GITANESのドイツ向けがポケットに入っていた。
それとは無関係に・・・。
「ちょっと気になるジャケットがありましてね・・・」
とW氏は言う。
彼は2週間弱の海外出張で諸々アテンドしてくれた
旅行代理店の人。
印象的な顔立ちで、彫りが深く髭が濃かった。
「職業柄いろんな国を出たり入ったりして
パスポートがスタンプだらけでしょ?で
この風貌なので、結構入国審査で調べられます」
と言っていた。
アハハハと笑ったが、
「いや笑ってらっしゃるけど、SGCさんも
ヒースローで小銃持ったポリスに調べられて
ましたよねえ」
しっかり見られていたようだ。
小集団を引率して各国を飛び回るのはW氏に
とって日常茶飯事で、それぞれの団体の客には
なるべく浅くしか関わらなくしていたそうだ。
雑談にもほとんど一言返すだけだったらしい。
どういう訳か二人で、寒風吹きすさぶ水上バス
の船外で腰掛け、急に打ち解けたのが不思議だった。
お互いに、あまり初対面に近い人とは決して
親しくしないのだが。
ベネチアの夜の水上バス、座席がなくて二人とも
船外に追いやられた結果だった。
デュッセルドルフではかなり自由時間があり、
ゆっくりしていた。
同グループのメンバーがしつこく私に絡みに来たが
それらは軽くあしらい避けていた。
私一人が追加料金で1人部屋だったのが妬ましかった
ようだ。カネ払ってそうすればよかったじゃないか。
その町で散歩していたらW氏があっちから歩いてきた。
で、二人で貧相なカフェに入る。
そして
「ちょっと気になるジャケットがありましてね?」
「どこに?」
「さっき散歩していて偶然見つけた店に。
コーデユロイの茶色のジャケットなんですが、
ちょっとオーバーサイズなのが気に入って。」
「いいね」
「でも買ってしまう踏ん切りがつかなくてね。
SGCさんたちは洋服関係ですよね?」
「一応ね。じゃあこれから見に行きましょうよ」
「いいですか!」
二人でその店に向かった。
(続く)
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