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今回からは山梨県の温泉を連続して取り上げます。まずは笛吹市の石和温泉から。
甲府盆地は知る人ぞ知る名泉の宝庫であり、私も甲府盆地の温泉の大ファンなのですが、石和温泉は歓楽的要素が強く、しかも県企業局管理のお湯が各宿へ供給されているため、温泉愛好家からは敬遠されがちです。そんな中にあって、自家源泉のお湯をドバドバ掛け流しているという、当地では稀有な存在である「深雪温泉」で立ち寄り入浴してまいりました。
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玄関の脇には雌カッパ(推定Bカップ)の石像が佇むモニュメントがあり、源泉のお湯が落とされていました。柄杓が置かれているので、飲泉できるのでしょうね。
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私が訪れたのは昼過ぎの午後1時半頃。玄関は開いていたのですが、館内には人の気配が感じられず、一旦外に出て、電話で入浴の可否を確認してから、改めて帳場へ伺いました。浴室へ向かう廊下には、来訪したタレントさんのサイン、そして山田洋次監督のサインが書かれた「男はつらいよ 知床慕情」のポスターが飾られていました。
館内には趣きの異なる3つの浴室(柿・桃・ぶどう)があるのですが、この日は「柿の湯」へ通されました。
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ウッディーな脱衣室はよく手入れされており、ひと通りの備品も用意されているので、とっても綺麗で気持ち良く使えました。ポットに入った冷水サービスもうれしいですね。なおロッカーは脱衣室ではなく帳場前に設置されています。室内には、山梨県の温泉ではおなじみT教授による解説文も掲示されていました。教授の定型文を目にすると、甲州の温泉にいることを実感します。
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浴室の戸を開けると、室内に充満するモール臭やタマゴ臭がふんわりと香ってきました。私の大好きなその芳香を嗅ぐと、お湯への期待に胸が高鳴ります。オフホワイトの壁に臙脂色の浴槽がよく映えており、窓から降り注ぐ陽光も相俟って、室内は柔らかなぬくもりに満ちていました。湯船には2つの湯口から投入されているようですが、詳しくは後ほど。
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洗い場にはシャワー付きカランが7基並んでおり、カランから吐出されるお湯は温泉です。備え付けの桶や腰掛けは、重厚感のある木工品。
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目測で9m×3mというサイズを有するゆとりのある浴槽は、縁に赤御影石、槽内に鉄平石のような石板が用いられており、お湯の投入量が多いので、縁の全辺からザブザブと波を立たせながら大量に溢れ出ていました。この溢れ出しを見ているだけでも豪快な気分に浸れ、温泉風情をより高揚させてくれます。館内表示によれば完全放流式の湯使いであり、加水加温循環などは一切行われていないとのこと。この贅沢なオーバーフローを見れば、誰の目にも掛け流しであることは一目瞭然です。
湯船に張られているお湯はほぼ無色透明ですが、槽内で自分の肌を確認しますと、やや琥珀色を帯びているように見えました。
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こちらのお宿が有する自家源泉は2つあり、それを浴槽でブレンドさせているんですね。単にブレンドさせるのではなく、湯口をきちんと別箇に分けているという点も素晴らしい。それだけお湯に自信があるのでしょう。2つの源泉はそれぞれ「完の湯」「熟の湯」と称し、ミックスされることによって完熟が完成するわけです。
上画像は「完の湯」の湯口。50℃前後の熱いお湯で、湯口周りは成分付着によって白く着色されており、お湯が落とされる湯面やその周辺では細かな泡立ちによってシルキーホワイトな弱い濁りを呈しています。お湯を口にしてみますと、金気を伴うモール泉的な風味と香り、ほろ苦み、そしてタマゴ味&匂いが感じられました。
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一方「熟の湯」は35℃前後というぬるめのお湯ですが、「完の湯」に比べてモール感(特に金気)が弱い代わりにタマゴ感が強く、吐出口直下の湯面においては、気泡による微白濁が見られないかわりに、大小の泡が湯面(表面)を漂い、やがて消滅してゆきました。
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湯中では泡付きが見られ、特に湯口付近で顕著でした。
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屋外へ出ると、立派な露天風呂が待っていました。周囲を塀で囲まれているため、景色を眺めることはできませんが、庭園風の落ち着いた造りですし、空間自体も広いので、温泉気分を楽しみながら十分に寛げます。
「柿の湯」の露天風呂は、菱型を縦に2つ重ね合わせたような形状をしており、手前側はガッチリとした屋根が掛けられていますが、奥側は梁や桁等の骨組みの上に簾をかけることによって、通風性を高めているようでした。個人的には、奥側の槽の縁に設置された丸太の枕が気に入りました。ここに頭を載せて湯浴みすると、とっても気持ちよかったですよ。外気の影響を受けるためか、露天の湯加減はややぬるめの長湯仕様でしたので、私は丸太の枕に身を委ねて仰向けになりながら、時間を忘れてのんびり過ごさせていただきました。
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露天風呂でも2つの源泉をそれぞれ別の湯口から投入して、槽内でブレンドさせています。露天のおける投入量も大変多く、縁の切り欠けから溢れ出ているお湯は、恰も川のような勢いをなしていました。
壁から直に出ている内湯と異なり、露天の場合はまず筧から蹲居に落とされ、そこから溢れたお湯が浴槽に注がれるという流れになっていました。お湯に含まれる硫黄の影響か、お湯が流れてゆく蹲居の表面(側面)は、湯の華で薄っすらと白く染まっていました。
湯中では薄く細かな白いタイプや、溶き卵のようなもの、そして黒い羽根状など、いくつかのタイプの湯の華がチラホラと舞っていました。なお内湯に比べて露天での泡付きは若干弱めだったような気がします。浴感としては薄めのモール泉といった感じで、甲府盆地で温泉ファンから支持される名泉に多い強いツルスベを有している訳ではないのですが、きちんとスベスベする滑らかな肌触りは飽きが来ず、優しく全身を包み込んでくれ、長湯するにはもってこい。大量掛け流しですから、鮮度感も抜群。露天は長湯向きの湯加減ですし、内湯も決して熱いわけではないのですが、不思議なことに温まりが結構強く、湯上がりは体の芯から温まって、ポカポカが長時間持続しました。
集中管理された石和のお湯は掴みどころが無くて個性に乏しいとお嘆きの方も、こちらのお湯に入れば、石和に対する固定概念を根底から覆されるでしょう。大変素晴らしいお湯でした。
1号源泉(完の湯)
単純温泉 50.8℃ pH8.2 573L/min
2号源泉(熟の湯)
アルカリ性単純温泉 pH8.50 36.0℃ 842L/min
JR中央本線・石和温泉駅より徒歩7分(600m)
山梨県笛吹市石和町市部822 地図
055-262-4126
ホームページ
日帰り入浴10:00~15:00(受付14:00まで)
1000円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★