夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「緑の国に住む人は―3―」

2007-03-13 21:41:43 | 自作の小説

車を降りるとカシムが亜依香を アリブが史織をエスコートする

男二人はその後ろをついていく

白亜の宮殿に臆することなく 娘二人も一郎も堂々と歩いていた

無言のざわめきが彼らを取り囲む

何かが一行に向かって投げられる

宙返りして受け止めたそれを口に咥えた一郎は 投げた相手を間違えず優雅に一礼した 「光栄です 美しい方」

紅い薔薇を投げたのは ベールで目しか見せていない隣国からの客人 タリアだった

「あなたは あなたはいったい・・・」

「市民講座でトランポリン覚えた ただの男です」

くるりと踵を返し一行に追いつく

カシムは亜依香に言った「多芸なお兄さんだね」

「単なる目立ちたがりですから 特技は影絵で童話語りすることです」

亜依香は無表情だ

「クールだね」

やがて カシムの占める場所へ辿り着き それぞれの部屋へ案内された

着替え終わると一郎は廊下で 小川を待つ 「できるだけ一人にならないほうがいい ここは完全に平和ではないようだ」低く言った

「先生~~~」

怯える小川に「迷子にだけはならないように」とデコピンをする

小川の方が年上なのだが

晩餐用に用意されたドレスのサイズがぴったりな事に 若い娘らしくない笑みを 亜依香は口の端に浮かべた

度胸の良い兄妹だった

その容姿からモデルを頼まれることも多く
何より 亜依香は 負ける姿を見せるのが大嫌いなのだった

手早く身支度を終えると 隣の史織を気遣い部屋へ出向く

部屋の外で警備していた若者に 「こんばんは素敵な夕べね」

兄一郎が言う無駄なところへ愛想がよい―をふりまいて

艶やかな笑みに 声をかけられた若者は言葉を失った

「亜依香ちゃん綺麗~」史織は感嘆の声をあげる

「ヘアメイクは任せて 東洋の真珠の素晴らしさで 魅了してやりましょ」 軽口叩きながら素早くメイクの仕上げをし 髪をセットする

慶美や仁美と一緒にバイトで 美智留の手伝いしてたから慣れたものだ

「ね 気をつけましょう もともとここへ来ることになってた先輩達が休暇のスキーで事故に巻き込まれたのも 怪しい気がするわ」

「亜依香ちゃん?」

「誰かが史織ちゃんを この国に来させたがったのかもしれない たぶんカシム王子の弱味を握りたい何者か」 「・・・」

「そんな顔しないで 兄も私も 相手におどろかされっぱなしは大嫌い なのが似てるんだから」 亜依香は異性には向けない優しい笑みを浮かべた

「家に電話したら 商店街ごと 押し寄せてきそう」

「そうね でも電話しないと よけい心配かけるわ」

おせっかいで賑やかな近所の人々を少し懐かしく思い出す二人だった

案内された部屋には若い娘が待っていた

「あたくしカシムお兄様の妹のリュディーネです」

美しい黒髪の娘はどことなく史織に似ていた 18才なのだと言う

「縁談とか大変でしょう?」

「あたくしは何も」困ったようにリュディーネが微笑む

やがてカシムの弟アラディンも姿を見せた 兄カシムによく似た容貌ながら控え目な青年は 物静かに微笑む

「もう一人 弟がいるのですが オルクは外に用事があったようです」