夜になってふと、こんな詩を思い出した。全部は覚えていないので、詩集をひも解いてみた。
一つのメルヘン 中原中也
秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があつて
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。
陽といつても、まるで珪石か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それてゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました‥‥‥
「さらさらと、さらさらと」の繰り返しのリズム、各連の末尾に出てくる「ゐるので」という韻を踏むような余韻、小石→陽、珪石→陽、蝶→影という三つの繰り返し、蝶の出現と音の喪失、蝶が消えて音が復活‥単純なようでいて複雑な光と音の繰り返し、こんな構造が不思議とすらすらと、それこそさらさらと繋がっていく。
起承転結のはっきりした4つの連ではあるものの、どこかで永遠に繰り返し続いていく雰囲気も漂う。
私はこの不思議な詩が中学生の頃以来、頭から離れない。
一つのメルヘン 中原中也
秋の夜は、はるかの彼方に、
小石ばかりの、河原があつて
それに陽は、さらさらと
さらさらと射してゐるのでありました。
陽といつても、まるで珪石か何かのやうで、
非常な個体の粉末のやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかな音を立ててもゐるのでした。
さて小石の上に、今しも一つの蝶がとまり、
淡い、それてゐてくつきりとした
影を落としてゐるのでした。
やがてその蝶がみえなくなると、いつのまにか、
今迄流れてもゐなかつた川床に、水は
さらさらと、さらさらと流れてゐるのでありました‥‥‥
「さらさらと、さらさらと」の繰り返しのリズム、各連の末尾に出てくる「ゐるので」という韻を踏むような余韻、小石→陽、珪石→陽、蝶→影という三つの繰り返し、蝶の出現と音の喪失、蝶が消えて音が復活‥単純なようでいて複雑な光と音の繰り返し、こんな構造が不思議とすらすらと、それこそさらさらと繋がっていく。
起承転結のはっきりした4つの連ではあるものの、どこかで永遠に繰り返し続いていく雰囲気も漂う。
私はこの不思議な詩が中学生の頃以来、頭から離れない。