一昨日の26日、木下恵介記念館で開催された講演とシンポに友人と参加した。第一部は昨年12月に出版された『木下恵介とその兄弟たち』の著者であり、木下ファミリーの一員である木下忍さんの出版記念講演だ。第2部は、恵介の妹・芳子とカメラマンの楠田浩之の子である、演出家の楠田泰之さんとのシンポだった。
学生時代の忍さんを知っているオラにとっては、目立たなくつつましい忍さんが登壇することは瞠目の事件だった。
忍さんは、自分が教師になったのは恵介の「二十四の瞳」の影響であることを告白する。また、恵介やその家族が残した手紙・写真・フィルム・日記などから、恵介を中心とする木下家の優しい思いやりを確認できるし、忍さん自身も小さいころ育ったお互いを大切にする家庭環境が忘れられないという。そうした忍さんの言葉に大きくうなずく二人の若い女性が会場にいた。後でそれは忍さんの娘さんであることが分かった。
第2部に登壇した楠田泰之さんは、テレビドラマの黎明期に開花した「金妻シリーズ」・「毎度おさわがせします」など、多くの脚本・演出にかかわっていた。彼も子どものころから木下家と一緒にいたことで、恵介の作品の根底に流れる人間賛歌・反戦・個性主義のまなざしを体感していったようだ。
木下恵介がテレビに進出していった経過や作品の分析はまだ未解明のように思う。また、作曲家であり恵介の弟の忠司の存在とその影響力もまだまだ知られていない。
本書表紙の右側が忍さんだが、その姿ときょう参加していた二人の娘さんの多感なフットワークのようすが、二重写しに見て取れた。これはまさに、恵介が貫いてきた家族愛・人間賛歌・つつましい庶民の生き方が「憑依」しているように思えた。木下家の心を体現している忍さんは同時に自分の家庭の中でも引き継いでいる見事さは、あらめて人間の優しさと芯の強さを描いた恵介の根源を目の前で見る思いだった。