温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

那須温泉 那須町営那須いこいの家

2015年11月17日 | 栃木県
 
那須湯本の温泉街から御用邸の方へ上がってゆくと、その途中に那須高原ビジターセンターがありますが、この敷地内を突っ切った奥に佇む町営の宿泊施設「いこいの家」では日帰り温泉入浴を受け付けているので、どんなお湯に入れるのか興味津々で訪ねてみることにしました。いかにも公営の保養施設らしい地味な外観なのですが…


 
玄関を入った先のロビーは大変明るく広々していて、立派な応接セットや石庭のような飾りも据え付けられており、公営とは思えないラグジュアリ感があり、良い意味で驚きました。その一方、受付で入浴をお願いしますと、職員の方はとても丁寧に対応してくださるのですが、料金の支払い時に所定の台帳へ氏名と住所の記入を求められました。館内の雰囲気は立派ですが、こうした手続きが必要な点は公営施設らしいところです。町民と町外で料金が異なるため、那須町としては統計を取っておきたいのかな。
ロビーの奥にあるお座敷を横目に廊下を進んで浴室へ。


 
脱衣室はごく普通の造りですが、清掃がよく行き届いており、気持ち良く使えました。洗面台は2台あり、ドライヤーも備え付けられています。また棚の下には施錠できるロッカーも用意されていました。


 
出入口のドアには「この温泉は御用邸と同じ源泉から直接引いているかけ流しのお風呂です」という菊の御紋の威光を笠に着たような表現のほか、「黒くなっているのは温泉の成分のためです」と後述する浴槽内の黒い筋に関して説明が記されていました。威光云々は私の勝手な言いがかりですが(笑)、湯本の温泉街から近い場所にありながら、湯本とは全く異なる場所からお湯を引かれているという点は、湯めぐりをする私のような人間にとってはとっても重要です。また湯使いに関する表示では、完全掛け流しであることが明示されていました。


 
浴室のドアを開けた瞬間、石膏系の香ばしい香りが鼻孔をくすぐってきました。那須湯本の酸性硫黄泉とは異なるお湯であることは明白です。お風呂は男女別の内湯のみで露天風呂は無く、室内は総タイル張りで無機質な感は否めませんが、大きな窓からたっぷり採光されており、換気も良好で湯気篭りも少なく、床には伊豆青石(もしくはそれと同系統の緑色凝灰岩)が敷かれていて、快適な入浴環境が生み出されています。ただせっかく大きな窓が採用されていながら、その外には竹垣を模した化成品のエクステリアが立ちはだかっており、残念ながら自然の景色を眺めることはできません。
洗い場にはシャワー付きカランが4基並んでおり、いずれのシャワーもホースが同じ巻き方できれいにセッティングされていました。私が訪問したのは清掃直後のタイミングだったのでしょうね。


 
浴槽は一辺だけ斜めになっている台形状のもので、キャパ的には5~6人、最大幅で2.5m×3mほどです。縁には石材が用いられ、槽内はタイル張りなのですが、丸い湯口の直下から斜めの縁に沿って、底面にライン状の黒ずみがこびりついていました。出入口ドアの貼り紙で説明されていた「黒くなっているのは温泉の成分のためです」とはこのことを指しているのでしょう。


 
丸い湯口にクローズアップしてみましょう。熱めのお湯をチョロチョロと滴り落としている平たい口の周りには、白色やクリーム色のトゲトゲした析出が付着していますね。おそらく硫酸塩や石灰華の類なのでしょう。その湯口から真下の底面へ黒い筋が下りて、あたかもタコやイカが黒い墨を吐き出しているかのように、お湯がオーバーフローする窓側に向かって、縁に沿って伸びていました。


 
丸い湯口のほか、浴槽のステップ付近にも大きめの水栓が一つ取り付けられており、入室時には止栓されていたのですが、コックを開けてみると50℃以上の熱いお湯がドバドバ吐出されました。湯船の湯加減を上げたければ、この水栓からお湯を足せばよいのでしょうね。丸い湯口やこの水栓から浴槽へ注がれたお湯は、窓下に設けられた溝へ溢れ出ており、槽内に吸引や供給のための穴は見当たらなかったので、館内表示の通り完全掛け流しなのかと思われます。

湯船のお湯は無色透明で湯の花などは全く見られず、綺麗に澄んでいました。上述しましたように室内には石膏の存在を思わせる香ばしい匂いが漂っているほか、芒硝っぽい匂いもふんわり嗅ぎとれ、口に含むと弱い石膏味とほのかな芒硝味が確認でき、喉の奥などの粘膜には苦みや渋みが少々残りました(正苦味泉っぽい感じ)。また湯中ではキシキシ引っかかる感覚とサラスベの滑らか感が混在していましたが、どちらかといえばキシキシ浴感の方が勝っていたように感じられました。

さて、このお風呂でマニア的に戸惑うのは、脱衣室に2種類の温泉分析書が掲示されていること。ひとつは源泉名「那須温泉(旭温泉・地蔵の湯・桜の湯混合泉)」で、もうひとつは「大丸源泉 山楽No.1~15混合泉」と記されています。いずれも硫酸塩泉型の単純泉なのですが、前者は湧出温度が低く、湧出量も少ないため、両者を適宜ブレンドさせて使っているものと思われます。でも、どんな塩梅でミックスさせているかに関する説明は見当たらないため、詳しいことはわかりません。後者の「大丸源泉 山楽No.1~15混合泉」は那須温泉開発によって新那須温泉エリアの各旅館に引かれている源泉であり(「旅館山楽」や「自在荘」などで入浴できます)、その名の通り奥那須の大丸温泉から引湯されているものです。この「いこいの家」のすぐ傍には白河貯湯槽がありますから、その貯湯槽から分湯されていることは容易に想像がつきます。
一方、前者の桜の湯・地蔵の湯はどうやら御用邸の敷地に源泉が存在しているらしく、実際に御用邸内のお風呂へ引湯されているんだそうですが、大丸源泉とは異なり、新那須温泉エリアには供給されていないようです(たぶん)。出入口ドアの貼り紙に書かれていた「御用邸と同じ源泉から直接引いている…」という文言は、この桜の湯および地蔵の湯のことを指しているものと思われます。ちなみに桜の湯源泉といえば「大丸温泉旅館」でも同名の源泉(硫酸塩泉型の単純泉)が使用されていますから、けだし同じ源泉を指しているのかもしれませんが、「大丸温泉旅館」の桜の湯源泉は湧出量が毎分100Lをはるかに超えており、かつ70℃以上の高温ですから、「いこいの家」の分析書に記された38.0℃や毎分15.8Lという数字をどう解釈するべきか、頭の悪い私にはそのあたりの謎がよくわかりません。もうひとつの旭温泉とは、過去に存在した温泉旅館の源泉であり、現在このお湯を引いている施設は殆どないようです。いずれも湧出量が少なく湧出温度も低いのですが、これらのやんごとなきお湯に入れるのは、この「いこいの家」のお風呂だけ。公営の施設ながら、温泉マニア的には貴重な存在なのでした。

完全掛け流しのお湯は鮮度感が良好で、とりわけ那須湯本の酸性硫黄泉に入り続けた私の体には、非常に優しく感じられました。湯船はちょうど良い湯加減に調整されており、湯上り後は嫌味な火照りは無く、程よい温浴効果が持続しました。品の良いあっさり感と硫酸塩泉らしいシットリ&パワフル感を兼ね備えた良泉でした。


那須温泉(旭温泉・地蔵の湯・桜の湯混合泉)
単純温泉 38.0℃ pH7.1 15.8L/min(自然湧出) 溶存物質0.678g/kg 成分総計0.687g/kg
Na+:43.6mg(27.86mval%), Ca++:56.9mg(41.73mval%), Mg++:16.2mg(19.62mval%),
Cl-:2.7mg, SO4--:261.6mg(82.90mval%), HCO3-:63.6mg(15.86mval%),
H2SiO3:200.1mg,
(平成17年11月10日)

大丸源泉 山楽No.1~15混合泉
単純温泉 68.0℃ pH6.4 溶存物質0.873g/kg 成分総計1.006g/kg
Na+:62.3mg, Ca++:63.5mg, Mg++:22.3mg, Mn+:1.0mg, Fe++:4.3mg,
Cl-:6.3mg, HS-:0.1mg, SO4--:279.7mg, HCO3-:169.7mg,
H2SiO3:234.2mg, CO2:132.1mg, H2S:0.4mg,
(平成8年10月7日)

那須湯本バスターミナルから徒歩10分強。あるいは那須町民バスの湯本線(1日3本)で終点「いこいの家」下車すぐ
栃木県那須郡那須町大字湯本207-2  地図
0287-76-2342

日帰り入浴10:00~16:00
700円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
コメント
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