太平洋を望む美しい景観を持つ港町鼻崎町の新興住宅地「岬タウン」に移り住んだ陶芸家星川すみれ、商店街で昔から仏具店を営んでいた義父の後を継ぎ店番をして長らえている当地生まれの堂場菜々子、夫の転勤で鼻崎町に来て雑貨とリサイクルの店を経営している相葉光稀が、商店街の15年ぶりの祭りの実行委員となったことから出会い、すみれが、菜々子の娘で交通事故を機に歩けなくなって車椅子生活を続けている小学1年生の久美香と光稀の娘で久美香に優しく接する小学4年生の彩也子を、自分の作品を広めるためのシンボルとして車椅子利用者を支援するブランド「クララの翼」を立ち上げて、光稀の知人の雑誌に採り上げられて評判となるが、周囲の嫉妬を含む反応、ネット民の反応等から亀裂を生じ…という展開の小説。
ミステリー仕立てではありますが、そこよりも、かなりあからさまに自分本位のすみれと、比較的常識的に振る舞いつつも自分の子どものことになると視野狭窄気味になる菜々子と光稀の思惑、すれ違いが読みどころです。すみれの自分勝手ぶりに呆れつつ、しかし菜々子や光稀も子どものことになるとかなりバイアスのかかった考えと行動を示す様子、さらには当事者の事情などお構いなしのネット民の反応やマスコミ報道が並べられるのを見て、自分も菜々子、光稀レベルには自分本位かも、いや、すみれが身勝手に見えるのは自分もネット民やマスコミのようにその人の事情が見えていないで無責任に論評しているからで、置かれた事情によっては自分もすみれのように考え行動するかも、と思えてくるところにこの作品の真骨頂がある気がします。
湊かなえ 集英社文庫 2018年6月30日発行(単行本は2015年10月、初出は「小説すばる」)
ミステリー仕立てではありますが、そこよりも、かなりあからさまに自分本位のすみれと、比較的常識的に振る舞いつつも自分の子どものことになると視野狭窄気味になる菜々子と光稀の思惑、すれ違いが読みどころです。すみれの自分勝手ぶりに呆れつつ、しかし菜々子や光稀も子どものことになるとかなりバイアスのかかった考えと行動を示す様子、さらには当事者の事情などお構いなしのネット民の反応やマスコミ報道が並べられるのを見て、自分も菜々子、光稀レベルには自分本位かも、いや、すみれが身勝手に見えるのは自分もネット民やマスコミのようにその人の事情が見えていないで無責任に論評しているからで、置かれた事情によっては自分もすみれのように考え行動するかも、と思えてくるところにこの作品の真骨頂がある気がします。
湊かなえ 集英社文庫 2018年6月30日発行(単行本は2015年10月、初出は「小説すばる」)