那須湯本温泉では「民宿南月」で一晩お世話になりました。いかにも民宿らしい渋い外観で、おそらくALC造の3階建。館内も実にアットホームな雰囲気です。玄関上の庇には沖縄のシーサーが載っかっているのですが…
客室がある2階へ上がる階段にもトロピカルな写真が飾られており、これらのものから推測するに、ご家族の中に南国好きの方がいらっしゃるのでしょうね。共用流し台の前を通って客室へ。
●客室・食事
今回通されたのは、道路に面している「茶臼」という9~10畳の和室。壁や畳に散見される滲みが建物の古さを物語っていますが、清掃はちゃんと行き届いており、テレビやお茶のセット等ひと通りの設備もあり、居心地に問題はありません(石油ストーブは用意されていましたが、エアコンは見られませんでした)。なお布団は自分で敷きます。
この日の宿泊は2食付きで予約しました。食事は夕朝ともにお部屋出しです。
上画像は夕食。お刺身、ナスやハスの炒め物、ローストビーフ、春雨の酢の物、茶碗蒸しなどといった家庭的なメニューと並んで、山の宿らしく鮎の塩焼きも卓上に並びました。
朝食は塩鮭、きんぴら、温泉卵などといった和風旅館のオーソドックスな献立の他、ハムやフルーツなど家庭的な要素も盛り込まれ、夕食に負けず劣らずのボリュームをもりもりいただき、朝から元気をたっぷり蓄えられました。
●お風呂
お風呂はいつでも入り放題。浴室は玄関のすぐ右手にあり、一室しかないので基本的に貸切で使い、使用時にはドアの札を裏返して使用中であることを表示しておきます(1階の奥の方には家族風呂と思しき小部屋がありましたが、そちらはお宿のご家族が使うものかと思われましたので、敢えてそちらには触れていません)。
浴室はコンパクトな空間ながら、浴槽をはじめとした随所が石板貼りで、木材も多用しており、小さいながらもしっかりとした造りです。室内には湯気とともに那須湯本の温泉らしいツンとくる硫黄の刺激臭が香っていました。室内の3分の2は浴槽で占められており、余った空間の片隅にシャワーが1基取り付けられていました。
浴槽は石板張りで2~3人サイズで、温泉街の他宿と同じく、鹿の湯・行人の湯の混合泉が引かれており、槽内をはじめとして床や側面など、お湯と触れるところは悉くレモンイエローを帯びた乳白色に染まっていて、浴槽縁からお湯がしっかりオーバーフローしていました。浴槽のすぐ上に窓があるため、時間帯や光の入り具合によって濁り方が異なって見えるのが面白いところ。上画像は夜のお風呂の様子なのですが、夜間は浴槽まわりのレモンイエローが強調され、お湯が張られている浴槽中央部は緑色を帯びた灰白色に濁って見え、底面はまったく目視できないほど強く濁っていました。
壁には鳥の巣箱みたいな木工の湯口が直付けされており、硫黄で白く染まったその箱から熱いお湯が注がれている他、浴槽左脇の壁から突き出ている配管、そして窓の外から伸びているホースからもお湯が注ぎ込まれていました。つまりこの小さな湯船に対し、3つの湯口からお湯が供給されていたわけですね。このホースから投入される熱いお湯は湯面近くで吐出されていたため、私が入室した当初は湯船の上の方が篦棒に熱かったのですが、しっかりと掻き混ぜたら入浴できるまでの湯加減に落ち着いてくれました。
翌朝のお風呂は陽光の影響を受けて青白みが強調されて綺麗なターコイズブルーを呈しており、底面がかろうじて目視できるほど透明度が上がっていました。同じお風呂でありながら、夜と朝とでは違った姿が楽しめるわけです。
前夜は木箱やホースなど3つの湯口から注がれていましたが、翌朝にお湯を供給していたのは巣箱型の湯口のみ。他2つの湯口のホースは外されており、お湯は床へ垂れ流されていました。湯口が絞られたおかげで前夜よりも湯温がおとなしくなっていて、おかげで朝からじっくり湯浴みすることができました。早い話が、3つの湯口を適宜使い分けることによって、湯加減を調整しているのですね。いずれにせよ夜も朝も常にお湯はかけ流されており、共同浴場や他の旅館と違ってこちらのお風呂は利用者が少なく、浴槽の容量に対してお湯の投入量が多いため、お湯の鮮度は素晴らしく、私が湯船に入るとザバーッと勢いよく溢れ出して豪快な気分が味わえました。
上述のようにこちらに引かれているお湯は鹿の湯・行人の湯混合泉で、浴室内には刺激を伴う焦げ渋のタマゴ臭が充満しており、お湯を口に含むとグレープフルーツを思わせる収斂酸味と甘味、タマゴ味と焦げ味、渋味、そして唇など口腔の柔らかい粘膜部分が痺れるような感覚が得られました。ちょっと熱めの湯加減だったので、入りしなはピリッとくる刺激が肌を走り、肌を摩るとキシキシ感があったのですが、湯船に入り続けているうち、酸性泉らしいヌメリ感とともにスルスベ浴感が優るようになり、クリーミーでなめらかな湯浴みを楽しむことができました。
硫黄や硫酸塩などのこびりつきにより白色や黄色といったカラーに支配されている浴室内で、ひときわ異彩を放っていたのが、洗い場に置かれていたこのあひるちゃん。入浴中はこのあひるちゃんを湯船に浮かべ、頭をつついたり、お湯をかぶせたりして大人気なく遊んでしまいました。
那須湯本には他にも民宿がありますが、温泉を引いた内湯を有しているのは、この「南月」と「新小松屋」の2軒のみ。大変リーズナブルなお値段でお食事付きの宿泊ができ、しかも24時間いつでも鹿の湯源泉の白濁湯を良好な状態で入浴できますから、コストと泉質を重視する方におすすめのお宿です。
鹿の湯・行人の湯混合泉
単純酸性硫黄温泉(硫化水素型) 57.2℃ pH2.6 溶存物質0.843g/kg 成分総計0.899g/kg
H+:2.5mg, Na+:28.5mg, Mg++:22.1mg, Al+++:7.6mg, Fe++:0.7mg,
Cl-:76.0mg, HSO4-31.3mg, SO4--:370.1mg,
H2SO4:0.2mg, H2SiO3:225.5mg, H2S:56.3mg,
那須塩原駅もしくは黒磯駅より東野交通の那須湯本方面行バスで「湯本一丁目」下車
栃木県那須郡那須町湯本17 地図
0287-76-2253
日帰り入浴できるか不明(那須温泉協同組合公式サイト内の日帰り入浴施設紹介ページでは非掲載)
ボディーソープのみ備え付けあり
私の好み:★★+0.5