日曜日(3/19)の読売新聞朝刊1面のトップ記事に、「遺伝子検査 廃業・不明4割」の
見出しで取り上げていました。 遺伝子検査事業者が、国内で87社(2012年)あったものが、
今年1月までに29社が倒産、さらに10社が不明であることが分かったとしています。 国は
実態調査に乗り出した・・としていますが、何ともお粗末な管理状態で、個人情報保護云々
はどこの国の話しか、あきれてしまいました。 新聞では、この日から3連続に亘った詳細
記事が連載されていて、その3日目が今日でしたので、これらをまとめて整理してみました。
遺伝子検査について、ウイキペディア(遺伝子診断)には、通常、遺伝子診断をするため
に、医師などの医療従事者は、患者の許可を取得し、所望の検査をするが、これとは別の
タイプとして、医療専門家を経由せず、消費者と直接アクセスする遺伝子診断を行う“消費者
向け(Direct-to-consumer, DTC)遺伝子診断”がある。とあり、ここで取り上げているのは、
このDTCについてです。
2000年代の10年くらいで、遺伝子解析に必要な費用は、1万分の1程度まで低価格化が進み、
DTCに参入する業者が急増したのです。 2014年には、IT企業のヤフーやDeNAなども参入して
います。
(ゲノム医療等実用化推進TF資料より)
当ブログ、2014.2.24に「遺伝子検査ビジネス」のタイトルで記事アップしていました。
一部を、以下に再掲します。
『このところ遺伝子検査ビジネスが話題に上っています。 国内事業者だけでも、2012年で
約740社と3年間で倍増した(経産省)そうです。 個人的には、何となくいい加減で、あまり
信用ならない検査かな?と思うところもありますが、適正に活用すればそれなりに効果的で
あるらしい。 将来的に病気にかかる可能性や 太りやすさなどの体質を判定したり、がん
治療における薬選びに活用され、特定の遺伝子に変異がある場合だけに効く薬を選ぶなどの
活用は現実に有効であろうとも思います。
ただ、最近のビジネス例の中には、運動能力、音楽の才能、美的感覚など 科学的根拠に
乏しい検査の存在も指摘されているようで、ひょっとしたら行きすぎなのかもしれません。
経済産業省はこのほど、遺伝子情報を基に病気のかかりやすさなどを調べる「遺伝子検査
ビジネス」のあり方を検討する専門家による研究会の初会合を開きました。 信頼性の高い
サービス提供に向けたルール作りを進めるとともに、健全な新規ビジネスの発展のため、
平成27年度をめどにガイドラインなどを整備する方針であるとのことです。 (以下略)』
この、消費者向け遺伝子検査(DTC)は、ゲノム医療等実用化推進TF資料 (H28.3.30)に
よれば、
<消費者向け遺伝子検査とは>
○消費者自ら検体を採取。消費者に直接検査結果が返される。
○統計データに基づき、疾患の罹患リスクや体質等を示すもの。
○疾患リスクは、生活習慣病等の多因子疾患のみ対象(単一遺伝子疾患は対象外)
○疾病の診断や治療・投薬の方針決定を目的とした医療分野の検査とは異なり、利用者に
気付きを与え、利用者自らの行動変容を促すサービス。
(現在提供されている具体例)∇疾患リスク×健康支援プログラム、太りやすさ×ダイ
エットプログラム、肌質×化粧品 ∇喫煙や食生活、運動などの生活習慣の改善
と定義づけられ、もっぱら、健康増進、生活習慣の改善等がその目的とされているのです。
また、同資料には、「医師法では、医師以外の者による医業(医行為)を禁止しており、
“診断”も医師しか行うことができない。 診察、検査等により得られた患者の様々な情報を、
確立された医学的法則に当てはめ、疾患の名称、原因、現在の 病状、今後の病状の予測、
治療方針等について判断を行い、患者に伝達することは“診断”に該当する。
しかし、消費者の遺伝子型とともに疾患リスク情報を提供する消費者向け遺伝子検査ビジ
ネスにおいて、 ・ 遺伝要因だけでなく、環境要因が疾患の発症に大きく関わる“多因子
疾患”のみを対象としており、 ・ 統計データと検査結果とを比較しているにすぎない場合
には、“診断”を行っているとは言えず、医行為には該当しない。」とあり、一般に行われて
いるDTCは、医行為ではなく誰でも行えることから、ネットなどで利用者を集める新ビジネス
として台頭してきたのです。 したがって、当初から、ルールやガイドラインなどと言った
事柄について、審議され、問題視されていたのです。 同資料に、経産省でのとりまとめ経緯
が示されていました。
<経済産業省による取組>
○個人情報保護法(平成17年4月施行) ∇利用目的の特定、安全管理措置の実施、本人
同意を得ない第三者提供の原則禁止 等
○個人遺伝情報保護ガイドライン(平成17年4月施行) ∇個人情報保護法の上乗せ規定
∇インフォームド・コンセント取得、匿名化の実施、カウンセリング体制の整備、個人
遺伝情報取扱審査会の設置 等
○事業者の遵守事項(平成25年2月) ∇検査の精度管理等の技術的課題への対応も含め
たガイドラインを整備
○利用者向け啓発資料(平成25年2月)
ここで、DTCビジネスの流れは次のようになっており、遺伝子解析などの専門分野は別の
機関(国内外)で行うため、仲介事業者の参入は比較的容易だと推測されます。
代表的なサービスの流れ
受付 事業者が、消費者から遺伝子検査の申込みを受付
⇓
検体採取 消費者が、検体採取キット(検査キット)等により自身で検体を採取し、
事業者に提供
⇓
解析 事業者が、消費者から提供された検体のゲノム情報を解析
⇓
結果報告 事業者が、解析結果について、学術論文等の統計結果と比較して消費者
に提供
結果報告例、 「あなたの遺伝子型グループの○○病発症リスクは、日本人
平均の○○倍」 など。
実際、ネットを検索してみますと、遺伝子検査ビジネスに関する広告がずらりと出てきます。
中には、数千円で検査ができるとうたっているのもありました。
このように、消費者が直接検査をできるため、積極的な健康管理の促進につながり、遺伝情
報のプライバシーも自分で管理できるなどの利点がある一方で、政府規制の欠如や遺伝情報の
潜在的な誤解、未成年者が検査を行ったり、治療法のない項目についての検査、個人情報、
公衆衛生ケアシステムからもれてしまうなどのリスクがあります。 さらに、DTCテストは、
任意の遺伝子診断と同じリスクの多くを共有しているため、試験結果の深刻な誤解を招く可能
性があります。専門家の指導がなければ、消費者は、遺伝情報を誤って解釈し、彼らの個人的
な健康について間違った理解をしてしまうリスクがある。と指摘されています。
で、新聞で取り上げているのは、この究極の個人情報である遺伝子に係わる ①管理の不
十分さを、②検査結果の判定のいいかげんさ、③今後の方向に向けた取り組み がそれぞれ
取材された事実を記載しています。
①では、機械部品メーカー(2年前に撤退)が、数千人分の遺伝子情報が金庫の中に収めら
れていた。 ある会社(13年に撤退)では、100人の検査結果を記録したファイルが本棚に押
し込まれていた。また、ある会社(撤退)では、1万人分のデータが入ったハードディスクを
事業をやめたのちに、それを工具でたたいて破損させた。 ヤフーやDeNAなどの大手は、情報
保護管理に対して信頼性を確保しているとしている。
また②については、検査キット1個6万円で、信頼性を確かめるために2個(1つは別名で)
検査つまり、同じ遺伝子を検査して貰ったのに違う結果が送られてきた。 難聴や色覚障害に
関する遺伝子からは、本来分からない音楽や絵画の潜在能力を判定している。これなどは、
結果によっては子供の将来への影響が大きい項目が含まれている。 ある検査業者が行った
父子鑑定の結果が 51.9917%とされていたが、本来現在の技術水準では100%か0%のどちらか
である。
③については、今日(3/21)の記事「遺伝子検査の死角(下)」に、今後の方向について
まとめられています。遺伝子検査DTCは、“医療ではない”ことから、法的規制が無く、有識
者会議では「このままでは悪質な業者が野放しになりかねない」と批判噴出。厚労省では
「質の確保に必要な施策を検討したい」と、今月中に、実態調査結果をまとめるとしています。
遺伝子検査業者37社で構成する「個人遺伝情報取扱い協議会」では、医療並みの法規制を掛
けられれば検査コストなどが上昇し、ネットなどを通して多数の顧客に安価なサービスが出
来ないと法規制に反発。独自で作る「自主規制」で十分だと対立しています。自主基準を満
たす企業の認定制度を‛15から始めたとしていますが、現状 認定された企業は9社しかないと
のこと。 諸外国の状況は、アメリカ、フランス、ドイツは、遺伝子検査ビジネスは禁止、
イギリス、日本が禁止されていない。
このような状況から、どうやらやはり問題が潜んでいるようにも感じ取れるのですが、果
たしてどのように進展するか注視したいところです。
豊洲問題といい、豊中問題といい、まぁ、無責任体制というか、発覚すれば、バシッと
した太い筋が全くないままことが進められている現状の一端が露呈されています。しかし、
これらが発覚しないまま事が出来てしまうことを思えば、恐ろしく、春なお寒い心地がし
ます。