、帯広では「たぬきの里」も同じような造りですね。


 
建物の東西双方に道路が面しており、両方に出入口が設けられています。左(上)画像に写っている、アーチ状の庇が伸びている西側の出入口は、ホテルのフロントがある表玄関なんだそうでして、そんなことも知らずにこちら側から入館し、すぐ先のカウンターにいたオバチャンに入浴したい旨を伝えると、お風呂はあっちと奥の方を指さしました。すると、そのやりとりを察知したホテルのおじさんが、浴場出入口に相当する裏口の方からやってきて、脱衣室の入り口まで案内してくれました。長年の疲れと湿気と煙草の煙が沁みこんだ館内は、どれだけ照明を点けても薄暗く、館内を歩いているだけでもそこはかとない不安感が沸き起こってきます。

裏口の玄関ホールには番台の他、飲料の自販機や休憩用のお座敷などがあり、座敷ではお風呂から上がったお客さんがグッタリしながら私を一瞥をしていました。番台脇の券売機で湯銭を支払います。おじさんはおもむろに自分の腕を私に見せながら「オレは70(古稀)過ぎだけど、ほら、肌スベスベでしょ。触ってみてよ。植物性で完全掛け流し。うちにはボイラーがないんだから」と自信満々に自分の所のお湯を絶賛していました。ほほぉ、そんなに良いのか…。
このホールには自販機等と並んでロッカーも設置されていたのですが、おじさん曰く「壊れているから、貴重品は番台で預かるよ」とのこと。大変失礼ながら、水商売や裏稼業を渡り歩いてきたような風情が全身から滲み出ているこのおじさんに、果たして自分の貴重品を預けて良いものか、瞬時の判断に迷いましたが、まぁ何とかなるだろうと、私の財布をおじさんに手渡し、脱衣室へと入りました(もちろん財布はちゃんと戻ってきましたよ)。



湿気が逃げにくい構造なのか経年変化なのか、鄙びきっている脱衣室の天井には無数のシミがこびりついており、それを目にした私はますます心細くなってしまいました。室内にはア●リスオー●マっぽいパイプ棚にプラ籠が並べられ、天井では扇風機がグルグル回っています。籠の他にスチールロッカーも設置されているのですが、施錠はできません。

壁には温泉分析書の別表を手で書き写したようなものが掲示されており、これによれば、源泉名は「温泉湯源苑(ホテルヒルトン)」で、泉温46.8℃、湧出量320L/min、泉質は「植物性(モール泉)」とのこと。モール泉なんていう泉質名は温泉法で規定されていませんから、実際にはアルカリ性単純温泉かと思われます。気になったのが源泉名。かつてこのホテルは湯源苑と名乗っていたのかな。となると、カッコ書きされているホテルヒルトンって何なの? 後日調べてみたところ、以前はホテルヒルトンという名称だったようですが、さすがに本家ヒルトンと無関係なのにその名前を冠しちゃいけないと気づいたのか(あるいは関係筋から指摘されたのか)、20数年前に現在の名称に改めたようです。でも現在の館内からボストンという雰囲気は微塵も感じられず、どちらかといえば「カントン」とか「ヤンゴン」と称した方が似合いそう…。


 
熱気と湯気が篭った浴室。床はレンガ色、壁はオフホワイト系のタイル貼りで、最奥の女湯との仕切りには、磨りガラスと岩が配置されています。


 
室内の壁沿いにシャワー付きカランが12基並んでおり、吐出されるお湯は源泉です。館内の様子からも推測できるように、12基のシャワー全てがまともに使用できるわけではなく、私の訪問時には2基がお湯出っ放し、1基が完全故障状態でした。


 
浴槽は洗い場側が窄まって、奥側が広くなっています。窄まっている部分は造りが浅く、泡風呂装置が稼働していました。浴槽に張られているお湯は紅茶のような琥珀色を呈しており、色合いが強いために槽内の様子が目視できません。お湯が噴き上がっている浴槽中央部には岩が沈められているのですが、(夜間であることも影響して)槽内の状況が全く見えず、この岩に思いっきり躓いてしまいました。また深さが変わる箇所でも、その段差に気づくことができずに転倒し、槽内で何度もコケちゃった自分の足腰の状態に、すっかり自信を喪失してしまいました。どれだけお湯の色合いが濃いのか、湯船のお湯を洗面器に汲んで写したのが、右(下)画像です。



建物は草臥れているけれども、お湯は素晴らしい。
浴槽の中央部分から源泉が噴き上がっていて、浴槽の縁から惜しげも無く溢れ出ています。湯量豊富で大変結構。でもこのオーバーフローによって床も滑りやすく、既に槽内で2度も転倒している私は、この滑り易さにすっかり怖気づいてしまい、室内ではへっぴり腰で移動するはめに…。

噴き上がるお湯からは芳醇なタマゴ臭とタマゴ味が感じられた他、重曹的なほろ苦み、そしてモール臭が感じ取れました。件のおじさんは番台で「湯船に入った瞬間は熱いけど、熱いのは上の方の数センチだけだから、一旦浸かっちゃえば大丈夫。熱いけれども湯上がりはシャキッとするよ」と語っていたのですが、その説明の通り湯船は確かに熱く、体感で44~5℃はあり、私のみならず他のお客さんも長湯できずに、烏の行水のごとく、パッと入ってサッと出ていました。お風呂の状況から推測するに、加温加水循環消毒の無い完全掛け流しに相違ないようです。モール泉らしい滑らかなツルスベ感は素晴らしく、投入量が多いだけあってお湯の鮮度も良好。泡付きは確認できませんでしたが、入浴中はモール泉らしい芳醇な香りと滑らかな浴感をしっかりと堪能できました。
熱い湯温だったためか、重曹泉型のアル単なのに、湯上がりは強く火照って汗が止まらず、さきほど座敷でこちらを一瞥した先客と同じように、私もヘトヘトになってしまいましたが、にもかかわらず、しばらく経つと不思議なことに身も心もシャキッとし、おじさんの説明に誇張が無かったことを、帯広の夜風を受けながら実感したのでした。


温泉湯源苑(ホテルヒルトン)
アルカリ性単純温泉 46.8℃ 湧出量320L/min
(他のデータは不明)

帯広駅より徒歩20分(1.6km)
北海道帯広市西1条南3-15  地図
0155-23-7015

7:00~23:00
430円
貴重品番台預かり、シャンプー類やドライヤーは見当たらず

私の好み:★★

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする