★秋蝶の阿吽惑わせ夕空へ 藤井誠三
★狩衣の世へまぎれゆく秋の蝶 鯉沼茂子
ときどき幻想の俳句というものに引き込まれるときがある。謡曲や、新古今の歌が恋しくなる時でもある。過去や異界へ遷移する自分というのをながめてみたいと思う。その入口というものは、植物よりも動物、あるいは動くものであることが多い。蝶もそのひとつである。
この2つの句でも、秋の蝶が浄土や古代の華やかと思われる宮廷世界への入口となっている。ただし俳句はその入口を指し示すだけ。行先について、あるいはそこに対する作者の思いは表現上は省略する。しかしそれは作者によってどういうものか、おのずとわかるものなのだ。それが俳句の不思議でもある。
第1句は、なかなか一筋縄ではいかない人かもしれない。どこかで仏の世界や、仏教世界を、浄土なるものを斜に診ている。それでいて無関係ではいられない心の葛藤がありそう。
第2句、これはたぶん物語世界への傾斜を詠んでいる。ちょっと乙女チック、と言ってしまいそうになるが、謡曲の世界があるのかもしれない。それがわからないもどかしさを感じた。