以前、五十音表の謎というエッセイを書いたが、五十音表についてもう少し考えてみたい。
ア行は、「俺たちは母音で、お前たち子音とは格が違うのだ」とばかりに先頭に君臨している。
カ行は、はっきりとした音であり、かっきり、きちんと、きびきび、くっきりといった印象がある。
ラ行は、ランラン、ルンルンと明るく楽しい響きがある。
それに比べて、ハ行はどうだ。
はひふへほ、と発音してみてください。
なんとも力が入らず、へなへなとなりそうだ。
「ハー」はため息であり、「ヒー」は悲鳴、「フー」はへばった時に出す音である。
特にひどいのが「へ」である。
「へ」と聞いて真っ先に思い浮かぶのが「屁」である。
「へへへ」と笑うのは卑屈で、「へへっ」は平伏するときに、「へっ」は小馬鹿にするときに出す声である。
へぼ、へま、へた(下手)、へん(変)、へっぴり腰など、ろくな言葉がない。
「へ」は印象が悪い音なので、元号が平成に変わるとき、反対する意見があったそうだ。
このように、ハ行は人間に快く思われていない悲しい行なのである。
唯一、末子の「ほ」が、「ほほほ」と色っぽく笑い、ほめる、ほれる(惚れる)、ほっとするなど、プラスイメージの言葉が浮かぶのが救いである。