10月5日が上弦の半月であった。本日は雲の多い夜であるが、半月に見える月がくっきりと鱗雲の向こうに見え隠れしている。本日は旧暦で9月10日なので十三夜にあたる「後の月」は今の暦では11日(金)。台風の影響もあり、この月を見ることができるであろうか。
★失いしことに指折る十三夜 川嶋隆史
★人間の居らぬ絵を選る十三夜 北村峰子
第1句、秋深まった今の頃の月は人を内省的にする。ものおもう季節、寒さに向かう時期である。秋の虫の音も人をもの思いに引きづり込んでいく。私はこんな季節がもっとも好みである。人は得たことよりも失ったことに執着する。それが生きている証しのように失ったものを限りなく思い続けるものである。人間を人間たらしめていることなのだと思っている。
忘れないと生きていけないが、同時に忘れたくないものを大事に抱え込むことも生きるすべである。忘れることと忘れないこと、ともに生きてゆくにはなくてはならないことなのである。
第2句、人間のいない絵、私はこのような絵画を好む。人が描かれていないということは、そこに自分が入り込む余地が充分あるということでもある。
そして人が描かれていても、生きているという存在感のない作品もある。例えばキリコの作品。希薄な人間関係を追い求めたくなる瞬間が連続するとそれは孤立になる。例えば月が人の生気を吸い取るように人間の存在感を無くすような場合がある。
しかし一方でルオーのキリストを描いた作品のように、人間に生気を与えるかのような月もある。
月は見飽きることがない。西行もそう思ったに違いない。