先月買ったばかりの新車ZRX1200ダエグでの最初のツーリングは、7月の3連休の2日間を使い、僕の大好きな中山道奈良井宿~諏訪湖~ビーナスラインに行こうと決めていた。あらかじめ上諏訪温泉の旅館も予約し、あとは当日を待つばかり。
ところが、相棒の妻が金曜日の夜に体調を崩してしまったのでした。妻は「一人で走っておいで」と言ってくれたが、どうしようか迷ってしまった。
<7月17日>
土曜日の朝、起きてすぐ妻に「体の具合、どう」と聞くと、なんと「いいよ。なんともないよ」と言う。顔色も昨日と比べてずいぶん良くなっていた。妻も、「大丈夫、行けるよ」と言うので、思わず「よっしゃー」という感じになった。
1泊分のお泊まりセットを準備し、バイクのリア・シートにくくりつけた。ついでに、名古屋グランパスのリストバンドをブレーキ油圧のところにはめ込んだ。優勝争いをしているので、今 日の市試合は絶対に落とせないのだ。
豊田松平ICから東海環状道に入り、土岐JCから中央道へと快調に走った。シートをデイトナCOZYに替えたので、お尻の座りもよく、安定感がかなり増したように思う。きっとクルマのシートをレカロに替えたら、こんな感じなのだろうなあと思った。
中央道に入って、この3連休をナメてたことに気づいた。ところどころで渋滞ぎみになり、高速道路なのにノロノロ走行が続いた。夏休みが近いから、あまり遠出をする人はいないだろうと思っていたのだ。それでも、中津川ICからR19に入ったら、クルマの流れはスムーズだった。
旧山口村のドライブイン元越でそば定食を食べた。ざるそばと五平餅のセットで、僕のお 気に入りのメニューだ。最近、道の駅ばかりが混み合い、こういう昔ながらのドライブインはすいていて昼食ものんびりととることができる。
昼食を終えて、再び木曽川に沿って気持ちよく中山道R19を走った。中山道には見所も多いが、今回選んだのは奈良井宿だ。江戸時代の風情が色濃く残る宿場町で、以前はよく泊まりがけで行ったものだ。
R19を走るといつも心から「ツーリングしてるー」と思えてくる。それは、コースも素敵なのだが、ライダー同士のピースサインが多いのも、その理由だと思う。ところが、今回はピースサインを出してもほとんど返ってこない。返ってこないから、だんだん出さなくなる。何度も走っている道なので、景色に感動はあまりない。つまんないなあと思っているうちに、しだいに眠くなってきた。
奈良井大橋のPにバイクを止めた。妻は、
「眠くて眠くて、何回かぶつかりそうになったんだよ」
と言う。R19も、走り慣れ過ぎたのかもしれない。
ブルゾンを脱ぎ、汗でべたんこのTシャツ1枚になり、バイクや橋の写真を撮っていたら、古いカワサキGPZ750と600Rのカップルがやってきた。一瞬にして、目が覚めた。GPZ600Rは、僕が20年くらい前に乗っていたバイクで、しかも国 内向け限定車で、もうほとんど現存していないと思っていた。色も黒に赤い細いラインが入っていて、ずっと前の僕の愛車と同じだった。僕はその後、900Rニンジャに乗り換え、ZRX1100、そして今の1200ダエグと乗り継いできたが、僕の最大の旅の日本縦断ツーリングの相棒は、目の前の600Rだった。万が一このページを読んでくれたら、連絡してほしいなあと思う。
久しぶりの奈良井宿だったが、当然のように全く変わっていなかった。僕は、奈良井でおやきを食べようと思っていた。妻は、風情のある店で、おいしいコーヒーを飲みたいと言っていた。宿場町を歩いていると、それこそ20年くらい前に泊まった「ほいほい」という民宿があ った。ずいぶんお歳のおばあさん2人でやっていたから、もう店も無くなっていると思っていたが、きっと息子さんかお孫さんが継いだのだろう。そのすぐ近くにレトロ調の素敵な喫茶店があった。
注文したのは、二人共かき氷。僕は宇治金時で、妻は抹茶。30℃を越える暑さに負けて、おやきもおいしいコーヒーもどうでもよくなっていたのだ。
美味い。とにかく美味い。
かき氷で体をクールダウンさせ、少し宿場町を散策して奈良井大橋のPに戻ると、まだ古いGPZ750と600Rはあった。この先、おそらく二度と出会うことのない600Rの写真を勝手 に撮らせてもらって、奈良井宿を後にした。
休日の塩尻の街はとても賑わっていた。買い物客らしいクルマの列に混じって塩尻ICを目指した。
長野道塩尻ICから高速に入り、中央道との分岐を過ぎると諏訪湖に近づく。諏訪湖SAからの眺めが結構いいので、休憩が必要なほど走ってはいなかったが、入ることにした。
諏訪湖SAで、缶コーヒーBOSSを飲みながら、諏訪湖を眺めた。青い空、新緑の山々 、そして目の前に広がる諏訪湖。この風景が見たくてここまで来たようなものだ。
諏訪ICを出て、上諏訪温泉方面に向かって走り、インターネットで調べた地図に従って湖岸道路を走り、今日の宿「旅館二葉」に向かった。
旅館二葉は、昔ながらの風情のある旅館だった。部屋に入ると、まるで江戸時代にタイムスリップしたような感じがした。鏡台などの調度品が時代劇に出てくるよう なのもに統一されていた。それでいて、テレビは東芝のレグゼ、トイレはシャワートイレで、部屋の設備まで時代劇調というわけではない。小さい旅館だが、廊下も畳張りでなかなかいい旅館だった。そして、食事も前にまず温泉。源泉そのままということで、お湯はかなり熱かった。外に出ると、庭の池のような露天風呂があり、そこでしっかりとお湯に浸かった。熱さで、皮膚が赤くなってきた。触ればつるつるしていい気持ちだ。
晩ご飯の後、のんびりとテレビを観ていたら、友達から「グランパスが勝った」というメールが入った。首位鹿島と勝ち点2の差だ。来週は瑞穂競技場でサッカー観戦だ。
ドラマが終わった10時にもう一度温泉に入った。僕よりももっと温泉好きな妻も大満足だったようだ。
★本日の走行 208㎞
<7月18日>
今日もいい天気だ。ニュースで昨日梅雨明け宣言があり、今日は長野でも33℃になると いう。
せっかくいい温泉に来ているのだから、僕にはめずらしく朝風呂に入った。何度入っても熱い。熱いけれど気持ちがいい。
9時40分、旅館を後にした。途中のENEOSで燃料を満タンにし、蓼科を目指した。目指したのだが、諏訪市街地からR299ビーナスラインに入るまでほとんど渋滞していて、久しぶりにすり抜けをしながらバイクを進めていった。ビーナスラインに入ってもサンディドライバーらしいエルグランドの超低速走行の後ろについてしまい、なかなか気持ちよく走ることはできなかった。
蓼科湖に着いて、湖畔にバイクを止め、ソフトクリームを食べた。めちゃ暑かったけど、 日陰に入ると涼しい。高原らしく、風がとても爽やかだ。
高原の小さな湖の雰囲気を十分に味わい、次の目的地の白樺湖に向けてビーナスラインを走った。かつてかなり高い有料道路だったが、無料になってから道路がすごく荒れている。アスファルトのひび割れからムダ毛が生えたように雑草が生えている。所々補修はされているが、なんだかつぎはぎだらけでとても高原の観光道路とは思えない状況になっているのだ。今回はほとんどコーナーを楽しむような走りはできないので、ムダ毛の生えたような道でも問題はないのだが。それでも、蓼科湖から上り詰めて下りにかかると、荒れた高原道路も白樺林の中を走るすてきな雰囲気の道路になる。高原の空気をいっぱいに吸い込みながら走り、交差点を左折すると目に湖が飛び込んでくる。僕はこの瞬間が好きだ。ヘルメットの中で、思わず「わあっ」と声を上げそうになる。
白樺湖の北側はすっかり観光地化されてしまっているが、南側はまだまだ自然が残されている。僕は迷わず湖岸道路を南側に向けてバイクを走らせ、湖岸のPにバイクを止めた。20年以上も前の日産エクサのオーナーズクラブの集会のような催しなのか、当時でもめずらしかったエクサが10数台並んでいた。キャノピータイプとクーペタイプの2種類のエクサがずらっと並んでいたが、当時もあまり好きなクルマではなかったので、見に行こうとは思わなかった。それよりも、高原の湖だ。周りの山々の斜面がまるで芝生を敷き詰めたように見える。その斜面からパラグライダーで飛び立とうとしているグループの姿も見えた。ただ、斜面を走って下っているだけで、パラグライダーは開いても、飛んだのは一つも見ていない。それでもきっとすごく楽しいだろうなあと思う。
空はますます青みが濃くなり、山の緑と湖の景色がますます映えてくる。あまりの気持ち 良さに、ずっとこのまま木陰で寝そべっていたいくらいだった。
30分ほど、高原の湖の雰囲気を楽しみ、再びビーナスラインで和田峠を目指すことにした。ところが、湖岸道路からビーナスラインに入る信号のない交差点で、途切れることなく登ってくるクルマの列でなかなか入れない。やや強引に僕と妻の2台が車列の中に入ったが、当然ノロノロ走行を強いられる。展望Pのたびに、そこに入れずに並んでいるクルマの列のために渋滞し、せっかくのビーナスラインも、止まってはノロノロ、止まってはノロノロの繰り返しだった。途中、土手の草むらに飛び込んでいるクルマがあった。このノロノロの中で、どうすれば道から飛び出すのか不思議なくらいだ。パトカーが来ていて、片側交互通行になって、ますます渋滞に拍車がかかる。見所の車山も富士見台も入ろうとして入れないクルマでごった返していて、とてもバイクを止める気にはなれなかった。景色はとても素敵だけど、走りはまったく楽しめない。そこに恐ろしいくらいの暑さが加わり、歩く速さで走っていてもおもしろくない。
霧ヶ峰の交差点手前の渋滞で、隣に止まっている妻に、
「霧ヶ峰から諏訪に降りちゃうか。」
と言うと、妻も、
「うん、そうしよっ。」
と答えた。クルマの列はそのまま美ヶ原方面へとつながっていたが、僕たちは県道40号で山を下りた。そして、諏訪IC近くのコンビニで昼食のパンを買い、日影に入ってパンをかじった。大好物のメロンロールも売り切れで、しかたがないのであんパンとカレーパンというオーソドックスな組み合わせの昼食になった。
諏訪ICから中央道に入った。クルマは多めだったが、ペースはいい。混んでいたら伊那で出て権兵衛峠でR19から帰ろうとも思っていたが、順調に流れていたので駒ヶ岳SAまで一気に走った。気になったのは「土岐JC渋滞3㎞」の表示だ。土岐JCで渋滞ということは中津川辺りから流れが悪くなるということだと思う。
駒ヶ岳SAでデカビタで水分補給をし、妻と相談した。土岐JCでの渋滞距離が増えるようだったら、飯田山本ICで降り、R153で帰ろう。ただ、飯田から家まで約100㎞ほどあるので、時間はかかりそうだ。渋滞距離が減っていけば、このまま中央道から東海環状道に入って 帰ろうということになった。
水分補給と帰路の相談を終え、再び高速走行に入った。ペースは悪くない。ただ、景色は前を走るクルマ、クルマ、クルマで楽しくはない。松川IC辺りの対向車線に、パトカーや救急車などがたくさん止まっているのが見えた。ゆっくり通り過ぎる時、数台のバイクが置いてあったのも見えた。その先の対向車線は通行止めとなっていて、ずらっとクルマが並んでいた。
土岐JCの渋滞は相変わらず3㎞のまま。僕は走りながら帰りのコースを考えていた。やっぱり恵那山トンネルの先は流れが悪くなるだろう。もし事故でもあったら対向車線のようにひどい渋滞になるだろう。それに、混雑した高速道路は走っていておもしろくない。そこで、飯田山本ICで降り、R153を通って100㎞ほど下道で帰ろうという決断をした。
大正解だった。飯田から治部坂、愛知県との県境の根羽村までのR153は、涼しくて、道はすいていて、緑は美しく、ビーナスラインよりずっとずっと快適な道だった。今回のツーリングで一番気持ちよく走ることができたのだった。おいしい空気をいっぱいに吸い、リーンウィズで2台そろってコーナーを立ち上がる。夢中になってツーリングを楽しんでいるうちに、根羽村ネバーランドに着いた。
「大正解だったね。」
と、妻。どこも混んでいて、十分にバイクを楽しむことができなかったが、ここへきてやっと 妻も心から楽しめたようだった。
愛知県に入ると、しだいにクルマの量も多くなってきた。ここめで来れば、僕にとっては庭のようなもの。足助追分で渋滞することは目に見えている。そこで、旧足助町に入ってすぐ榊野温泉方面に抜け、旧藤岡町下川口に出て、豊田藤岡ICから豊田松平ICまで東海環状道を走れば混雑した豊田市街地をワープして家に着くことができる。そして、僕が描いたとおり、どこも混み合うことなくスムーズに走ることができた。
走っていて、腕時計が食い込んで左手首が痛くなり、ゴール手前の鞍ケ池ハイウェイオアシスでイレギュラーなピットインをした。
「なんで、こんな所で止まるの。」
と、妻。
「腕時計が食い込んで左手首が痛くてたまらんかった。」
と、僕。
すると、見覚えのある顔に出会った。先週、慣らし運転ソロ・ツーリングで、同じ鞍ケ池で出会った人たちだ。先週はきれいな奥さんとご一緒だったオフ氏は今回一人で、もう一人の古いCBR250氏は今回は仲間の方と一緒だった。ものすごい奇遇だ。手首が痛くならなければ鞍ケ池で止まっていなかったのだから。
しばらく彼らとツーリングの話や小型免許の奥さんに中免を取らせる作戦の話などをして、別れた。
午後6時、家に着いた。とにかく暑い。二人で大急ぎで荷物を外し、家の中に入ってエアコンのスイッチを入れた。そして、冷やしておいた冷たいお茶をがぶがぶ飲みながら、今回のツーリングの思い出話をした。暑くて混んでいて苦しいことも多かったが、やっぱりバイクはおもしろいということで思い出話も終わり、それから、お盆休みの北海道ツーリングの計画話に変わっていった。
★本日の走行 268㎞
★総走行距離 476㎞