温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

小鹿野温泉 幸荘

2012年01月11日 | 鹿児島県
 
鹿児島県・隼人町郊外のとっても長閑な田園地帯に佇む一軒宿です。特に風光明媚な景勝があるわけでもなく、観光で立ち寄るような場所ではないので、事前にお湯の良さを聞きつけて足を運ぶ私のような人間か、馴染みの湯治客以外はあまり訪れそうにないお宿かもしれません。看板はよく目立っていて県道からも見えますが、無駄に広くて荒涼としかけた駐車場の奥には渋く鄙びた建物が構えており、札も掛けられていなければ幟も立っておらず、日中とはいえ電気もことごとく消されており、中に人がいるような気配もないので、営業しているのかどうか不安になりました。



玉砕覚悟で訪ってみると、広く暗い帳場の真ん中では、客用と思しきソファーに老夫婦がちょこんと腰を下ろし、テレビでNHKを見ながらお食事なさっていた最中でした。まさかロビーで日常風景が展開されているとは想像だにせず、少々面喰ってしまいましたが、田舎らしい力の抜けた光景にほほえましさを覚え、食事中に突然訪問する無礼を詫びつつ入浴を乞うと、どうぞどうぞとお風呂へ案内してくださいました。


 
浴室は帳場の左側で、若干手前へ戻るような位置にありました。玄関の三和土も浴室前まで続いており、靴のままお風呂の入口前まで行ける構造になっています。



脱衣所は棚に鶯色のカゴが置かれたシンプルな造りで、その一角には畳表が張られた腰掛が据えられています。また壁には公衆浴場の組合のポスターが貼られていました。当地の事情には暗いので推測の域を出ませんが、このお宿のお風呂は(青森県の温泉旅館でよく見られるように)銭湯代わりに利用されているのかもしれません。



お風呂は男女別の内湯が一室ずつ。浴室内も、旅館というよりは銭湯のような雰囲気で、装飾性はほとんど見られず、タイル貼りの室内にカランと四角い浴槽が据えられているだけの、極めて実用的なレイアウトです。洗い場のカランは、シャワー付き混合栓が1基、湯と水の蛇口の組み合わせが3基、水道のみが2基、という具合ですが、各水栓におけるお湯と水の区別があまり明確ではないため、使う前に配管を辿ってどの蛇口がお湯か水かを確認してから利用したほうが良いかもしれません(たとえば混合栓の左側とつながっている方がお湯、というように)。


 
長方形の浴槽はおおよそ6人サイズでしょうか。縁は成分の付着によって深紅色に染まり、まるで漆器のような美しさを放っていました。また洗い場の床はいかにも重炭酸土類泉らしい鱗状の石灰華に覆われていました。窓下から突き出ている鉄管の湯口から滔々と源泉が注がれ、浴槽の縁からザブザブと勢いよく溢れ出てゆきます。掛け流しで投入量が多いため、お湯は新鮮そのもの。
やや緑色を帯びた黄色に弱く濁ったお湯からは土類泉ならではの匂いと金気臭や弱いタマゴ臭が漂っており、それらの匂いは浴室内に充満しているので、浴室の戸を開けた途端に鼻をついてくれるでしょう。口に含むと石灰味+金気味+炭酸味(ほろ苦みと微収斂)が感じられ、炭酸味をもたらしている遊離炭酸ガスが湯中の肌に細かく付着します。ややぬるめの湯加減である上、泡が付着してくてるので、後を引いて浴槽から出るに出られず、ついつい長湯したくなること必至です。
今回は利用しませんでしたが、この大浴場とは別に家族風呂も別棟に用意されているそうなので、貸切でこのお湯を楽しみたい方には家族風呂がいいですね。こうした質素な宿ですら個室のお風呂を擁しているあたりが、九州の温泉の素晴らしいところですね。鄙びと泉質の両方を堪能できる素晴らしい施設だったので、わざわざここへ足を運んで正解だったと、湯上りに思わずほくそ笑んでしまいました。


ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩温泉 44.0℃ pH6.5 150L/min(掘削) 溶存物質2289mg/kg 成分総計3287mg/kg
Na:310.9mg(48.46mval%), Ca:149.3mg(26.70mval%), Mg:64.68mg(19.06mval%),
Cl:179.5mg(18.65mval%), HCO3:1313mg(79.32mval%),
H2SiO3:184.2mg, 遊離CO2:1011mg,
(昭和53年7月5日)

鹿児島県霧島市隼人町松永2625  地図
0995-43-4046

8:00~21:00
250円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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