伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。今年も目標達成!

図書館戦争シリーズ

2024-05-12 19:57:16 | 小説
 「メディア良化法」に基づき公序良俗に反する書籍等の入荷や流通の禁止、放送禁止やインターネット上の記事等の削除などの権限を持つメディア良化委員会と、「図書館の自由法」に基づき図書館の資料収集と提供の自由を行使しメディア良化委員会の検閲に対して唯一対抗権限を持つ図書館が互いに武装して抗争する2019年の日本を舞台に、高3の秋に好きだった本の続巻が出たのを買いに行った書店でメディア良化委員会に没収されそうになった本を取り戻してくれた関東図書隊員を名乗る青年を「王子様」と憧れ、大学卒業後図書隊に防衛員として入隊した笠原郁が、厳しく当たる教官堂上篤及び堂上班のメンバーとともに良化特務機関や賛同団体の攻撃と闘うアクション恋愛小説。
 恋愛小説としては、第1巻の最初の6分の1くらい読めば行く末は見えますが、そこを読者の期待に違わずに書き切って行くところにこそ手腕が感じられ、王道を行く気持ちよく読める作品だと思います。
 しかし、その他の部分には頷けないものがあります。冒頭のキャスト紹介から主人公2人を「熱血バカ。」「怒れるチビ。」とすることに始まり、言葉狩りへの反発がテーマであるからではありましょうけれど、挑発的な物言いが散見されます。
 本来のテーマの表現の自由・知る権利と検閲では、個人の人権やプライバシーと抵触するものであっても検閲は正当化されず、「その場合の救済措置は、司法が受け持つべき問題です」(2巻302ページ)というスタンスであるはずなのに、図書館に居座るホームレスについては「居丈高に対処したらいわゆる人権屋に駆け込まれて裁判沙汰になったりもする」(5巻198ページ)などと書かれています。場面が違うというのでしょうけれども、人権は嫌われ者の権利から掘り崩されて行くもので、自分の意に沿わないものであれ権利を守る必要があるのは表現の自由だけではありません。人権派と呼ばれる弁護士たちはそういう思いで世間やタカ派マスコミから嫌われる人たちの権利を守るべく闘っているのです。この作品での図書隊と同じ方向を向いて闘っていると思うのですが、作者がタカ派マスコミと同じセンスの「人権屋」などという言葉を持ち出すことには驚きます。この5巻と6巻の「別冊」はアニメ化が決まってその宣伝のために書き足されたようですが(文庫版あとがきで「大人の事情」と説明しています)、4巻までの本来のシリーズで図書隊の敵はメディア良化委員会というメディアを取り締まる権力であったのに、別冊では外れものの個人が悪とされ、闘う方向がある意味で外れものを嫌い取り締まりたい権力と一致するように見えます。「人権屋」などという言葉もその中で出てきたように感じられますし、6巻で専らストーカーが悪役・敵となり読んでいて「めちゃくちゃ気持ち悪い」(手塚:6巻247ページ。作者が「旦那」から「後味があまりにも気持ち悪くて」と泣きを入れられたそうです:単行本あとがき)のも、思えばそういった方向性の変化/変節のせいだったのかも(私にとっては、ですが)。恋愛小説としては楽しく読めましたが、そういうところで、なかなか人に勧めるのを躊躇してしまいます。


有川浩 角川文庫
① 図書館戦争 2011年4月25日発行(単行本は2006年3月:メディアワークス)
② 図書館内乱 2011年4月25日発行(単行本は2006年9月:メディアワークス)
③ 図書館危機 2011年5月25日発行(単行本は2007年3月:メディアワークス)
④ 図書館革命 2011年6月25日発行(単行本は2007年11月:メディアワークス)
⑤ 別冊図書館戦争Ⅰ 2011年7月25日発行(単行本は2008年4月:アスキー・メディアワークス)
⑥ 別冊図書館戦争Ⅱ 2011年8月25日発行(単行本は2008年8月:アスキー・メディアワークス)

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