私が6~7歳の頃、皮膚病にかかったことがあり、父は
「犬城(いんじょう)に粘土を採りに行こう」
と言った。
犬城は種子島の東海岸にあり、海蝕崖が続き、馬立の岩屋という洞窟がある風光明媚なところである。
私の実家からは十数キロメートル離れている。
当時、犬城までの道路は整備されておらず、もちろん自家用車などない時代だった。
遠出するときや重い荷物を運ぶときは、いつも馬だった。
私は馬の背中に揺られ、父が手綱を引いて、山道を犬城まで行った。
犬城海岸の粘土は、波打ち際の崖の下にあった。
私は腰まで海水に浸かってその場所まで行き、父が粘土を採取する様子を眺めた。
かますに詰めた粘土を、馬に背負わせて帰った。
帰りは私も歩き、父は手綱を引くこともせず、馬が歩くのに任せた。
馬は、おとなしく私たちと一緒に歩いた。
粘土を袋に入れて風呂に浸け、泥湯にして入った。
数回入ると、私の皮膚病は治った。
皮膚病に効く温泉成分が粘土に含まれていたものだろう。
犬城海岸には今でも行くことがあるが、今となっては、その粘土を採取した場所を特定することはできない。
犬城海岸。洞窟は馬立の岩屋。(以前撮影したもの)
洞窟内から海を見る。