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エゾシロチョウ交尾拒否行動に関する考察
エゾシロチョウ♀の交尾拒否の主なシーンは 1. 羽化直後交尾中のとき
2.交尾後まもない♀が吸蜜中、ないし静止中のとき
3. 産卵中の♀に対するもの
4. 交尾も産卵も既に終了した♂♀の交尾強要・拒否行動 といった4つのパターンがある。
いずれも♂は必死に交尾をせまるが当然ながら♀に交尾する気はまったくないので100% 交尾は不成立に終わる。
もっともよく観察されるのは 4. のパターンだが、初夏の道東なら、それこそどこにでも見られるありふれた光景だ。
このとき必死の♂に対して♀は羽根を大きく開いて、まれにモンシロチョウのように尾端をぴっと短時間上に上げることがあるが思い切り挙上することは少ない。
この際♀は、♂の前足で前翅付け根あたりをはげしくひっかれ羽根の鱗粉が落ちてスケスケの羽根になりながらも、あまり気にもせずしばしば平然と吸蜜を続けている。
交尾後の♀に対する余りにも空しい♂たちの行動は♀にとって一見したところは迷惑千万そのものに見える。
特に パターン3. の産卵行動中の♀にしつこく交尾を迫る♂の行動などは、一体どのような意味があるのだろうか。
しっかり産卵する葉を決めた♀は最初は慎重に時間をかけて一卵ずつ産んでゆき、少しずつピッチをあげながら1-2時間かけて膨大な数の卵を1層のシート状に産み付ける。
この間、♂は絶え間なく交尾を迫って産卵中の♀に接近し、その都度やたら派手派手しく羽根をばたつかせる。
とうとう♀は産卵を中断しいつもの交尾拒否行動をとる。♂があきらめて飛び去ると、またおもむろに産卵を開始する。と思うまもなくまた別の♂がやってくる。
最初は見ていてイライラした。なんとひどい♂だろうか。やっとの思いで産卵にまでこぎつけたのに♂のじゃまに閉口する♀がかわいそう。いい加減にしろ。♀はこんな馬鹿な♂たちの激しい妨害にくじけず産卵を完結させてほしい。
しかし、長いこと、これらのシーンを見ているうちに まったく別の考えが私の頭に浮かんできた。
神様は無駄なことはしないというが、これら♂のしつこい行動は、実は重要な意味があるのではないかと考えた。
3.の産卵中はもちろん、1.の羽化直後交尾中の時、2.の交尾後間もない♀が吸蜜中や葉の上で休んでいるとき、これらの場面は実は♀が最も天敵( クモ、アリ、ハチ、小鳥? その他 )に襲われやすい時にほかならない。
しつこいほど絶え間のない♂の一見無意味な交尾を求める、やたらはではでしい行動は、この危険な瞬間に天敵が♀を攻撃するのを躊躇させる効果があるのではなかろうか。
この考えはやがて私の頭のなかでは確信に変わった。
そう考えれば♂たちの一見すると馬鹿馬鹿しく見える行動や しつこい♂のじゃまにもくじけず産卵を続ける♀や、♂にはげしくせまられながらも悠然と吸蜜を続ける♀の様子も説明がつく。
パターン4.は特別な意味はなくまったく惰性で行われているに過ぎない。皆さんがもっぱら見かけるのものの多くは、このパターン4.であろう。
一見、理不尽に見えるアオムシコマユバチ繭塊を命がけでまもりぬくエゾシロ幼虫のふるまいも、あたかもおろかしく見える♂たちの交尾をせまる行動も、実はエゾシロチョウ個体群維持のための精緻な仕組みの一環なのかもしれない。
産卵も終わり、もうしつこい♂の接近もなくフキノ葉上で休む♀。実はもっとも天敵に襲われやすい瞬間ではあるまいか。
♀へのちょっかいかけもしなくなりのんびりと吸蜜中の♂。
葉上で休む♂。
エゾシロチョウノ交尾拒否行動に関する記事は一応これでいったんお休みですが、生涯でこんなにまじめにエゾシロチョウを観察した経験はありませんでした。
本当に実に多くのことを知りました。 これまではひたすら珍蝶、稀種を追いかけ回すことが多かった蝶人生ですが、観察も捨てたものではありません。
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