五十年前の尾瀬紀行(その7)
よもや、こんな所にこんな軽装で、而も女性を連れた山男に出会うとは思わなかった。それが何と小出小学校の教員、星野徹次郎夫妻であった。呆れたりたまげたり、後で聞くと彼等は新婚旅行のコースを此の尾瀬に求め、而もこの難コースの鷹之巣須原口から栃尾又に出ようとしているのだという。
流石に変わり者の変わった行動には開いた口が塞がらない。奥さんも偉いもんだ。下りの道とは言え、あの三条の滝の手前の急な坂は角度六十度はあろう。坂を木の根、藤蔓につかまり乍ら、あの靴でよく下りたものだ。偉いものだ。
星野氏は翌年の六月女の子が生まれたので、記念に「ぎん子」と名付けたと、小出の人から聞いた。良い記念であったろう。
(続く)