伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

鉄のしぶきがはねる

2011-06-12 02:36:58 | 小説
 工業高校に通うたった一人の女生徒三郷心が、工業技術を競う高校生ものづくりコンテストに挑む青春小説。
 九州に三郷ありと言われるほど腕のいい職人だった祖父が経営していた町工場で、こつこつと書きためた秘伝のノートを若い職人が盗み出して失踪し、取引先の倒産や祖父の病気が重なって工場が閉鎖された経験を引きずって、手作業の技術を否定し、コンピュータでの制作技術の習得に打ち込んでいた心が、先輩の原口や風来坊の職人小松さんの確かな技術に裏打ちされた旋盤の音の美しさや作品の美しさに惹かれ、職人の技術の魅力に取り込まれていく過程は、お約束の展開とはいえ、引き込まれます。
 旋盤技術のマニアックな部分はついて行けませんが、技術の世界の厳しさ、微妙さを感じさせます。
 青春小説ですから恋心の部分もありますが、全般的には、地味な世界での地道な努力を扱った小説で、そこに読み味があると思いました。


まはら三桃 講談社 2011年2月24日発行
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日本断層論 社会の矛盾を生きるために

2011-06-12 00:05:27 | ノンフィクション
 戦前の朝鮮で開明的な教育者の父の下で生まれ、植民地の入植者という原罪意識を持って日本に渡り、炭鉱町で理論先行型の運動家で詩人の谷川雁とともにサークル村を立ち上げるが、運動の中でも女性、炭鉱労働者の女性の声を取り上げないことに違和感を持ち、女性、在日朝鮮人、沖縄、からゆきさんなどの底辺労働者、マイノリティとともに生き描いてきた森崎和江のこれまでを対談で振り返った本。
 一枚岩と捉えられがちな日本社会や、その中での運動にも様々な分裂とマイノリティがあること、そこにこそ目を向けるべきことを、「断層」と表現しています。でも、いくら何でも未曾有の大地震に思い惑うこの時期に出す本に、そういうミスリーディングなタイトルを付けるのは不見識じゃないかなぁ。
 テーマがテーマなので、対談形式の文章なんだけど、重くて、量のわりに読むのに時間がかかりました。植民地の原罪意識と日本に挟まれてのアイデンティティの喪失の話や、運動家の谷川雁が同居人の著者には他の人に会うことを禁じていたとか、炭鉱労働者から自分たちをネタにして食っていると批判された話とか、いろいろ考えさせられました。


森崎和江、中島岳志 NHK出版新書 2011年4月10日発行
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