伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

何が投票率を高めるのか

2023-10-27 11:38:45 | 人文・社会科学系
 投票所数の増減(投票日当日の投票所数は削減傾向、期日前投票の投票所数は増加傾向)、投票日の降雨や降雨(台風)予想、投票啓発活動(広告)、議員定数(不均衡)の是正、新政党の参入、女性議員の増加が投票率にどのように影響するかを検討し論じた本。
 投票所の増減では人口1万人あたり選挙当日投票所数が1つ減ると投票率が0.51ポイント下がり、人口10万人あたり期日前投票所数が1つ増えると投票率が0.16ポイント増える、悪天候が予想されても前もって投票する機会が確保されれば投票率は下がらない(2017年衆議院選挙投票日に台風が来ても投票率は下がらなかった)、投票啓発活動は著者のフィールド実験では効果を見出せなかった、1票の格差是正で都市部と地方の投票率の格差は縮小した、新政党の参入で投票率は上昇した、女性議員が増えると投票率は上昇するということが、統計データ等により確認できたとされています。
 著者の分析の多くはデータの統計処理に基づいていますが、例えば62ページの図(下図)は台風が上陸した2017年衆議院選挙投票日の午前午後の降雨量差からそうでない2014年衆議院選挙投票日の午前午後の降雨量差を差し引いたものを横軸に、2つの衆議院選挙の投票日午前投票率の差を縦軸にとったグラフですが、著者はこれを「2014年と比べて、2017年で午前午後の降雨量差が大きくなるほど午前投票率が上がっているという傾向が見られます」(61~62ページ)、「統計的に有意に0と異なります」(62ページ)としています。コンピュータのデータ処理はそうなのかもしれません(読者にとってはそれはブラックボックスです)が、このデータを右肩上がりの直線で代表させてほんとうにいいのでしょうか。直感的な物言いですが、私は、このデータから右肩上がりの傾向を見ることに疑問を持ちます。

 統計データによる論証は、それが具体的にどうなされているのか、きちんと論証されているのかが素人の読者には直接検証できません。この本の論証は、自ら立てた仮説が成り立つかのみに向けられ、別の仮説・反対仮説が成り立たないかは論じられていません。女性議員が増えると投票率が上がるかに関する仮説と論証は、当落ギリギリの議員のうち女性が当選したときと男性が当選したときを基準として評価していますが、そのような全体への影響が小さな事象を基準にその際の投票率の増減を女性議員が増えたときと扱って評価することがどれほどの正当性を有するのか私は疑問を持ちました。そして、著者の統計の使い方は問題によって異なっています。問題ごとに自分が好ましいと思う仮説の論証ができるやり方を選択しているということはないのでしょうか。議員定数の是正による都市部と地方の投票率格差の縮小は、著者の論証を見る限り、1票の価値が下がった地方で投票率が下がる(1票の価値が高くなった都市部の投票率は上がっていない)という形で実現していますが、著者はそこには注目しないままで格差が縮小されたことだけを指摘しているという姿勢を見ると、素人にはわからないところを著者がどれだけ誠実に対応しているのかについて、私は何となく疑念を感じてしまうのです。


松林哲也 有斐閣 2023年8月10日発行

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