先日、建築仲間と滋賀の蘆花浅水荘を、見学予約していたので、訪れてきた。
蘆花浅水荘は大正10年、日本画家山元春挙の別邸として建てられた
数寄屋造りの近代和風建築。
現在は重要文化財に指定され、宗教法人記恩寺が所有し、一般公開されていて、予約すれば、入館料500円で見学することができる。
予約時間にやって来ると、現在管理をされている春挙のお孫さんにあたる方が案内してくださった。
まずは書院から。
2畳あるというゆったりとした床の間。
書院に座ると、庭に向けて広く取られたガラス窓からは庭の緑が目に入る。
庭園には背の低めの松、そして左手に見えるススキのような植物が、この建物の名称にもなっている蘆花だそう。
大広間の隣は仏間になっていて、
書院では満月だった襖の引手が半月の月に。
障子の下方には春挙の松がデザインされた唐紙が貼られている。
こちらの邸宅内には春挙の襖絵などはなく、控えめなデザインのものが多いという。
その奥は茶室、残月の間に。
床柱は周りを埋めこんでいって、上に行くほど細く見えるような細工がされている。
茶室にくると、ふすまの引き手は三日月型に。
書院から茶室へと、月の満ち欠けを襖の引き手で表すという、
遊び心に満ちたデザインが面白いなあ。
入縁には北山杉の一本柱が通る。
天井は舟底天井になっていて、屋形船に乗ったつもりで、庭を眺めようという
コンセプトなのだそう。
こちらは「莎香亭」
こちらにも春挙の唐紙に松がデザインされた襖があり、
その引き手は松の間を飛び交う千鳥がデザインされてる。
月の引き手と同じように、引き手の位置も高さが互い違いにつけられているなど
動きのある楽しいデザインに。
こちらの莎香亭も庭に面していて、庭にある水盤にはちょうど中秋の名月が写るように配置されているという。
観月会なども催されているとか。
そして、莎香亭に隣接する小さな入口・・
中へ入ると、とても小さな小部屋が。
「無尽蔵」という名の部屋は、春挙が絵画の構想などを練った部屋だそう。
この小部屋には造り付けの棚や机がコンパクトにまとめられていて、
中庭に開かれた窓もあって、とても落ち着く。
襖には梅の花が描かれている。
天井は網代に。
梅に続いて、竹の間。
春挙は特に竹を好んでいたそうで、この竹の間の竹尽くしがすごかった。
床の間の床柱は四方竹が使われ、竹の自然のうねりや枝分かれを利用した装飾、
竹の飾り棚、
床框、そして床飾りなどまで、徹底して竹にこだわったものが用いられている。
竹を描いた襖絵に、
こちらの引き手は竹で作られた千鳥!
造り付けの物入れにつくつまみも
竹製で可愛い。
窓辺には丸窓に自然に枝分かれした竹があしらわれていて、
満月にすすきをイメージしたもの。
照明ももちろん竹製。
襖を開けると、中庭にある竹林も望め、
窓からは小部屋の無尽蔵の梅、庭の松と、松竹梅が揃って見えるという。
設計にも徹底したこだわりが感じられた。
2階へ上がれば、天井の高い洋室がある。
ピンク大理石の暖炉や家具も当初のものだそう。
漆喰装飾が施された天井飾りに照明には家紋の桔梗が入れられている。
天井の四隅の換気口も桔梗。
そして、春挙がアトリエとして使用していたという大きな部屋。
部屋の周りはぐるりと造り付けの棚が囲む。
顔料が入れられていたコーナーの物入れが可愛かった。
中は回転式になっていて、必要な顔料を回してとり出せるようになっている。
これらのアイディアも全て春挙が考えたものだそう。
ハケや
絹が貼られた練習台も。
中央に少し奥まった場所があり、こちらは春挙が、仕事中、休息をとるスペースとして使用されていたそう。
現在はこちらのスペースに春挙が描いた観音様の絵が飾られ、祭壇となり、
このアトリエが記恩寺の本堂となっている。
こちらに掛けられていた絵は木目だけで、山並みが表わされている。
そこにほんの少し、春挙が書き足し、仕上げられた絵が面白かった。
頂上へ向かって上る人たちが豆粒くらいの大きさで丁寧に描き込まれていた。
好きな竹で作らせたという楽器類も。
大きな絵を外へ出す時は、こちらの窓から吊り下げて、出し入れしたという大きくとられた窓もあった。
さまざまなこだわりと遊び心のある邸宅を楽しむことができた。