何処で人の一生は決まるのだろう
変わるのだろう
憧れていた俳優の新番組宣伝を兼ねたトークショーに 同じくファンの友人に誘われ 精一杯のおしゃれをして行った場所で 結月(ゆづき)は女優にならないかとスカウトされた
彼女は好きな俳優に近付く為に 芸能界に入った
しかし彼女をスカウトした事務所は 仕事の為に関係者の寝室へも彼女を導いたのだ
初めての夜を彼女は 全く嫌いなタイプの男に渡した
そんな事を繰り返し 彼女は少しずつ仕事を増やしていった
そして とうとう憧れた俳優が主演するドラマのゲストとして 出演できる事となった
ロケ現場の宿泊地に 彼女の最初の男も関係者としていて {夜のデート}を当然の権利として誘ってきた
その関係で彼女の事務所に仕事を回してくれている有力者
憧れ続けてきた人の前で 自分はどういう女なのか 曝すことになる
薄く彼女は笑う
好きでもない男に抱かれ 部屋を出て
ホテルの庭にいる憧れの俳優の姿を見る
あのそばへ行けない体になってしまった
こんなに好きなのに自分の体は 他の男の手垢に塗れている
あと三日でロケは終わる
彼女は唇を噛んだ
共演する場面は明日で撮影が終わる
そうしたら
そうしたら
同じ空気は吸えたのだ
それでいい
そばまでは来れたのだ
他に何を望む?
共演する場面での撮影が終わった夜
彼女は金を使っていた
眠りに落ちかけていた俳優は ぎょっと上半身を起こす
下半身は優しい力と唇に捕らえられていた
手管の前に男は どうしようもない
少し後 呑みこみ女は出ていく
濃い眉を寄せ 男は その謎に頭を悩ませる
次の日の夕方
自分の出番は全て終わった彼女はひっそりと出ていこうとしていて 腕を掴まれる
「説明を」
彼女があんなにも憧れる俳優がそこにいた
「あなた 私みたいな女に触ってはいけないわ」
腕を外しながら 彼女は言った
場所を変えて
店の個室で 彼女の前には香り高いコーヒーが置かれている
俳優の前には紅茶
乗る車以外は英国風が彼の好みだった
「僕は芸能界に入る前の君を知ってる
新番組宣伝の集まりで ちょっと言葉を交わした 」
彼女は軽く目を見張った
「可愛いイヤリングだ 揺れ方がちょうちょみたいだね」
彼女は俳優の言葉を言う
今度は俳優が目を見張る
「あの時 もっと話していたら 君の人生は変わっただろうか」
「皮肉だわ 本当に皮肉
私はあなたが好きでした
少しでも近くに行きたくて
スカウトの話を受けました
それはだけど 私をあなたの傍らにいられない体にもしたのです
それでも私は 私なりに あなたを知りたかった
ただの男なのだと 自分に知らせたかった」
言葉をきって少しの沈黙
「ごめんなさい 失礼な事をしました
私は何処かで線引きをしたかったのです
かなわぬ恋なら 叶わない理由を自分で作ろうと 」
かける言葉を思いつかず俳優は沈黙を続けるしかない
彼女は言う
「私は私の体は いろんな男の いわば お古です
それでも あなたの近くまで 来れました
他の世で 私はやはりあなたに焦がれるだけで一生終わった記憶があったような
そんな気がするのです
今度はただ見ているだけは嫌だと思いました
あなたの近くに行きたいと
ただ それだけでした」
そして
「さようなら」と彼女は出ていこうとする
「もし!」俳優が言う
「ずっと会いたかった 君の事は心に引っ掛かっていた
今度の共演が何かのきっかけになればと」
寂しげに彼女は微笑み 「有難う」そう言った
その仕事を最後に彼女は芸能界を引退し 隠れ住んだ場所で 最後は水を飲むことすら やめて死んだ
俳優は「今度は君が自殺するのか」と言った
奇妙な記憶
奇妙な夢
繰り返される死
訣別(わか)れ
どちらかに残る不確かな夢の記憶
―今度こそ 君をつかまえる もう少しだったんだ―
彼らの恋は いつか形を変えて叶うのだろうか