先月に続き、歌舞伎座で「三月大歌舞伎(昼の部)」を観た。
【みどころ】
一、女鳴神(おんななるかみ)松永弾正の娘鳴神尼が、父の仇敵である織田信長に恨みを抱き、雨を降らさぬ行法を用いて龍神を滝壺に封じ込めてしまいます。龍王ヶ峰の岩屋に引き籠る鳴神尼のもとへ、美男の雲野絶間之助が訪ねて来ると、心奪われた鳴神尼は夫婦固めの盃を交わします。鳴神尼が色香に惑っている隙に行法を破ろうとする絶間之助ですが…。荒事の名作『鳴神』を女方で演じる趣向の作品です。豪快な押戻しが登場し、幕切れを盛り上げます。
二、傀儡師(かいらいし)傀儡師が、お七吉三の恋模様や牛若丸と浄瑠璃姫の恋物語、船弁慶などの人形芝居を、自らを人形に見立て次から次へと踊り分けます。大道芸の人形遣い、傀儡師を題材とした風俗舞踊で、それぞれの登場人物を表現する演者の技量が求められます。洒落た味わいのひと幕をお楽しみください。
三、傾城反魂香(けいせいはんごんこう)近江の六角家、高嶋館に召し出された絵師の狩野元信は、御家乗っ取りを企む家老不破道犬の悪計によりしばり付けられます。窮地に立たされた元信が自らの肩先をくい裂き、襖に血を吹きかけて虎を描くと、絵から虎が抜け出てきて難を逃れます。一方、館の外では六角家の息女銀杏の前を守護するために、弟子の雅楽之助が駆けつけます。〈高嶋館・竹藪〉
山科の里、師匠である土佐将監の館へ、絵師の又平と女房おとくが訪れます。土佐の名字を授かりたいと願い出ますが、言葉が不自由な又平に代わり、口達者なおとくが懇願するも聞き入れられません。絶望した又平は今生の名残に、手水鉢を石塔と定め自画像を描くのですが…。〈土佐将監閑居〉
絵師が起こす奇跡が鍵を握る、近松門左衛門の義太夫狂言の名作。又平とおとく夫婦の絆が描かれる、おなじみの「土佐将監閑居の場」に、前段となる二場を加えた上演をご堪能ください。
今回初めて二階桟敷席での鑑賞ですぐ真下の花道を観るには前かがみにならなければならないが、靴を脱いで座椅子にもたれかかり、掘りごたつ式の足置きは何とも粋だった。
第二幕・傀儡師では幸四郎単独の舞で魅了し、第三幕・傾城反魂香では幕間を挟み、主役が幸四郎から白鴎への親子リレーとなり、ストーリーの中心が一変するのだが、絵師又平(白鴎)と妻(猿之助)との夫婦の絆が実に素敵だった。男性目線としては第一幕・女鳴神で裏切られた尼(孝太郎)の鬼の形相には背筋が凍り付き、第三幕では甲斐甲斐しい妻に憧れることだろう。ちなみに銀杏の前役の中村米吉の可愛らしさに惚れ惚れしてしまった。
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