『祈り』
❝ 一年の計は元旦にありと言われるように、迎春準備には毎年神経を使う。
慣れた作業のはずなのに、忘れ物対策に時間が要るようになった。
それでも鏡餅は手作り、それ以外は買い物で準備万端整え、先ずは神棚の手入れとお飾りを。
続いて仏壇の掃除からお供え物や花生けなどで仕上げる。
年改まって手を合わせる元朝、特別に意識するわけでもないのに、神棚には強い父の面影が重なり、
仏壇には優しい母の面影が重なる。
亡き父や母の見守りによって生かされていると信じて、今年も家族揃って明るく元気な一年になるよう神仏に祈りを捧げる ❞
元旦に目が覚めると、枕元に真新しい白い下着の上下が並べてある。隣には、時に毛糸のセーターであったりジャンパーなど、防寒用の新品の着るものが並べてある。
清らかな下着を着けて気持ちを改め、風邪など引かず元気な1年を過ごすように、という両親の言葉にはしない気持ちが、下着に重ねられている。
子供ころの元朝は、おおよそこんなものであった。出来がよかろうとそれなりだろうと関係なく、何がしかの期待を持たれる正月を迎えたものだった。
そんな思いは、特段に感謝だとか恩を受けたとか言うのではなく、ごく普通に親が6人の子供をしっかり守り育てた、その中の一人がオレなんだよね~という軽い感情ではある。しかしそれは、自分の命が続く限りこの頭から離れない感情でもある。
元気な80才として迎えた年末年始に、少し思いを込めて神棚や仏壇の正月準備をした。そうして迎えた元朝は、ご来光の写真撮影に震えた手でお灯明をともし掌を合わせたら、ふと頭に浮かんできたのが、冒頭の「祈り」であった。 252字の葉書随筆にまとめて書き残した。
世の中にはもっと大きな祈りを捧げて、人間の良心を呼び覚ましたいことは山ほどある。が、今自分に出来る小さな祈りではあっても捧げたいと思った次第。