温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

台湾旧型客車の旅、再び。南廻線3671次普快車・台東行 後編

2016年07月21日 | 台湾
前回記事の続編です。


 
全長8070mの中央トンネルで台湾の脊梁をくぐり抜け、太平洋側の古荘駅に停車です。
かつての日本でもSLが現役だった頃は、トンネルへ入る前にみんな一斉に窓を閉めて、煙が車内に入り込むのを防いだものですが、この列車の牽引はSLではなくDL(ディーゼル機関車)であるとはいえ、排気ガスがトンネル内にこもって後方の客車側へ流れてくることに変わりありません。しかもトンネル内はものすごい轟音ですので、窓を開けっ放しにしていると、排ガスと騒音のダブルパンチに見舞われます。このため、山越えの長いトンネルが続くこのあたりでは、みなさん窓を閉めて大人しくやりすごしていました。



古荘を出発してトンネルをくぐると、今度は太平洋の大海原が車窓に広がります。
車両こそ40~50年選手のベテランですが、地形が険しく過疎地でもある地域を貫くこの南廻線は、建設開始が1980年、全線開通が1992年と新しい路線であるため、連続する山や谷、川などをトンネルや高架で次々にクリアし、険しい地形にもかかわらず急な勾配やカーブがありません。このため、車両こそノスタルジーたっぷりですが、列車の走り方や線路設備にローカル線風情は感じられず、高雄と台東を結ぶ路線にふさわしい高規格な線路を、各列車が快走してゆきます。


 
南シナ海側を走っていたときには、空はまだ明るさを保っていたのですが、山を越えて太平洋側に来ると、海原の上には重たそうな雲が垂れ込め、窓から吹き込む風もいまにも雨が降ってきそうな湿り気を帯びていました。 



「台湾旧型客車の旅 南廻線 普快車3671次・台東行 最後尾の景色 」(7分55秒)
大武を出発してから次の瀧渓まで、開けっ放しの最後尾に立って、動画を撮り続けてみました。
大武を出た列車はいきなりトンネルに入りますが、暗闇から抜けると進行方向右手(動画では左手)に太平洋の大海原が広がります。この海岸線に沿って走る風光明媚な車窓は、南廻線の大きな魅力のひとつであり、ほとんどの車両がハメ殺しの窓になった現在の台鉄で、窓を開けて潮風を感じながら乗車できる列車は、この旧型客車を使っている普快車一往復だけです。



「台湾旧型客車の旅 南廻線 普快車3671次・台東行 海側座席の車窓」(6分02秒)
つづいての動画は、瀧渓から次の金崙まで、シートに座って車窓を撮影したものです。途中(3分50秒)で真っ赤な柵を通過しますが、これは昨年拙ブログで紹介した台湾で最も美しい駅「多納駅」跡です。


 
金崙渓の橋梁を渡ると、まもなく温泉地である金崙駅です。
線路の海側では新しい道路の工事中。反対の山側には、以前このブログでも取り上げた金崙温泉の宿が川に沿って点在しています。



12:35に金崙駅到着。時刻表によればこの駅で10分弱停車するらしく、おそらくその間に対向列車の行き違いた優等列車の通過待ちなどを行うのでしょうけど、ダイヤに若干の乱れがあったらしく、この駅ではすぐに発車しました。さすが台湾南部を東西に結ぶ大動脈だけあって、多くの駅で交換待ちなどが行われるのですが、長距離列車が走る路線でもあるため遅れの影響を受けやすく、通常ダイヤとは異なる交換待ちや通過待ちがしきりに行われていたようでした。JR以降の日本の在来線では、コスト削減のため駅設備を必要最小限にする傾向がありますが、国鉄である台鉄の路線は余裕のある設備を有しており、それゆえフレキシブルな対応が可能なのでしょう。



列車はさらに北上を続けます。線路の脇で穂を揺らすススキを眺め・・・


 
車窓にちょっとした市街地がひろがりはじめたら、まもなく太麻里。


 
数年前に電化されたばかりの知本で10分停車。団体客はここで下車していったので、この後はおそらく温泉へと向かったのでしょう。
電化によって知本以北(台東・花蓮方面)は電車が韋駄天走りするようになりましたが、この列車が走ってきた知本以南も電化が予定されており、電化工事が完成すれば台湾を一周する鉄道から非電化区間が消えることになりますから、その頃にはこの古い車両の普快車はもちろんのこと、高雄~台東間を行き来しているディーゼルカーの特急(自強号)も姿を消すことになるのでしょうね。
台湾の鉄道に日本の昭和の面影を追い求める旅行者も多いわけですが、そんな旅の楽しみ方も、徐々に難しくなるのかもしれません。


 
ダイヤとは違うイレギュラーな行き違いなどがあったにもかかわらず、ダイヤと1分も違うことなく、定刻の13:27に台東駅へ到着しました。
向こうのホームには白いボディに赤いラインが鮮やかな台鉄の新顔「普悠瑪(プユマ)列車」がとまっており、私は次にこの列車へ乗り換えるのですが、お手洗いやお弁当の購入などがあるので、一旦改札の外へ出ました。台東駅前は相変わらずガランとしていました。


 
さて、弁当の購入など用件をひと通り済ませたところで、14:00発自強425次「普悠瑪列車」樹林行に乗車です。


 
綺麗で空調の効いた車内は、さきほどまで乗っていた旧型客車とは雲泥の差。白い車内に配置された赤とグレーのシートが目に鮮やかです。


 
「普悠瑪列車」にあてがわれるTEMU2000形電車は、台鉄の最新鋭かつ花形列車。日本の愛知県にある日本車輌で製造されました。
そういえば台東まで乗ってきた普快車の3両の旧型客車も全て日本製でしたね。台鉄の最古参と最新鋭を乗り継ぐ旅は、くしくも日本で製造した車両に乗り継ぐ旅でもあったのでした。車端部には荷物置き場があるので、大きなバッグを抱えた旅行客でも便利です。


 
シートの座り心地はちょっと硬めかな。枕の位置は上下に調整することが可能。背面の物入れ、ドリンクホルダー、フットレストなどは台鉄標準の装備ですが、意外にも日本の鉄道で当たり前の背面テーブルは、この「普悠瑪列車」が台鉄初登場かもしれません。



ちなみにこれがチケットです。「普悠瑪列車」は週末を中心に満席が続出するらしいので、念の為にインターネット予約で購入しておいたのですが、私が乗ったのは平日でしたから、実際には予約を要するほど混雑していませんでした。とはいえ、途中の花蓮から多くの客が乗り込んで席が埋まっていきましたので、区間によっては予約しておいた方が良いのかもしれませんね。
台東駅を出発して間もなく、駅構内で買った駅弁を頬張って空腹を満たしたのですが、体内の血液が消化器系に集まった上、乗り心地の良さも相まって、いつの間にやら睡魔に襲われてしまい、宜蘭までほとんどの区間で爆睡してしまい、情けない哉、車内で過ごした記憶がほとんどありません。


 
雨粒が窓をバチバチと打ちつける音で目を覚ますと、まもなく宜蘭駅に到着しました。時刻は定刻の16:58。高雄を9:35に出たわけですから、7時間半も列車に乗りっぱなし。乗り継ぎ方を選べばもっと早く到達できたはずですが、今回は旅情を最優先したため、このような到着時間となりました。旅行ではお金を惜しまない贅沢も良いのですが、時間を浪費するのも立派な贅沢。今回は時間の贅沢を堪能させてもらいました。



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コメント
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