伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

貸し込み 上下

2011-06-13 21:09:15 | 小説
 バブル期に銀行が脳梗塞で倒れた大企業幹部に巨額の融資をしてその大半を両建て預金にさせて利息差額分だけ損をさせ(銀行が儲け)たあげくに不必要な住宅ローンの借り換えをさせていたことで裁判となり、退職した元銀行員が自分が日本にいないことをいいことに濡れ衣を着せられていたことを知り、被害者側の証人となるというストーリーの経済裁判小説。
 銀行が融資や払戻の際に作成する書類やその保管、それについての銀行の不正やごまかしのテクニックが詳しく書かれているのが興味深いところです。
 作者の実体験に基づいて書かれた(と裏表紙や解説に書かれています)だけに、裁判の場面での駆け引きや裁判官の態度、そして判決の行方など、創作では考えにくい現実感があります。
 キーパースンとなる被害者の夫宮入治の人格設定も、弁護士をやっていると、「いるんですよね、こういう困った依頼者」としみじみ感じるパターン。
 私がさらに感心したのは、作者が裁判上第三者的な位置にいたためかとは思いますが、登場する弁護士に対する冷静な観察と描写です。(当然に)銀行実務の裏側は知らないけれど話をよく聞いて理解し入念な準備をして手堅い進行をするが、依頼者の気まぐれで自己満足的な主張をいなして依頼者からは熱意がないと評価される佐伯弁護士、人の話をあまり聞かず傲慢だが依頼者の自己満足にもつきあいはったりとテクニックには長けて依頼者にアピールする有塚弁護士、記録をよく読み堅実で、自己主張の極端に強い依頼者に困りながらも自分ではそうは言えない角田弁護士、会社サイドに準備してもらって十分に理解していないために尋問で切り返しに対応できない棗弁護士など、弁護士の目からは、うん、いるいると、納得します。
 民事裁判の被告を「被告人」と書いたり民事訴訟法の条文の引用を間違えたり(上巻39ページ:この趣旨なら引用すべきは87条、161条)のミスはありますが、全体としては特に無理を感じる場面はありませんでした。むしろ、一番最後の「本作品はフィクションです。登場する人物・組織等はすべて架空のものです。」という断り書きが一番しらじらしい感じです。


黒木亮 角川文庫 2009年10月25日発行 (単行本は2007年)
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