先日、伊丹市美術館で行われているルート・ブリュック展へ行ってきた。
ルート・ブリュックはフィンランドを代表するセラミック・アーティスト。
名窯アラビアの専属アーティストとして約50年にわたり活躍したという。
日本では初の個展で、先日、東洋陶磁美術館でのフィンランド陶芸展で初めて数点拝見して以来。
好みの雰囲気の作家だったので、今回代表作を網羅した作品が見れるというので楽しみにしてた。
アラビア製陶所へ入る前はグラフィックアーティストだったというブリュックは、
初期の作品は陶板に描かれた絵画的なものが多い。
このコーヒータイムというこの作品、ほのぼのとしていていいなあ。
テーブルの天板として造られた陶板。
スグラフィートと呼ばれる搔き落し技法で描かれている。
この背景のように、化粧や釉薬を施した後、搔き落として、下の層を見せるという
技法。搔き落したラインに立体感や動きが現れていて、雰囲気がある。
鳥がモチーフとなった作品も多く、この淡い色彩の作品も素敵。
ひび割れに色素を染み込ませ、ひびが強調されているという。
淡さに風化が加わってより一層魅力的に。
この陶板の古びたような風合いは、引っ掻いた細いラインに
黒っぽく発色する酸化金属を表面に刷り込んで拭き取り、その上から施釉されたものだそう。
この技法から生み出されるなんとも言えない風合いがとても気に入った。
建物好きの私としては、ブリュックがイタリアに憧れ、影響を受けて作られたというイタリアの宮殿や礼拝堂などの建物モチーフの作品が興味深い。
(ヴェネチアの宮殿、柱廊)
ヴェネチアの宮殿シリーズのリアルト橋。
当初は方形の陶板に描かれていたものも、そのものを象った形に変化。
鮮やかで透明感のあるブルーの釉薬が、古びた加工?!によって
より深みのある素敵な色合いに。
ヴェネチアの宮殿、鳥の扉
ヴェネチアの宮殿、ジョルノ
うゎ、この水色、キレイ過ぎる・・
アラビア製陶所の技師チームもブリュックのために200種類を上回る釉薬を
調合し、ブリュックも試験を重ねたというが、鮮やかでありながら深みのある釉薬は
どれも魅惑的。
イタリア美術や旅行の影響から宗教的モチーフ作品も。
この深い藍色の釉薬も引き込まれる。
これらの陶板は鋳込み成形といわれる石膏に絵を彫って型を作って作られたため、
同じ形の陶板をいくつもつくることができたのだそうだが、
釉薬や文様などは異なったものを施したため、同じものは一つとしてなかったといわれる。
上と同じ型で造られたカレリアの家。
ほんとに、同じ形でも釉薬と型押しされた模様が違うと全く別物のようだ。
まだまだ建物モチーフの作品はたくさんあったが、どれもこれも好みのものばかりで興奮した。
今回の展覧会のポスターにもなっている、ライオンに化けたロバ。
装飾的に彩られたライオンの鬣にはモザイクのようにタイルが散りばめられている。
同じ型でつくられたモノトーンのマットな釉薬で彩られた作品もあった。
ここで第一章?が終了。
第二章の地下の会場へ行く前に、展示されていた、現代アーティストであるブリュックの長女のインスタレーション作品。
母のブリュックが遺した膨大なタイルピースによってつくられた10mに及ぶもの。
このタイルのピースのひとつひとつがとても素敵なのだ。
ひとつはとても小さなものだけど、並べると、こんなに迫力があるなんて。
なんて美しいのだろう。
このピースのひとつひとつは可動式で、今回は日本バージョンで
台座に茶箱が使われている。
第二章(撮影禁止)では、蝶の研究者であった父の影響を受けた、蝶のモチーフの作品群や
さきほどのタイルピースなどを用いた大作のモザイク壁画など、
変化していく作風も楽しめた。