・表紙 「杳子」の森 司 修
「「あんたの描いた木の『杳子』ね、あれ、まだ玄関に飾ってある」といって古井さんは笑いました。」コロナウィルスによる緊急事態宣言の出た翌早朝の夢で、ケイタイの録音機能に喋っておいたものを聞きながら書いたのです。「『杳子』ね、あ、まだ玄関に飾ってある」という言葉は、夢ではなく酒場で会う十回に一度は聞いていました。古井由吉さんは、二月十八日、鬼籍にはいられました。」
・疾病対策の都市史に学ぶ 宮本憲一
「新型コロナウィルスはこの社会のシステムの欠陥を明らかにした。被害の特徴は公害と似ている。公害は年少者・高齢者・障碍者等の生物学的弱者と社会的弱者に集中するので、自主自責に任せず社会的救済が必要である。‥同じく予見の難しい自然災害の予防でとられる「事前復興」対策が検討されてよい。まずは公衆衛生を軸とする医療体制の改革であるが、根底は被害を深刻にした東京一極集中の国土と文明の変革である。」
「超高層ビルと稠密な交通網からなる災害に弱いメガロポリスをを作り上げた‥大東京圏をこのままにすれば、国土の社会経済の破綻は避けがたいことが今回はっきりした。‥「事前復興策」作理、国土の環境を破壊し大東京圏集積を進めるリニア新幹線建設をまず、中止すべきではないか。」
・笑いについて 野矢茂樹
「規範に縛られてわたしたちは生きている。ときには規範を緩める場を設けてやることも大事。‥規範から外れる、ズレることであり、同時に規範に従わなくてはいけないという緊張から解放されることでもある。しかも大事なのはそこに安心感がることだ。‥安心して規範から外れる。緊張から解放されて心身共に弛緩して、笑いという反応が生じる。」
「安心して規範から外れるときに笑いが生じるのだとすると、逆に、笑うことによって、「ここは安心していい場所」というメッセージになる」
・その期に調べれば 藤田真一
「金子兜太氏の遺句集「百年」を送っていただいた。「語り過ぎて臍(ほぞ)かむなり敗戦器」「起きて行きて冬の朝日の横殴り」「歳を重ねて戦火まざまざ桜咲く」‥まるで体内からほとばしり出た生得の語勢を、仮に「俳句」とよんでいるだけのようにも見える。生命(いのち)のことば、といってもいいかもしれない。」
「句集最後の場面、「雪腫れに一切が沈黙す」冬の空高く突き抜ける明るさのうちに、もの音ひとつない、広々とした世界が開けている。」
「「河より掛け声さすらいの終るその日」「陽の柔わら歩き切れない遠い家」末尾の二句である。」
「辞世の句、臨終の吟、絶筆‥」