ちょっと聞きなれない英語ですが、Precision Medicine、精密医療と訳されています。
ウイキペディアには、『患者の個人レベルで最適な治療方法を分析・選択し、それを施す
こと。最先端の技術を用い、細胞を遺伝子レベルで分析し、適切な薬のみを投与し治療を
行うこと』とあり、2015年1月のオバマ大統領(当時)の一般教書演説で、“Precision
Medicine Initiative” (精密医療計画)が発表されて、世界的に注目されるようになった
のです。
(ネット画像より)
アメリカではこれまで、各個人に応じたオーダーメイド治療として、Personalized
Medicine(個別化医療)があり、患者ごとに個別に対応する治療法が、医学の進歩で可能に
なり、特に、がん患者のがん遺伝子を調べ、選択的な治療薬の投与を行い、乳がん、肺がん
などで実績を上げているというのです。
しかしこの治療法は、医療費の高騰につながり、高額な医療費を負担できる富裕層のみ
が享受できるもので、いわゆるオバマケア(医療保険制度改革)や医療費高騰抑制施策など
の医療制度改革にとっては、更なる施策が必要だったのです。
『プレシジョン・メディシンは、患者を“特定の疾患にかかりやすい集団 (subpopulation)”
に分類し、その集団ごとの治療法や疾病予防を確立し提供するもので、費用対効果で優位
であり、富裕層のみならず広く中間層や低所得者層へも効果が及ぶもので、医療制度改革の
一環として登場した。』とあります。
日本では、『 2013年、国立がん研究センター東病院をはじめ、約200の病院と約10社の
製薬会社による、「SCRUM-Jーapan」というプロジェクトが始められ、進行した肺がん、
大腸がんなどを中心に、がん細胞の遺伝子変異を分析し、もっとも効果が期待できる薬の
投与を行う。』としてはじめられており、今や参加する施設は全国への広がりを見せている
そうです。
(ネット画像より)
現在、プレシジョン・メディシンが最も進んでいるのは、がん治療の分野で、「次世代
シークエンサー」(ゲノム配列を高速で解読できる装置)が登場したことにより、それぞ
れの患者のがん細胞の遺伝子異常を調べることができ、それぞれの患者のがんの性質が、
より詳細に分かるようになってきたのです。
厚労省が推進する懇談会でも、2017年の報告書で、『人工知能を活用して、データベー
スに蓄積した膨大な情報を解析することにより、新たなターゲットとなる遺伝子異常を見
つけ出し、日本独自の革新的な新薬や診断法の開発に結び付ける』としています。
(プレシジョン・メディシンは、2016年11月20日(日)放送の「NHKスぺシャル」で取り上げ
られていました。)
また、最近では、第86回 知の拠点セミナー(国立大学共同利用・共同研究拠点協議会
主催 令和元年5月17日(金) )で、講演『 心房細動のプレシジョン・メディシン ~脳梗
塞・心不全を起こさないために~』古川哲史氏(東京医科歯科大学難治疾患研究所 教授)
が行われていたことが新聞に出ていました。 残念ながら講演は聞きそびれてしまいました
が、ネット記事にその要旨が掲載されていました。すなわち・・
『 心房細動は「21世紀の心臓流行り病」と称され、患者数が約100万人、診断のついて
いないいわゆる「隠れ心房細動」が同程度いるとされています。心房細動は、高頻度(無治
療だと年間約5%)に脳梗塞を合併し、心房細動に合併する脳梗塞が特に重症化し寝たきりの
最頻の原因(寝たきりの約5人に1人)となります。 本講演では、ゲノム研究、IoT・AIなど
の最新医療技術を駆使したプレシジョン・メディシン(precision medicine)で心房細動と
それに合併する脳梗塞を予防する試みをご紹介します。』と。
講演要旨(古河教授)から
このところ、心房細動に関して、身近に、アブレーション手術を2回もされた友人がいた
りで、特に関心が高まっていた折の記事だったので目に止まったのでした。
医学の進歩は、情報処理、巨大データベース、AIなど最新技術と相まって急速に進歩して
いるのですね。