埋もれた名作映画を発掘して上映し、ミニシアターの先駆けの一つとして知られた東京神保町の映画館「岩波ホール」がコロナ禍の影響で運営が困難のため、今年7月の閉館を決め、54年の歴史に幕を下ろす。1968年に多目的ホールとして開館後、総支配人の高野悦子さんらが世界の埋もれた名作映画を発掘して上映する「エキプ・ド・シネマ」の活動を展開し、大手の配給会社が扱わない作品を独自に選んで上映する「ミニシアター」の先駆けとして映画ファンに親しまれ、これまでに65か国の271作品を上映してきた。
幼い頃、映画好きの母親に連れていかれた思入れの深い劇場である。中でも宮城まり子監督主演の「ねむの木の詩(1974年)」「ねむの木の詩がきこえる(1977年)」はやたら印象深いのだが、当時まだ10歳前後の私にとってはなかなか難解な内容で、申し訳ないが苦痛だった記憶の方が強い。母の好きな映画には「旅芸人の記録(1979年)」「木靴の樹(1979年)」をよく挙げていたが、それも当劇場で上映されている。一緒に行ったのだろうか?
ただ映画好きはしっかりと受け継がれている。感謝を込めて閉館前に一度訪れようと思う。