~ 昔、水無瀬にかよひ給ひし惟喬の親王、例の狩しにおはします供に馬の頭なる翁つかうまつれり。日ごろ経て宮にかヘり給うけり。御送りしてとくいなむと思ふに、「大御酒給ひ禄給はむ」とて、つかはさざりけり。(『伊勢物語』83段「小野の雪」より)
「とくいなむ(早くおいとましよう)」の「とく」の意味を答えられない子がいたので、原形の形容詞「とし」を説明しようとした。
お約束ネタだが、「仰げば尊し」の一節を歌いながら板書する。
「思へば いととし この年月 今こそ 別れめ いざ さらば」
「思へば」は「思ふ」の已然形+「ば」だから、「思い起こしてみると」。
「いと」は「とても」、「とし」は「疾し」、つまり「早い」という意味。
「今こそ別れめ」は「こそ」で係り結びするから、「め」は意志の助動詞「む」の已然形。「さあ、今別れよう」という意味だからね。
「疾し」の連用形「とく」が副詞になったのが「とく」だから、「早く」と訳そう。
この段階で、「なるほど『仰げば尊し』は、古典をちゃんと学ぶと意味がよくわかる。よししっかり勉強するぞ!(キラキラ!)、それにしても先生歌上手だ(ウットリ)」という状態にみんななると思っていたのだが、そんな感じではない。
聞くと、「仰げば尊し」を知らない生徒さんがいるではないか。
たしかに、今「卒業式」の歌第一位が「旅立ちの日に」であることは知っていた。
でもまさか曲を知らない子がいるなんて。
いかに自分は古い常識にまま生きていたのか。新ネタの開発が急務だ。
「大御酒(おほみき)給ひ」の部分は、ふつう「お酒をお与えになろう」もしくは「お酒を下さろう」と訳す。
これを、「お酒をたくさん与えよう」と自分としては訳してみたいのだが、裏付けとなる語釈が見つからない。
つまり「小耳にはさむ」の「小」とか、「横紙を破る」の「横」とか「高扇を使ふ」の「高」と同じように「大」をあつかってみたいのだ。何かほかの用例見つからないだろうか。