温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

乗鞍高原温泉 せせらぎの湯 2015年7月再訪

2016年07月17日 | 長野県
ちょうど1年前の2015年7月某日、不摂生な体でも頂上へ到達できるお手軽な山に登りたくなって、北アルプスの乗鞍岳へ登山しました。

 
畳平というスタート地点が既に結構な高所であり、かつ登山道がよく整備されていて、これといった難所も無いため、運動不足の私でも容易く頂上まで登れちゃいました。上画像は乗鞍岳の山頂部最高点である剣ヶ峰(3026m地点)と、そこに建立されている乗鞍本宮のお社です。



山裾に残る雪渓では夏スキーを楽しむ子供たちの歓声が上がっていました。
乗鞍コロナ観測所の奥には、焼岳や穂高連峰など北アルプスの険しい稜線が果てしなく連なっています。



南を向くと、前年に爆発した御嶽山が唯我独尊と言わんばかりに威風堂々と聳えていました。
こんな美しい山が時として牙を剥くとは…。



頂上直下で青インクのような神秘的な色の水を湛えているのは権現池。その池越しの彼方で稜線を展げているのは白山連峰。



山裾、とりわけ畳平付近の花畑は高山植物の宝庫。短い夏を謳歌するように色とりどりの可憐な花が元気いっぱいに咲いていました。
この黄色い花の群生はミヤマキンバイかな。


ハクサンイチゲは大きな群生をつくっていました。


この山ではクロユリも群生をなしており、あまりの数の多さに大興奮。
こんな可憐で魅惑的な花なのに、ハエを呼び寄せるため匂いがクサイんですよね。


火山ですからガレにはコマクサも咲いています。

 
さて乗鞍岳登山で眺望と花々を満喫した翌日のこと。私は麓の乗鞍高原へと向かいました。メインストリートの向こうには私が登った乗鞍岳が聳えていますが、山頂は雲の傘を被っており、この景色を見ながら「前日登山しておいて良かった」と自分の運の良さに思わずニンマリ。


 
乗鞍高原を訪れた理由は「せせらぎの湯」で湯浴みするためです。私個人としては久しぶりの再訪であり、拙ブログでは2009年に一度取り上げておりますが、以前と全く変わらぬ姿、そして以前同様の利用形態が維持されていることに安心しました。なお以前の記事はこちらです。


 
無人の入浴施設だというのに、脱衣室は綺麗に維持されていました。管理なさっている方々のご尽力に感謝しながら入室させていただきます。
壁には盗難の注意を喚起するメッセージが直書きされていましたが、こんな清らかな環境の場所でも物騒な事件が発生してしまうのですね。


 
とても無人の露天風呂とは思えないほど、入浴ゾーンも手入れが綺麗に行き届いており、テラスのように設えられている総木造のお風呂には、白濁の硫黄泉が絶え間なく注がれていました。入浴ゾーンに足を踏み入れてから脱衣室側を振り返ると、壁には貴重品を引っ掛けるフックが数本刺さっていたのですが、つまり自分の目が届く場所で貴重品を管理しましょうということですね。週末など混雑が予想されるときにこちらを利用する際には、あらかじめフックにひっかけられる袋を持参しておくと良いかもしれません。


 
すぐ目の前には巨大な岩がせり出ており、こちら側へ転がってくるのではないかと恐怖感を抱いてしまうのですが、長年にわたって微動だにしないのですから、そんな心配は杞憂であり、むしろそのまま残すことによってワイルドさを演出しているのかもしれません。湯小屋の裏手には小川が流れており、お風呂までせせらぎの音が響いてきます。この小川が湯小屋の名前の由来なのでしょう。


 
 
木樋の湯口からお湯が滔々と注がれ、その流路は硫黄によって濃い黄色に染まっていました。ほぼ正方形の浴槽は3人サイズ。女湯浴槽との間は千鳥格子で仕切られており、お湯は男女間を往き来できるようになっています。湯船のお湯は灰白色濁りで、底面がボンヤリ見える程度の透明度があり、白い湯の華がたくさん沈殿していて、お湯を動かすとその沈殿が舞い上がります。実際に私が入浴したところ、糸くずのように細長い繊維状の湯の華が体にからみつき、全身湯の華まみれになりました。湯面からは噴気帯のようなツンとくる刺激を伴う硫化水素臭が漂い、お湯を口に含むと、タマゴ味とゴム味を足して2で割ったようなイオウ味、弱い収斂酸味、そして唇がビリビリ痺れる渋みや苦みが感じられました。引いたお湯を浴槽に張っているだけのお風呂ですから、循環や消毒などとは無縁の完全放流式。常時お湯がかけ流されており、かつ加水などしていないのに、湯加減は40〜41℃という長湯仕様になっているため、夢見心地で極上のバスタイムを過ごすことができました。こんな素晴らしい温泉に無料で入れるのですから、本当にありがたい限りです。管理くださっている方々に心から感謝です。



この「せせらぎの湯」を含めた乗鞍高原温泉一帯では、前日に私が登った乗鞍岳の中腹にある湯川源泉からお湯を引いて、各施設へ分配しています。温泉街の入口付近(「せせらぎの湯」の近く)に建てられている「開湯記念」の石碑によれば、以前から源泉の存在は知られていたものの、技術的な問題によって当地まで引湯することができませんでした。源泉の場所は白骨温泉から更に川を遡った大丹生岳東面の地獄谷にあり、当地からは山をひとつ越えなければなりません。しかし当時の村長が「地域の発展のためには、温泉が必要である」として引湯事業に取り組み、昭和51年11月22日に念願叶って開湯に成功したんだそうです。普段はのんびりと観光客を癒している温泉ですが、実のところ多大な苦難の上に成り立っているんですね。


湯川温泉
単純硫黄温泉(硫化水素型) 46.4℃ pH3.12 蒸発残留物660mg/kg 溶存物質805mg/kg
H+:0.6mg, Na+:65.4mg, Mg++:19.8mg, Ca++:62.7mg,
Cl-:76.7mg, HSO4-:7.5mg, SO4--:353.8mg,
H2SiO3:183.0mg, CO2:365.6mg, H2S:77.9mg,
(平成17年5月12日)

長野県松本市安曇鈴蘭 

21:00以降消灯、開放期間中は無休ですが清掃日および冬季は閉鎖されます
(飲食物持ち込み禁止。駐車場は乗鞍観光センター前を利用。「コロナ連絡所前」バス停付近は駐車禁止)
無料
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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白骨温泉 笹屋

2016年07月15日 | 長野県
 
温泉施設はえてして内湯よりも露天風呂に人気が集まりますが、世の中には燦然と輝く存在感の内湯があり、白骨温泉の「小梨の湯 笹屋」はその典型ではないかと思っております。昨年末に拙ブログで、私が2015年に入った温泉ベスト10にランクインさせていただきましたが、それほど印象的な内湯でした。
私が玄関を訪うと、アイドルかと見紛うばかりの若い美女がまず現れ、その後、上品な対応の女将さんが日帰り入浴の対応をしてくださいました。その際に内湯と露天のどちらかを選択するよう求められます。女将さんの口ぶりから察するに内湯を薦めていたように思われたので、その示唆を読み取って内湯でお願いしました。


 
玄関や帳場から右手に折れて廊下を進むと、上画像のような休み処や勝手口が集まる一角があり、後述する露天風呂へ出る勝手口のそばには竃を併設している立派な薪ストーブが設置されていました。


●内湯
 
休み処の脇から緩やかな階段廊下を上がって内湯へ。途中に掛かっていた扁額には「座忘庵」と記されていたのですが、つまり座っていることを忘ちゃうほど寛げるお風呂ということなのでしょう。


 
男湯は突き当たりの左側。脱衣室は和風で落ち着いており、手入れが行き届いていて清潔感に満ちていました。


 
脱衣室から内湯への扉を開けた瞬間、目の前に広がる光景の美しさに感動し、その場でしばらく立ち尽くしてしまいました。この日は気持ち良く晴れていたため、2方向の窓が全て取り払われており、ほとんど露天風呂状態となっていたのですが、そのおかげで周囲の木立から爽やかな風が入り込んでくるばかりでなく、白樺の緑と白濁の湯が木造で重厚感のある湯屋と上手い具合に調和しており、息をのむ美しさを生み出していたのでした。


 
浴槽は元々の材質がわからないほど分厚い石灰華で覆われており、縁には鱗状の模様が幾重にも層をなし段々を形成しています。湯船のお湯は綺麗に白濁しているのですが、白樺の緑が湯面に映りこんでいるため、何とも言えない神秘的な色彩を放っていました。
なるほど「座忘庵」という名前に納得。湯船に浸かっていると、全てを忘れてこの風景と自分が同化したかのような錯覚に陥ります。そして頭の中にこびりついた煩悩や懊悩など全てが雲散霧消していきました。


●露天風呂

湯上がりに露天風呂をちょっと見学させていただくことに。
この露天風呂は貸切で利用するのですが、空いていれば日帰り入浴客も利用可能です。なお利用時間は1回30分。
空いている時には、勝手口にその旨を示す看板が出ています。


 
下駄に履き替えて一旦屋外に出て、向こう側の専用口から階段廊下を上がります。


 
露天風呂も内湯に負けず劣らずの美しさ。白樺の緑と白濁の湯による鮮やかなコントラストが印象的。かつトルコ石のような色と形状の湯船も幻想的。絵画の世界そのものです。


 
脱衣スペースや洗い場は簡素。カランは1基だけ設けられていますが、シャワーはありませんので、しっかり体を洗いたい場合は内湯へ。
壁に時計がかかっていますので、退出するまでの時間は自分で確認します。


  
 
浴槽のまわりはアイボリー色に染まり、千枚田状の石灰華で分厚く覆われています。
お湯はターコイズブルーとターコイズグリーンの間のような神秘的な色を帯びており、透明度は50〜60cmほど。湯船はあえて歪な形状とすることによって、周囲の景色に溶け込ませているようですが、お湯の色や湯船の形状は勾玉を連想させるので、神々しさすら覚えます。

内湯・露天とも自家源泉を掛け流し。湯面からは鼻腔をツンと刺激する硫化水素臭が漂い、口に含むと弱タマゴ味、苦味渋味、弱炭酸味、若干遅れて甘露を伴う石膏味が感じられました。湯中では弱いツルスベが得られるのですが、腕を摩るとギュッとグリップが効き、ひとくちでは表現できない複雑な浴感で全身が包まれます。とはいえ、ひと度お湯に入ると優しい感覚に抱かれ、美しい景色も相まり、時間を忘れていつまでも浸かっていたくなります。

今回は立ち寄り入浴でしたが、いずれは宿泊して時間に気兼ねなくゆっくり湯浴みしたものです。


小梨の湯
含硫黄-カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩温泉(硫化水素型) 52.5℃ pH6.7 湧出量未記載(掘削自噴) 溶存物質1575mg/kg 成分総計1796mg/kg
Na+:84.5mg(18.27mval%), Mg++:63.6mg(25.97mval%), Ca++:210.0mg(52.03mval%),
Cl-:89.6mg(12.88mval%), HS-:6.1mg, HCO3-:1025mg(85.54mval%),
H2SiO2:55.8mg, CO2:207.1mg, H2S:13.7mg,
(平成17年4月27日)

長野県松本市安曇4182-1  地図
0263-93-2132
ホームページ

日帰り入浴11:00〜14:00
600円(内湯・露天のいずれかを選択。露天は貸切)
シャンプー類・ドライヤーあり(いずれも内湯。露天には無し)

私の好み:★★★
コメント (4)
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白骨温泉 煤香庵

2016年07月13日 | 長野県
 
意外にも拙ブログでは初登場となる信州の名湯白骨温泉。
昨年初夏に白骨温泉の日帰り入浴施設兼食事処の「煤香庵」へ立ち寄りました。当地では有名な「齋藤旅館」が運営しており、外観は和の趣きたっぷりです。


 
民芸調の館内には座敷の広間があってお食事が可能。訪問した日は天気がよく、すべての戸や窓が開け放たれていました。
お風呂へ向かう通路の途中には、お湯を持ち帰るためのPETボトルが用意されていました。こちらの施設では自由にお湯を持ち帰ることができるんですね。このほか、冷たいお茶やお水のサービスもあり、お風呂上りにはありがたく飲ませていただきました。



浴場は裏手から出た先の別棟みたいな場所にあり、数段のステップを上がると脱衣室です。本棟は古風で風情のある造りでしたが、脱衣室は実用的でやや草臥れており、しかも室内に設置されているのは事務用品のようなスチールロッカー。思いっきり艶消しのような気がしますけど、ま、この部屋は着替え終わったらすぐに出てしまいますから、それでも良いのかな。


 
お風呂は露天の浴槽ひとつのみで内湯はなく、脱衣室の戸を開けるといきなり露天風呂が目の前に据え付けられていました。浴場全体としてのスペースはあまり余裕が無いかもしれません。浴槽の手前左右に洗い場があり、シャワー付きカランが計4基設置されています。浴場はほとんどが木造となっているのですが、白木を剥き出しにしていると滑りやすいためか、足元には人工芝が敷かれていました。


 
総木造の浴槽は1.5m×5mほどの長方形で6〜7人サイズ。お湯は薄い翠色と明るい灰色を帯びた白濁で、透明度は30〜40cmほど。湯中では微細な白い湯の花が無数に浮遊しています。山の緑、青い空、そして白い湯のトリコロールが実に美しく、その色彩美を眺めているだけでも心が洗われます。
源泉温度の関係で少々加温しているそうですが、ほどほどに抑えられており(体感で湯船は40℃前後でした)、時間を忘れていつまでも長湯していられます。実際に私を含め、他のお客さんもみなさん瞑目して、ゆっくり静かに湯浴みなさっていました。


 
総木造の浴槽ですが、浴槽の縁などには温泉成分によって鱗状の析出が分厚くこびりついており、厚いところでは5mmもあって、切り欠けの下には瘤みたいな膨らみやトゲトゲも形成されていました。湯口には飲泉用の枡が備え付けられており、それでお湯を汲んで飲んでみますと、クレゾールみたいなツンと来る刺激を伴う硫化水素臭が鼻孔を突き、タマゴ味、口腔粘膜を刺激して痺れさせる渋みとえぐみ、強い苦味、少々の炭酸味、粉っぽい味、そして若干遅れて石膏的甘味が感じられました。上述したように長湯仕様のややぬるい湯加減ですが、イオウによる血管拡張効果のためか、入浴していると力強く温まって、やがて長湯ができなくなり、湯船から出ざるを得なくなります。でも嫌味な火照りは無いため、山の風に吹かれるとすぐに爽快感が全身を走り、クールダウンして落ち着いたところで再び湯船に入る、そしてまた出る・・・このルーティーンを何度も繰り返してしまいました。シンプルなお風呂ですが、余計なものが無い分、湯浴みに専念でき、周辺の環境も良いため、大変気持ち良いひと時を過ごすことができました。

お風呂の規模等から考えると観光地設定の料金設定と言えそうですが、当地では珍しく午前中から日帰り入浴を受け入れているため、時間を気にせず白骨温泉を手軽に体験するにはもってこいの施設かもしれませんね。


湯元5号
含硫黄-カルシウム・マグネシウム-炭酸水素塩温泉 39.7℃ pH6.6 94.6L/min(自然湧出) 溶存物質1546mg/kg 成分総計2125mg/kg
Na+:81.1mg(18.67mval%), Mg++:50.9mg(22.16mval%), Ca++:209.1mg(55.16mval%),
Cl-:99.9mg(14.57mval%), HS-:7.3mg, HCO3-:988.5mg(83.70mval%),
H2SiO3:69.7mg, CO2:558.8mg, CO2:20.7mg,
(平成18年10月3日)

新島々からアルピコ交通バスの白骨温泉行で「白骨温泉」下車。
長野県松本市安曇白骨4200  地図
0263-93-2917
ホームページ

9:00〜17:00、4月下旬~11下旬営業(冬季休業)、水曜定休
700円
ロッカー・石鹸・ドライヤーあり

私の好み:★★+0.5
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中の湯温泉旅館 卜伝の湯

2016年07月11日 | 長野県
前々回および前回記事で取り上げた「中の湯温泉旅館」には、離れたところに湯小屋「卜伝の湯」を有しており、30分貸切で利用することができるので、宿泊した際に利用してみることにしました。宿泊客はフロントに利用したい旨を伝え、空いている時間の中から自分が希望する時間枠を指定すればOK。入浴時間のちょっと前に玄関前から専用車が出発し、現地まで送迎してくれます。


 
国道158号で安房峠や安房トンネルを通過したことのある方なら、必ず通る釜トンネル前の丁字路。上画像はその丁字路を高山(安房峠)側から撮ったもので、右折すると松本方面、左折すると上高地方面です(上高地方面は一般車両進入禁止)。この丁字路の角には中の湯売店があり、宿の車はこの売店前まで送迎してくれます。なお日帰り入浴も可能で、空いている時間枠があれば入浴できますが、宿泊者優先であり、しかも周辺には駐車場がほとんど無いため(路駐できるスペースもありません)、実は日帰り入浴しにくい温泉なんですよね。私も何度も目の前を通り過ぎていながら、この日まで入浴の機会を見出せないままでいました。実を申せば、今回「中の湯温泉旅館」に泊まった理由のひとつが、気兼ね無く悠々と「卜伝の湯」に入ることでした。


 
これが「卜伝の湯」の湯小屋です。安房トンネルを通る車は必ずこの前を通過しますから、温泉に興味がなくてもこの湯小屋を目にした方は多いでしょう。いや、あまりに小さすぎて見逃しちゃうかも。ちなみに卜伝とは剣の達人塚原卜伝のことらしく、湯小屋の名前はかつて塚原卜伝がここで湯浴みしたことに由来しているんだそうです。


 
貸切のお風呂なので、利用の際には売店のおじさんがドアを解錠し、入室したら中から鍵をかけます。なお利用中は屋外側のドア上に設置されている赤いパトランプが回転しながら点灯するんだとか。
脱衣室の中は右or下画像のような感じで、棚と籠があるだけのシンプルな室内です。窓の下では梓川が飛沫をあげながら流れており、対岸に売店の建物が建っています。画像では伝わりませんが、室内は薄暗くてかなりジメジメしていました。籠の上で掲示されているように、利用時間は30分以内。


 
脱衣室と浴室を隔てるドアを開け、滑らないように足元を注意しながら苔むしたコンクリのステップを降りてゆくと・・・


 
洞窟のようなお風呂に到着です。ただ奥に深い洞穴にお湯が溜まっているだけの、至って原始的なお風呂であり、カランなどはありませんが、洞穴の中の温泉ゆえ、内部はかなりの高湿度でお籠り感も高く、秘湯感たっぷりです。塚原卜伝もこの洞穴で湯浴みをしたのかな。
岩盤をくりぬいたような湯船は3人サイズで、手前側の槽内は岩盤そのものですが、奥の方はやや深く、砂利敷きになっていました。岩肌に塩ビ管が這わされていて、そこから熱いお湯が注がれています。その一方、湯船の右側にも一本のパイプが奥から伸びており、洗い場側で鉱泉らしきものを放出し続けていたのですが、触ってみますとかなりぬるかったので、おそらく湯船へ流れてしまうと湯加減が下がってしまうために、こうしてパイプで洗い場へ逃がしているのではないかと推測されます。
湯船のお湯は薄っすら白く霞んだような濁り方をしており、湯中では白い湯の花が舞い、火山ガスに似たような少々刺激を伴う硫化水素的な味と匂い(タマゴ臭とゴム臭を足して2で割ったような風味)が感じられました。


 
洞穴湯船の奥には行く手を遮る板が渡されており、「この先に深穴あり 行かないで下さい」と書かれていましたので、私も念のために先へ進むのはやめました。どうやらその深い部分の底でお湯が湧出しているらしいのですが、暗い中で目を凝らしてよく見ると、奥で洞穴が窄まり、狭くなった箇所はたっぷりの金気によってオレンジ色に染まっていました。


 
その部分を明るくして撮り直してみたのですが、湯気が反射し、却って見にくくなっちゃいました。ごめんなさい。でもなんと無く雰囲気は伝わるかと思います。オレンジ色の箇所からはぬるい鉱泉が湧いているのですが、温度が低いためか、上述のように湯船へ注がれることは無く、全量がパイプで洗い場へ捨てられていました。
後日、この「卜伝の湯」に関してネットで調べてみますと、湯船のお湯が金気色に濁っていたり、あるいは私が入浴した時のように微白濁だったりと、その時々によってお湯の状態が異なっていることに気づきました。洞窟内で湧く温泉やぬるい鉱泉のほか、離れたところから別源泉を引いて、それぞれを供給したり止めたりすることによって、その時々の状況に応じて湯加減を調整しているのかもしれませんね。


 
余談ですが、冒頭に申し上げた釜トンネル前の丁字路を松本方向へ進むと、国道158号線に沿って、梓川の対岸にかつての中の湯の露天風呂跡があり、いまでも白い筋を描きながら温泉が自噴しています。この光景を見るにつけ、野湯してみたいなと思うのですが、私有地ですから無理ですね。

洞窟という密閉された暗い高湿度の空間ですので、開放感や爽快感とは逆ベクトルであり、人によっては恐怖感や不気味さを覚えてしまうかもしれません。このお風呂は、塚原卜伝の時代から残されてきた歴史を追体験したり、あるいは洞窟という環境で探検気分を味わったりと、独特の雰囲気を楽しむことに専念すべき施設であって、好みが分かれるかと思いますが、私は歴史の面でも探検気分でもしっかり楽しませていただきました。


中の湯(卜伝の湯)
単純温泉 40.5℃ pH7.6 40L/min(自然湧出) 溶存物質0.771g/kg 成分総計0.786g/kg
Na+:108.8mg(57.68mval%), Ca++:57.4mg(34.88mval%),
Cl-:82.4mg(28.68mval%), HS-:0.2mg, SO4--:50.2mg(12.98mval%), HCO3-:280.7mg(56.86mval%),
H2SiO3:169.9mg, CO2:14.7mg,
(2014年8月26日)

長野県松本市安曇  地図
0263-95-2341(中の湯売店)
0263-95-2407(中の湯温泉旅館)

日帰り入浴12:00~17:00(ただし空いている時のみ)
700円
備品類なし

私の好み:★★
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中の湯温泉旅館 後編 大浴場

2016年07月10日 | 長野県
前回記事の続編です。

 
館内には薬師様を挟む形で大浴場が2室あり、公式サイトによれば一応男女が固定されているようです。しかしながら、たしかに脱衣室や内湯に関しては双方ともほとんど同じレイアウトであるものの、露天風呂の眺めに多少の差異があるので、平等を期すためなのか、夜22時に男女の入れ替えが行われます。
拙ブログでは、ほとんど同様の内湯に関しては片方のみ、露天風呂に関しては両方紹介させていただきます。


●内湯
 
明るくて綺麗な脱衣室は使い勝手良好。穂高を望める窓からは冷涼な山の風が入ってきます。洗面台は3台あり、ドライヤーも備え付けられていました。



浴室のドアを開けた途端、焦げたようなイオウの匂いがプーンと香り、自ずとお湯に対する期待に胸が膨らみました。天井の高い浴室には大きな窓が設けられ、明るくて快適です。上述のように2つの内湯には中央に柱が立ち、その向こう側に二つの浴槽がL字型に配置されているという共通のレイアウトになっていますが、窓の配置に若干の違いがあります。


 
洗い場にはシャワー付きカランが計7基あり、お湯はボイラーの沸かし湯が吐出されますが、室内に漂う温泉のミストの影響で、水栓金具は黒く硫化していました。この色の水栓を見ると、硫黄泉であることをビジュアル的に実感します。


 

主浴槽は(目測で)2.5m×5mの2〜3人サイズ。縁には御影石、底面には緑色凝灰岩が用いられています。湯口は副浴槽との間に据えられていて、両者にお湯を供給しており、湯口周りにはトゲトゲの析出が、そして流路はイオウ由来の白いユラユラが付着していました。主浴槽では万人受するちょうど良い湯加減が維持されていましたが、投入量があまり多くないためか、夕食の時間前後に入ると湯船のお湯が若干鈍っていました。なお浴槽に張られたお湯は洗い場へオーバーフローせず、専用の吸込口から後述する露天風呂へと流れ落ちていました。


 
副浴槽は(目測で)1.8m×3.5m、5〜6人サイズ。湯口は主浴槽と同じ石積みですが、吐出口は別々になっており、こちらは湯加減は若干熱く、入浴客にも好き嫌いが合うためか、混雑時でも湯鈍りは少なく、透明度を保っていました。
お湯は無色透明ですが湯中では白い湯の華が浮遊しており、湯鈍りを起こしていた夕方の湯船では若干白く霞んでいました。湯口からはツンとした刺激や焦げたような感じを伴う噴気帯的な硫化水素臭が放たれ、ほろ苦味やゴムっぽさを有するタマゴ味が感じられました。源泉名は「旧本館泉」と称するのですが、その名の通り、中の湯旅館が移転する前からある源泉のお湯をポンプアップしてここまで引いているんだそうです。どうせならこの場所で新たに源泉を掘りゃいいじゃねーかと素人ながらに思うのですが、当然ながら既にプロの関係者によって試掘が行われており、掘ってみたところでぬるいお湯しか湧かなかったため、わざわざ旧旅館時代の源泉を引いているんだそうです。


●露天風呂 (1)
 
チェンクインした日の男湯に付帯している露天風呂は、公式サイト上でも男湯として紹介されており、屋根など視界を遮る人工物が無く広くてゆとりのある岩風呂は、開放感抜群です。


 
巨大なブナの梢越しに穂高の峰々を一望。そして、夜間は満天の星空を眺めながらの湯浴み。
素晴らしい露天風呂です。


●露天風呂 (2)
 
夜22時からは男女が逆転し、公式サイト上で女湯と紹介されている浴室が男湯になりました。上述しましたように内湯は(若干の窓の配置を除いて)ほとんど同じ構造ですが、露天風呂の設えは異なっています。前日に男湯だった露天風呂は開放感抜群でしたが、女湯としての用途を想定しているためか、こちらの露天風呂には目隠しの衝立が立っており、山のてっぺんが申し訳程度にちょこっと姿をのぞかせている程度で、山の景色はほとんど望めません。でも木々に囲まれているため、森の中で湯浴みしているような感じです。


 
両方の露天風呂ともに湯口がふたつあり、一方は源泉から引かれたお湯が注がれていたのですが、もう一方は内湯から流れてきたお湯の受け湯です。内湯のお湯は100%源泉(場合により加水あり)ですが、露天風呂のお湯は半分が内湯の余りなんですね。それだからか、どちらの露天でも湯浴みした時のフィーリングは内湯よりもやや劣り、いまいち物足りないものがありました。でもロケーションが素晴らしく、お湯の問題を補って余りある楽しみを得ることができました。

通年営業していますが、これから迎える猛暑の時期には避暑にもってこい。日本の温泉旅館らしい凛とした佇まいと、山小屋らしい鷹揚さを兼ね備えた、実に快適なお宿でした。


中の湯(旧本館泉)
単純硫黄温泉(硫化水素型) 53.5℃ pH6.6 150L/min(自然湧出) 溶存物質0.460g/kg 成分総計0.543g/kg
Na+:67.0mg(68.96mval%), Ca++:16.9mg(19.91mval%),
Cl-:55.3mg(36.11mval%), HS-:0.7mg, SO4--:23.2mg(11.11mval%), HCO3-:131.2mg(49.77mval%),
H2SiO3:144.8mg, CO2:80.8mg, H2S:2.2mg,
(2014年8月26日)
源泉温度が高いため熱交換実施(交換熱は暖房や給湯に使用)。
気象状況により温度センサーが働いて加水される場合あり。
源泉温度が下がった時に加温する場合あり。
清掃時(10:00〜12:00)および夜間(0:00〜2:00)に消毒剤使用。

長野県松本市安曇4467  地図
0263-95-2407
ホームページ

日帰り入浴12:00~17:00
700円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★★
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