【社説】:①メルケル独首相 長期政権を躓かせた難民政策
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:①メルケル独首相 長期政権を躓かせた難民政策
13年間、ドイツ首相の座にあり、「欧州の盟主」と呼ばれたメルケル氏の凋落(ちょうらく)が鮮明になった。欧州政治の行方が不透明さを増し、混迷を深めることが懸念される。
メルケル氏が、与党・キリスト教民主同盟(CDU)の党首から退任する意向を表明した。党勢の低落が止まらず、最近の二つの州議会選挙で連立与党が議席を大きく減らした責任を取った。
首相職は2021年の任期満了まで続けるという。全うできるかどうか、疑問視されている。
メルケル氏の権威失墜と、長期政権の躓(つまず)きを招いた最大の要因は、難民政策である。
15年に中東・アフリカから欧州に難民が大量流入した際、メルケル氏は人権理念を強調し、寛大な受け入れ策を推進した。治安悪化などを心配する国民の反発を呼び、「反難民」を掲げる新興右派政党の躍進につながった。
イスラム教徒が多数を占める難民の受け入れは、文化的な摩擦を伴い、政治・社会問題化している。政権与党間でも、難民問題を巡る不協和音が絶えない。理想主義を掲げたメルケル氏の当初の見通しは甘かったのではないか。
CDUは、12月の党大会で新しい党首を決定する。中道のメルケル路線を継続するか、厳格な移民・難民対策で保守色を強めるかが、党首選の争点となろう。
どの候補も手腕は未知数で、円滑な移行には不安が残る。メルケル氏が有力な後継者を育ててこなかったのは否めない。
既成政党が退潮し、ポピュリズム(大衆迎合主義)政党や右派政党が伸長する地殻変動は、欧州各国に広がっている。独仏英の3か国が連携して欧州連合(EU)を動かし、地域を安定させる体制は大きく様変わりした。
英国は、来年3月にEUから離脱する。ポピュリズム政権のイタリアは、財政拡張策を巡り、EUと対立する。ポーランドやハンガリーは強権政治を続け、EUは制裁を検討している。
EUと域外との国境管理の強化やユーロ圏統合も課題として残る。メルケル氏がレームダック(死に体)状態になり、EUのまとめ役を果たせなくなれば、懸案の解決はさらに困難になろう。
トランプ米大統領が「自国第一主義」を前面に押し出すなかで、メルケル氏は自由貿易や多国間主義を重んじる姿勢を貫き、存在感を示してきた。国際秩序の動揺を防ぐためにも、ドイツはその路線を維持すべきだ。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年11月05日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。