温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

亀沢温泉

2012年01月27日 | 宮崎県

宮崎県えびの市の鹿児島県境に近い国道268号線沿いに位置する地味で鄙びた共同浴場です。看板などは立っておらず、自分の存在を一切主張していない控えめな佇まいが、引っ込み思案で日陰者だった学生時代の自分に似た物を感じ、思わずシンパシーを抱いてしまいました。それゆえか、迷うことなく初見にもかかわらず一発で辿りつけました。探すにあたっては、屋根上に飛び出た湯気抜きが唯一の目印といえましょうか。



地域のための共同浴場らしく簡素で質朴な建物。当然ながら無人です。脱衣室の奥の方に、共同管理している会員の名札がぶら下がっている掲示板があり、その下に透明アクリルの料金箱が固定されているので、各自で正直に料金をおさめます。



こちらの温泉は地元紙(宮崎日日新聞)にも取り上げられたことがあるそうでして、その記事が脱衣室内に掲示されていました。地元専用のお風呂は、外来者の利用を禁じているところがありますが、こうした切り抜きが掲示されているのを見つけると、「メディア取材がOKなら外来者の利用も問題ないんだな」という判断材料になり、湯めぐりをする私のような立場の人間はホッとするものです。



お風呂は男女別の浴室が一室ずつ。室内には大きな湯船がひとつ据えられており、脱衣室から浴室へ入った途端、芳醇なモールの香りに包まれます。共同浴場らしく装飾性が一切排除された質実剛健の実用本位な造りです。上がり湯用のカランは無く、水の蛇口が2本あるのみ。



ガッチリとした重厚感のあるモルタルの浴槽は6人サイズ。男女仕切り壁の中央に突き出た湯口からドバドバと源泉が大量投入され、浴槽の縁の切欠けからふんだんに溢れ出ています。無論完全掛け流し。烏龍茶のような褐色透明のお湯は、浴槽の底が見えにくいほど色付きが強いもので、その見た目から容易に想像できるように明瞭なモール泉であり、お湯からは芳しいモール臭が漂い、湯口に置かれたコップで口に含むとウイスキーのような深みのある薫香とほろ苦みが口腔で踊り、鼻へと抜けていきます。泡付きは見られませんでしたが、いかにもモール泉らしい滑らかな肌触りが夢心地であり、ツルツルスベスベな浴感には誰しもがウットリしてしまうこと必至。そして湯上りのさっぱりとした爽快感も極上であります。

やや熱めの湯加減ですが、せっかくの完全掛け流しですし、芳醇なモールの薫りを微塵も損なうことなく全身に纏うことこそ、この温泉が持つ本領を存分に堪能できますので、加水しないで入浴したほうが宜しいかと思います。訪問時は先客1人、後客4人と、なかなかの盛況ぶりでしたが、皆さんご親切に気を使って「熱かったら水で薄めて」と声をかけてくださいましたが、熱いお湯が好きな私は常連さんと同じように水で薄めない熱いお湯で温泉の持つ味を十分に楽しませてもらいました。



浴室内には「入浴心得」が掲示されていました。心得が貼ってある浴場は全国どこにもありますし、体を洗え、洗濯するななど、それぞれの文言も一見すると何ということはありませんが、お湯を汲みとるな、という項目に「但しお産の場合はその限りにあらず」と書かれているのがちょっと目を惹きました。ということは、この温泉を産湯にして産まれた赤ちゃんがいるってことかもしれませんね。



こちらは温泉の有権者総会で議題に上がった問題が箇条書きにされているプレートです。利用者に対して一層のマナーの向上を訴えるものですが、「『湯ぶね』の外側排水溝に『オシッコ』をする子供がいるそうです。特に女湯の方で臭う…との苦情があります」という、直球勝負な表現には驚きました。シャワーを浴びると条件反射で尿意を催す人は多いかと思いますが、その傾向には男女差があるのかもしれませんね。小さな女の子がプールで漏らしちゃうという話もよく聞きますし。


 
入浴しながら常連のお爺さんから聞いた話によれば、この亀沢温泉は「界隈で最も古い温泉」とのこと。湯上り後に湯屋の裏手へ回ってみると、そこには薄く苔むしている「亀澤温泉記念碑」が立っており、大正2年4月16日発見と彫られています。日本では明治中頃から上総掘りによる温泉の源泉掘削が盛んにおこなわれるようになりましたから、もしかしたらそのような時代の流れに乗ってこの温泉も掘削されたのかもしれません。なお上述の日日新聞の記事(切り抜き)によれば、亀沢温泉は発見から2年後の大正4年に開業へこぎつけ、現在では28世帯が交代で管理しているんだそうです。



その隣には御影石に彫られた昭和60年の「亀沢温泉改築記念碑」が。



更にはこれらの石碑群と並ぶように、真新しい貯湯タンクが傍に立っていました。タンクには「設置年月日 施工 平成23年5月28日」と記されており、かなり新しい設備であることがわかります。大正期の発見以降、平成の現在に至るまで地元の方々代々の連綿とした愛情が、この温泉を支えているのですね。鄙びた雰囲気もさることながら、お湯の質が非常に素晴らしい浴場で、地元の方々の愛情もあちこちから伝わってきて、とっても気に入ってしまいました。


単純温泉 pH7.5 52.6℃ 109.9L/min(動力揚湯) 溶存物質0.820g/kg 成分総計0.833g/kg
Na:153.2mg(79.47mval%),
HCO3:461.8mg(94.39mval%),
H2SiO3:150.9mg, 遊離CO2:13.2mg,

JR吉都線・鶴丸駅より徒歩15分(1.3km)
宮崎県えびの市大字亀沢字野添119  地図
(車は湯屋裏手の公民館前にある空きスペースに駐車可)

9:00~21:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント
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