飲み会によせて 励ましてくれるつもりなのだろう
友人というのは いいものだ
そういや仁慶が美智留さんに次の行動とりあぐねてた時も 女性達は集まったっけ
俺のこんなバタバタもいつか笑い話にできるのだろうか
集まり場は駅の北側のカラオケ・ルームだった 帰りの車が呼びやすいかららしい
行くと野球帽に皮の上下 夜なのに黒サングラスの仁慶が もう来ていた どういうセンスで私服選んでいるんだか 映画「ポリス・アカデミー」のブルー・オイスター(ハード・ゲイの集まる店)へ行けば モテそうだ
「よっ」栄三郎が手を上げる こちらは濃い色の上着に黒いシャツを合わせてる なまじイイ男だけに堅気に見えない
そしてパーカーにトレーナーの俺
案内された部屋で飲むモノとツマミ頼むと 早速仁慶は歌う曲を入れる
「こいつのお経さ 歌ってるみたいって評判なんだぜ」 栄三郎が人の悪い笑みを浮かべる
「お経ソング 新しいジャンルだな」と俺
仁慶は先頃 紅白で話題を呼んだ DJ OZMAなるモノの賑やかな歌を歌っていた
やっぱ わからん奴だ
特に何か言うわけでない 相談するのでもない ただバカ言って騒ぐだけ それが嬉しくて楽しかったね
いわば学生時代に帰ったみたいなノリで
そうしながら半分は 早智子さんのことを 考えている自分がいる 二時間を過ぎる頃 橋本の携帯が鳴った
「迎えに来てくれ―って」
マイクを置いて仁慶も「そろそろ行くか」
「迎えって何処へ」尋ねると 食えない二人は「ここの入口」と答えた
時間差で女性達は先に他の部屋へ入っていたそうな
少しお酒が入ったか 頬紅潮させた早智子さんがいた
「じゃ史織ちゃん今晩借りるわね」と珠洲香さん 幼稚園の男の子一郎 史織ちゃんより一つ下の女の子亜依香ちゃんと 栄三郎ンとこは二人の子持ちだ
亜依香ちゃんは背が高いので 史織ちゃんと同じ年に見える
「いいな史織ちゃん あたしもお泊まりしたい」
これは仁慶とこの慶美(よしみ)ちゃんだ 仁美(ひとみ)ちゃんと双子で史織ちゃんと同じ年だ 亜依香ちゃんと同じ年で将来美男僧になる予定の明智
「そういうわけだ 頑張れ聡」バンと肩叩いて橋本は珠洲香さんと子供のところに
仁慶は双子を両手にぶら下げる 美智留さんが「門限なしだからね」と明智ちゃんの手を引きながら言う
それぞれの家族が慌ただしく呼んだ車に乗って帰っていくと 独りもん同士 早智子さんと俺が残された
困った俺は「映画観ようか」そう言った
同時上映ありなら五時間は一緒にいられる
通り渡ってすぐの映画館 パンフレットを早智子さんに買う
一部二部一挙に・・・て掟破りみたいな公開だった
映画観てると 映画以外の話題はなくてすむ
さすがに 五時間は疲れる
映画館隣りのビルの一階 24時間営業のレスト喫茶に入る
「ハードだ・・・」学生時代以来だ
「午前二時ですもんね」 早智子さんも伸びをした
コーヒーにミルクを多い目に入れた
「あの・・・」
言いかけた早智子さんがまた唇を噛む
「夜書いた手紙は出さない方がいいって文を読んだことがある 夜は感情のバランスを失わせるそうなんだ」 目を伏せたまま 早智子さんが更に何か言いかける
声を被せるように言った「決定的なことを聞くのが俺は怖いんだ」 「・・・・・」
判ったというように早智子さんは小さく頷いた
目を外に向ければ 雪が降っている
もう・・・春なのに・・・・・
三月の忘れ雪
コーヒーを飲み終え 店の外へ出る
車を拾おうと数歩先に出た
後ろから腕に指が差し込まれ巻き付き ぎゅっと縋ってきた
「そのままで聞いて下さい」
俺の腕に頬寄せ顔伏せて早智子さんが言う
指が震えていた
「いいんですか・・・本当に本当に」
自分でいいのか?という意味なのだと・・・それが判り 俺の足は止まった
「もし 本当にいいんなら いいんなら」
言えない言葉の代わりに雪がふってくるようだった
しんしんと ただ しんしんと・・・
「そんなに簡単に気持ちは変わりはしないよ」 震える体を 腕で包む 早智子さんは逃げなかった
互いに それ以上 言葉が見つからず 触れる雪の冷たさも感じず ただ抱き合っていた
俺が倒れた時に 気持ちは揺らいでいたのだと 後になって聞いた
いるのが当たり前になっていた なのに―
そして いかに頼っていたかに気付き恐くなったのだと
あと俺が告白した時に どんどんと壁を打ち破られたようだったと
「好きなのだ」その気持ちに気付いたら逆に身動きとれず 自分からデートにすら誘えず 友人達に頼んだと
ところで俺達の結婚が決まるとご近所の商店街は 恋結びトイレット・ペーパー 両思いメロン
しあわせケーキ ハッピーオレンジ
などなど売り出した
どうもよってたかってオモチャにされている気がしないではないが
ま・・・いいか
そんなおせっかいで賑やかな商店街で暮らせて 俺と家族はシアワセだ