前回記事「フェリーと列車で北海道から三陸へ縦断 2014年夏 その1」の続編です。
今回記事に温泉は登場しません。あしからず。
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【9:02 久慈駅・着】
昨晩のフェリー船内でほとんど眠れなかった上、ついさっき朝市でお腹を満たしたため、種差海岸を過ぎた辺りで睡魔に急襲され、久慈に到着する直前まで熟睡してすっかり意識を失っていた。
久慈駅構内の跨線橋には「ようこそ不思議の国の北リアスへ」という横断幕が掲げられている。まだ睡眠から醒めていなかった私の脳みそは、はじめその意味を理解できなかったのだが、やがて「アリス」のアとリを入れ替えて、リアス式海岸のリアスにしたことに気づき、そこでようやく脳みそも目が覚める。
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JRの久慈駅舎は国鉄時代からの古いRC造であるが、前年(2013年)に全面的なリニューアルが施されており、当地特産の琥珀をイメージしたシックなファサードとなった他、そしてウニをモチーフにした顔出しパネルが設置されている。トイレも綺麗で快適だった。2013年上半期のNHK朝ドラで脚光を浴びた「駅前デパート」には、ドラマの世界そのままの大きなイラストが残されており、毎日欠かさず観ていた前年のフィーバーを思い出さずにはいられなかった。とはいえ、流行りというものは、一旦過ぎ去ってしまうと、今度は逆にしばらく振り返りたくなくなるものであり、いまこうしてブログの文章を書き綴りながら当時の熱狂を思い出すと、猛烈に恥ずかしい。
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「道の駅」など街中を散策してから三陸鉄道の駅舎へ移り、窓口で島越駅までの乗車券を購入して、列車の時間まで待合室で腰を下ろす。まだお昼前だというに、駅舎内にある立ち食いそば屋「三陸リアス亭」では、この日のウニ弁当が売り切れたと告知する札がさがっていた。朝ドラの熱狂は果たして何年もつのだろうか。ちなみにお店の裏口に置かれていた発泡スチロールの箱には"FROZEN SEA URCHIN PRODUCT OF ・・・" いや、なんでもない。世の中には知らない方が幸せなことがゴマンとある。魚介には漁期があって、それ以外のシーズンで観光客の要望に応えようとすれば、どうしても専門業者の力と知恵を借りなければならない。コストや安定供給という問題だってある。だから仕方のない苦肉の策なんだ…。
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【10:35 久慈駅・発】
三陸鉄道北リアス線の宮古行に乗車。36-100形と36-200形の2両編成。胸にワッペンを付けた爺さん婆さんのツアー客で、車内はほぼ占拠されていた。
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平成生まれの鉄道車両は一段降下窓かハメ殺し窓が多いが、昭和生まれの36-100形(及びほぼ同じ設計の36-200形)は昔ながらの二段窓であり、窓を開ければ顔で潮風を受けられる。海沿いを走る列車に乗ったならば、どんなに暑い日でも冷房ではなく、外の潮風を浴びながら旅を楽しみたい。
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堀内駅での停車は実質的なフォトストップ。この駅も2013年のNHK朝ドラで一躍注目されたわけで、当時のセットが残されていた。他のお客さんにつられて私もついその光景を撮ってしまう。
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【11:30 島越駅・着】
島越駅で下車したのは私一人だけ。この駅は2014年4月に営業を再開し、同年7月27日に新駅舎の使用が開始されたばかりであり、私が降り立ったのは新駅舎使用開始からまだ1ヶ月しか経っていない頃であった。
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駅再開にはクウェートの援助によるところも大きく、駅構内には同国への感謝メッセージが数箇所に掲示されていた。
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記念スタンプを自分の手帳にペッタン。窓口で硬券の入場券も購入。
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駅舎中央の出入口を挟んで、一方には模型や写真パネルなどが並んでいる展示室や待合室、他方にはお土産が販売されている売店と出札窓口、そして休憩室が設けられている。また中央には螺旋階段があり、そこを昇った2階(八角形ドームの下)は展望室となっている。駅構内の久慈寄りには大手旅行会社のツアーが再建を支援しましたよという旨の碑も建てられており、それを目にしてちょっぴり複雑な想いがしたが、誰であろうと出資してくれる人は有り難いものであり、ボンヤリ構内を見学していると、実際にそのツアー会社の団体客が嵐のようにやってきて、参加者の爺さん婆さん達はわずか10分間で次々に土産物を買って、やってきた列車に乗って去って行った。
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2014年夏の時点で駅前はまだ工事中。商店はおろか人家すらない。
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新たに築かれたコンクリの築堤は防潮堤を兼ねているらしい。その海側にはかつての駅構内にあった階段の跡、そして宮沢賢治の詩碑が、津波に流されること無く残されていた。「雨ニモマケズ風ニモマケズ雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナ」碑は、未曾有の津波にも負けずに踏ん張りきったのだ。
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壊れたままの水門を横目にしながら、海沿いの道を南へ歩く。沿道に建ち並んでいるのは漁業用の仮設小屋だろう。
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【11:45 北山崎断崖クルーズ乗船場】
島越駅から徒歩10分ほどで、島越漁港にある「北山崎断崖クルーズ」の乗船場に到着。今回わざわざ北リアス線に乗ったのは、この「北山崎断崖クルーズ」が最大の目的である。北リアス屈指の名勝である北山崎を巡る観光船は、あの震災以降運休が続いていたが、この年の7月下旬に再開されたとの報を受け、船好きの私としては、是非とも体験してみたかったのだ。再開に際しては乗船場も新築され、しかもまだ1ヶ月ほどしか経っていないので、受付棟の館内はどこもかしこもピッカピカ。乗船券購入の際、一緒にウミネコのパンも購入した。
ギョギョ!? 壁に飾られたイラストは、この年の春にさかなくんが描いたものでギョざいますね。
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【12:15 北山崎断崖クルーズ・出航】
観光船の再開に当たっては、船も新造された。畳と●●は新しいほうが良いと言うが、船でもなんでも新しいと気分が高揚する。船の名前は"SAN RIKU GO"と言うのかな。"SUN"と太陽、「号」と"GO"をかけている、なんてここで説明するのは野暮もいいところ。ダジャレを説明する奴ほど苛立たしい人はいない。この観光船は1日4便運行されるが、私が乗ったのは12:15出航の便である。久慈10:35発の宮古行列車に乗れば島越へ11:30に着き、駅からのんびり歩けば、丁度良いタイミングでこの船に乗り継げることを、予め調べておいたのだ。4便しかないから、きちんと調べておかないと無駄足になっちゃう…。
1周50分のクルーズで、再びこの島越港へと戻ってくる。
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オレンジ色のシートが目に鮮やかな船内には、新築住宅のような建材独特の匂いが漂っていた。エアコン完備で快適。
底に窓があり海底の様子が見える…のだろうけど、走行中は何が何だかわからないのではないのかな。
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私を含め10人ほどの乗客を乗せて定刻に出航。津波で破壊された防波堤の間をすり抜けて沖合へ出る。この日は突き抜けるような真っ青な青空が広がっていたが、風がかなり強く、沖合に出た途端、船は強いうねりに揉まれて、前後左右に激しく揺れ続けた。漁網のブイをギリギリのところでかわしてゆく。
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海岸に人家がちっとも無いなと思ったが、それもそのはず、スピーカーから流れるガイドによれば、津波で流されちゃったらしい。
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北山崎へ続く田野畑の海岸段丘は、海底の隆起によって出来上がったものらしい。海の底だったところが100メートル以上も上昇してしまうのだから、そのパワーには驚く他ない。海岸を眺めていると、ミルフィーユのように幾重にも層をなしている岩盤が斜めに海へと落ち込んでいる箇所が何箇所も見られたが、これは地殻変動による褶曲を示す好例なのだろう。
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出航してから船の後をひたすらウミネコ達が追いかけてくる。彼らのお目当ては客が与えるパンなので、その期待に応えるべく、私も乗船受付で購入したパンを放り投げたところ、優れた動体視力と俊敏な反射神経を活かし、嘴でしっかりキャッチしてくれた。断崖絶壁の景色を眺めるのも良いが、こうして餌付けしているのもかなり楽しい。
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岸から大して離れていないのだが、それでも立派な外洋なので、この小さな観光船は太平洋のうねりをモロに受けてメチャクチャ揺れる。私はこの手の船に強い方なので大丈夫だったが、中にはリバースしちゃうお客さんもいた。無理もない。
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海食崖の一部は侵食によってトンネル状の穴が開いている(海食洞)。小型の船ではここを潜ることもあるようだが、今回の船は遠くから眺めるだけで、潜ることはなかった。これ以外にも奇岩が延々と続き、景色に飽きることはない。
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弁天崎と称する岬をまわってその北側に出ると、これまで以上に断崖の高低差が大きくなり、景色がより荒々しくなった。このあたりがいわゆる北山崎らしい。なるほど、聞きしに勝る壮観には圧倒される。200メートルにも及ぶこの辺りの海食崖は、他と違って妙に赤茶けているのだが、約1億2千万年前の前期白亜紀に起きた火成活動にともなって生み出された火山岩や溶岩などがメインなんだとか。画像でその景観の迫力が伝わらないのはとても残念だ。
出航から25分進んだところで観光船はグルっと回り、往路と同じ航路を南下して島越港へと引き返した。
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【13:58 島越駅】
想像を上回る壮観の連続、そしてうみねこの餌付けに十分満足し、観光船は13:05に島越港へ戻ってきた。ちょうどお昼の時間帯である。乗船場の建物内ではパンや牛乳が売られていたが、これだけではランチに物足りない。かといって、島越駅周辺は本当に何もない。店がないから飯が食えない。駅構内の売店ではおみやげが売られているが、お菓子等では食事にならない。同じ町内にあるお隣りの田野畑駅も、集落からは離れており、食事は期待できない。更には、次の宮古行までかなり時間が空いており、相当退屈である。
そこで、ちょっと戻る形になるが、久慈行に乗って一旦普代駅まで北上し、普代駅周辺で食事をとることにした。
その3(完)へつづく
今回記事に温泉は登場しません。あしからず。
<<旅程>>
・1日目
帯広7:15→【十勝バス】→9:37広尾10:00→【JR北海道バス】→10:57襟裳岬(観光・昼食)13:27→【JR北海道バス】→14:20様似14:34→【JR日高本線】(※)→17:53苫小牧18:28→【室蘭本線】→18:35糸井駅(「しらかば温泉湯」で銭湯・夕食)19:51→【室蘭本線】→19:58苫小牧(タクシー移動)苫小牧港21:15→【川崎近海汽船「シルバープリンセス」】
(※)日高本線は現在鵡川~様似間が不通で、代行バスによる運行となっている。
・2日目
(船中泊)→4:45八戸港(タクシー移動)本八戸5:43→【JR八戸線】→5:49陸奥湊(朝市で朝食)7:28→【JR八戸線】→9:02久慈10:35→【三陸鉄道北リアス線】→11:30島越(北山崎断崖クルーズ・12:15発)13:58→【三陸鉄道北リアス線】→14:11普代(昼食)14:50→【三陸鉄道北リアス線】→15:47宮古15:53→【JR山田線】→18:08盛岡(夕食)19:50→【新幹線「はやぶさ36号」】→22:04東京
●今回の記事では下線部の旅程に関して述べている。
・1日目
帯広7:15→【十勝バス】→9:37広尾10:00→【JR北海道バス】→10:57襟裳岬(観光・昼食)13:27→【JR北海道バス】→14:20様似14:34→【JR日高本線】(※)→17:53苫小牧18:28→【室蘭本線】→18:35糸井駅(「しらかば温泉湯」で銭湯・夕食)19:51→【室蘭本線】→19:58苫小牧(タクシー移動)苫小牧港21:15→【川崎近海汽船「シルバープリンセス」】
(※)日高本線は現在鵡川~様似間が不通で、代行バスによる運行となっている。
・2日目
(船中泊)→4:45八戸港(タクシー移動)本八戸5:43→【JR八戸線】→5:49陸奥湊(朝市で朝食)7:28→【JR八戸線】→9:02久慈10:35→【三陸鉄道北リアス線】→11:30島越(北山崎断崖クルーズ・12:15発)13:58→【三陸鉄道北リアス線】→14:11普代(昼食)14:50→【三陸鉄道北リアス線】→15:47宮古15:53→【JR山田線】→18:08盛岡(夕食)19:50→【新幹線「はやぶさ36号」】→22:04東京
●今回の記事では下線部の旅程に関して述べている。
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【9:02 久慈駅・着】
昨晩のフェリー船内でほとんど眠れなかった上、ついさっき朝市でお腹を満たしたため、種差海岸を過ぎた辺りで睡魔に急襲され、久慈に到着する直前まで熟睡してすっかり意識を失っていた。
久慈駅構内の跨線橋には「ようこそ不思議の国の北リアスへ」という横断幕が掲げられている。まだ睡眠から醒めていなかった私の脳みそは、はじめその意味を理解できなかったのだが、やがて「アリス」のアとリを入れ替えて、リアス式海岸のリアスにしたことに気づき、そこでようやく脳みそも目が覚める。
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JRの久慈駅舎は国鉄時代からの古いRC造であるが、前年(2013年)に全面的なリニューアルが施されており、当地特産の琥珀をイメージしたシックなファサードとなった他、そしてウニをモチーフにした顔出しパネルが設置されている。トイレも綺麗で快適だった。2013年上半期のNHK朝ドラで脚光を浴びた「駅前デパート」には、ドラマの世界そのままの大きなイラストが残されており、毎日欠かさず観ていた前年のフィーバーを思い出さずにはいられなかった。とはいえ、流行りというものは、一旦過ぎ去ってしまうと、今度は逆にしばらく振り返りたくなくなるものであり、いまこうしてブログの文章を書き綴りながら当時の熱狂を思い出すと、猛烈に恥ずかしい。
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「道の駅」など街中を散策してから三陸鉄道の駅舎へ移り、窓口で島越駅までの乗車券を購入して、列車の時間まで待合室で腰を下ろす。まだお昼前だというに、駅舎内にある立ち食いそば屋「三陸リアス亭」では、この日のウニ弁当が売り切れたと告知する札がさがっていた。朝ドラの熱狂は果たして何年もつのだろうか。ちなみにお店の裏口に置かれていた発泡スチロールの箱には"FROZEN SEA URCHIN PRODUCT OF ・・・" いや、なんでもない。世の中には知らない方が幸せなことがゴマンとある。魚介には漁期があって、それ以外のシーズンで観光客の要望に応えようとすれば、どうしても専門業者の力と知恵を借りなければならない。コストや安定供給という問題だってある。だから仕方のない苦肉の策なんだ…。
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【10:35 久慈駅・発】
三陸鉄道北リアス線の宮古行に乗車。36-100形と36-200形の2両編成。胸にワッペンを付けた爺さん婆さんのツアー客で、車内はほぼ占拠されていた。
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平成生まれの鉄道車両は一段降下窓かハメ殺し窓が多いが、昭和生まれの36-100形(及びほぼ同じ設計の36-200形)は昔ながらの二段窓であり、窓を開ければ顔で潮風を受けられる。海沿いを走る列車に乗ったならば、どんなに暑い日でも冷房ではなく、外の潮風を浴びながら旅を楽しみたい。
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堀内駅での停車は実質的なフォトストップ。この駅も2013年のNHK朝ドラで一躍注目されたわけで、当時のセットが残されていた。他のお客さんにつられて私もついその光景を撮ってしまう。
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【11:30 島越駅・着】
島越駅で下車したのは私一人だけ。この駅は2014年4月に営業を再開し、同年7月27日に新駅舎の使用が開始されたばかりであり、私が降り立ったのは新駅舎使用開始からまだ1ヶ月しか経っていない頃であった。
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駅再開にはクウェートの援助によるところも大きく、駅構内には同国への感謝メッセージが数箇所に掲示されていた。
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記念スタンプを自分の手帳にペッタン。窓口で硬券の入場券も購入。
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駅舎中央の出入口を挟んで、一方には模型や写真パネルなどが並んでいる展示室や待合室、他方にはお土産が販売されている売店と出札窓口、そして休憩室が設けられている。また中央には螺旋階段があり、そこを昇った2階(八角形ドームの下)は展望室となっている。駅構内の久慈寄りには大手旅行会社のツアーが再建を支援しましたよという旨の碑も建てられており、それを目にしてちょっぴり複雑な想いがしたが、誰であろうと出資してくれる人は有り難いものであり、ボンヤリ構内を見学していると、実際にそのツアー会社の団体客が嵐のようにやってきて、参加者の爺さん婆さん達はわずか10分間で次々に土産物を買って、やってきた列車に乗って去って行った。
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2014年夏の時点で駅前はまだ工事中。商店はおろか人家すらない。
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新たに築かれたコンクリの築堤は防潮堤を兼ねているらしい。その海側にはかつての駅構内にあった階段の跡、そして宮沢賢治の詩碑が、津波に流されること無く残されていた。「雨ニモマケズ風ニモマケズ雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ丈夫ナ」碑は、未曾有の津波にも負けずに踏ん張りきったのだ。
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壊れたままの水門を横目にしながら、海沿いの道を南へ歩く。沿道に建ち並んでいるのは漁業用の仮設小屋だろう。
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【11:45 北山崎断崖クルーズ乗船場】
島越駅から徒歩10分ほどで、島越漁港にある「北山崎断崖クルーズ」の乗船場に到着。今回わざわざ北リアス線に乗ったのは、この「北山崎断崖クルーズ」が最大の目的である。北リアス屈指の名勝である北山崎を巡る観光船は、あの震災以降運休が続いていたが、この年の7月下旬に再開されたとの報を受け、船好きの私としては、是非とも体験してみたかったのだ。再開に際しては乗船場も新築され、しかもまだ1ヶ月ほどしか経っていないので、受付棟の館内はどこもかしこもピッカピカ。乗船券購入の際、一緒にウミネコのパンも購入した。
ギョギョ!? 壁に飾られたイラストは、この年の春にさかなくんが描いたものでギョざいますね。
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【12:15 北山崎断崖クルーズ・出航】
観光船の再開に当たっては、船も新造された。畳と●●は新しいほうが良いと言うが、船でもなんでも新しいと気分が高揚する。船の名前は"SAN RIKU GO"と言うのかな。"SUN"と太陽、「号」と"GO"をかけている、なんてここで説明するのは野暮もいいところ。ダジャレを説明する奴ほど苛立たしい人はいない。この観光船は1日4便運行されるが、私が乗ったのは12:15出航の便である。久慈10:35発の宮古行列車に乗れば島越へ11:30に着き、駅からのんびり歩けば、丁度良いタイミングでこの船に乗り継げることを、予め調べておいたのだ。4便しかないから、きちんと調べておかないと無駄足になっちゃう…。
1周50分のクルーズで、再びこの島越港へと戻ってくる。
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オレンジ色のシートが目に鮮やかな船内には、新築住宅のような建材独特の匂いが漂っていた。エアコン完備で快適。
底に窓があり海底の様子が見える…のだろうけど、走行中は何が何だかわからないのではないのかな。
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私を含め10人ほどの乗客を乗せて定刻に出航。津波で破壊された防波堤の間をすり抜けて沖合へ出る。この日は突き抜けるような真っ青な青空が広がっていたが、風がかなり強く、沖合に出た途端、船は強いうねりに揉まれて、前後左右に激しく揺れ続けた。漁網のブイをギリギリのところでかわしてゆく。
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海岸に人家がちっとも無いなと思ったが、それもそのはず、スピーカーから流れるガイドによれば、津波で流されちゃったらしい。
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北山崎へ続く田野畑の海岸段丘は、海底の隆起によって出来上がったものらしい。海の底だったところが100メートル以上も上昇してしまうのだから、そのパワーには驚く他ない。海岸を眺めていると、ミルフィーユのように幾重にも層をなしている岩盤が斜めに海へと落ち込んでいる箇所が何箇所も見られたが、これは地殻変動による褶曲を示す好例なのだろう。
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出航してから船の後をひたすらウミネコ達が追いかけてくる。彼らのお目当ては客が与えるパンなので、その期待に応えるべく、私も乗船受付で購入したパンを放り投げたところ、優れた動体視力と俊敏な反射神経を活かし、嘴でしっかりキャッチしてくれた。断崖絶壁の景色を眺めるのも良いが、こうして餌付けしているのもかなり楽しい。
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岸から大して離れていないのだが、それでも立派な外洋なので、この小さな観光船は太平洋のうねりをモロに受けてメチャクチャ揺れる。私はこの手の船に強い方なので大丈夫だったが、中にはリバースしちゃうお客さんもいた。無理もない。
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海食崖の一部は侵食によってトンネル状の穴が開いている(海食洞)。小型の船ではここを潜ることもあるようだが、今回の船は遠くから眺めるだけで、潜ることはなかった。これ以外にも奇岩が延々と続き、景色に飽きることはない。
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弁天崎と称する岬をまわってその北側に出ると、これまで以上に断崖の高低差が大きくなり、景色がより荒々しくなった。このあたりがいわゆる北山崎らしい。なるほど、聞きしに勝る壮観には圧倒される。200メートルにも及ぶこの辺りの海食崖は、他と違って妙に赤茶けているのだが、約1億2千万年前の前期白亜紀に起きた火成活動にともなって生み出された火山岩や溶岩などがメインなんだとか。画像でその景観の迫力が伝わらないのはとても残念だ。
出航から25分進んだところで観光船はグルっと回り、往路と同じ航路を南下して島越港へと引き返した。
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【13:58 島越駅】
想像を上回る壮観の連続、そしてうみねこの餌付けに十分満足し、観光船は13:05に島越港へ戻ってきた。ちょうどお昼の時間帯である。乗船場の建物内ではパンや牛乳が売られていたが、これだけではランチに物足りない。かといって、島越駅周辺は本当に何もない。店がないから飯が食えない。駅構内の売店ではおみやげが売られているが、お菓子等では食事にならない。同じ町内にあるお隣りの田野畑駅も、集落からは離れており、食事は期待できない。更には、次の宮古行までかなり時間が空いており、相当退屈である。
そこで、ちょっと戻る形になるが、久慈行に乗って一旦普代駅まで北上し、普代駅周辺で食事をとることにした。
その3(完)へつづく