暑さや忙しさにかまけて畑から目をそらしていた。
そろそろ秋ジャガの植え付けシーズン。本格的に畑を作らないと間に合わない。
お友達に催促されて、畑の土が見えなくなるほど盛り上がった草取りから始めた。
ひと鍬入れて草の根を起こしたとたん、厳しいやぶ蚊がまとわりつく。文字通り、追っても払っても執拗に、カッターシャツやズボンにへばり着いてくる。
こっちだって肌を露出しているのは顔や首の部分だけ。なのに厚かましいヤツは耳の横で「ブ~~ン」「チュ~~ン」と唸る。ご馳走にありつけると勘違いしたものか、死に物狂いで襲ってくる。無理もない。
ヤツらにしてみれば、間もなく終わる自分の命のはかなさを知って、草の葉蔭で静かに余生を送ろうとしているところへ、いきなり住処(すみか)を襲う人間の横暴。
「黙って見過ごしてはやぶ蚊の名がすたる・・・」と思ったかどうか知らないが、兎に角徒党を組んで対抗する。
しかも、うまくいけば大好物の人間の生き血が吸える。戦闘的になるのもうなずける。
“ 泰平の眠りを覚ます上喜撰 たった四杯で夜も眠れず ” とは江戸末期のペルー率いるアメリカ海軍が4隻で浦賀沖にやってきた来た時の江戸狂歌である。
これ以来、攘夷か開国か、国内を二分して大騒ぎになりやがて明治維新となって行く。
風もない、雨も降らない穏やかな天候の葉蔭で、泰平の夢をむさぼっているやぶ蚊にとっては、まさに迷惑千万な闖入者に違いない。
ただ、やぶ蚊も刺す相手を心得ているという。先ずは幼い子供のやわ肌。ついで女性、それも年齢を見分けるらしい。そして若い男。いよいよ最後に年老いた男の肌という順番を持っているそうだ。作業したのは小生一人。他にターゲットがなかったから、この身の周りにまとわりついたのか。それとも、まだいける血かもしれないと勘違いしてくれたのか。
いずれにしても、刺されることもなく草取りを終え秋ジャガ畑は出来上がった。メデタシ!